蜘蛛の糸
「ははぁ……やられっぱなしってのも……面白くねぇなぁ……」
そう言いながら笑う烈虎の右腕に握られ天気いるのは、あの長大な槍。
「おらぁっ!!」
大木の様な巨腕から、両腕を用いても扱う事の難しい長大な槍が吐き出された。
ボッシ!という、空気が破裂する音。
投擲された槍の速度は、猿羅の膂力と烈虎の身体を扱う才能が合わさる事で目で捉える事の出来る領域を簡単に飛び越えていく。
「…………」
空中にいる羅世蘭は上手く身動きをする事が出来ない。
(……この速度の槍……無地流は無理だな……。ならば)
足場は既に用意されている。
トッ……。
羅世蘭は早朝の明けの空、暗闇を引き裂く太陽を背に空中に立った。
「……いや、それもそうか……」
烈虎は羅世蘭が起こした不可思議な現象、その「種」を簡単に見破った。
糸だ。
限りなく透明に近い糸の上に、羅世蘭は立っていた。
(あの罠だけじゃないだろう……、羅世蘭は、限界まで使うだろう……)
あんな罠の起動1つだけに、無駄遣いをするはずがない。
時間と技術を。
羅世蘭は少し糸の上を動くだけで簡単に槍をかわす。
「だがまぁ……見えたぜ」
烈虎は、羅世蘭のペースには嵌まらない。
羅世蘭の複合忍術は防御に回れば死への1本道だ。
その道から外れたければ――攻めるしかない。
(まぁそんな御託もあるだろーがぁぁ!!)
「単純に性に合わねーんだよ!守りに回るってのはなぁ!!」
烈虎も、羅世蘭に続くように跳んだ。
明るくなり始めた空に身を踊らせ、羅世蘭と同じ高度まで即座に達し
「はは、よく見えるぜぇ、キラキラ光ってよ……」
糸の上にスタリと着地した。
右腕と左腕の歪な程の大きさの違いは、糸の上でバランスを取るのに大きな障害となるはずだが、烈虎は持ち前の才能でそれを蹴飛ばす。
「ひゃは!」
動いたのは、烈虎。
まるで当然と言わんばかりに糸の上を地面と同じ速度で走り、左手に蛇腹を構える。
ふぁるん、ふぁるん。
(……これは……)
羅世蘭は気付く、烈虎は糸の上を走りながら手首を使い最小限の動きで自分に近い場所に張られた糸を切り刻みながら迫っていることに。
(糸上戦は望んでいない……と。地上戦……または、空中戦に持って行きたい……。と言った所か)
羅世蘭の持つ糸は、蜘蛛井の物と比べるとどうしても数段品質が落ちたものになる。
(「無駄遣い」は避けたい……。だが烈虎の策にも乗りたくない所だ……)
「!」
チリッと、羅世蘭の頬を何かが掠めた事で、羅世蘭の思考は中断される。
そして掠めた位置から、ドロリと温かい液体の感触が羅世蘭の頬を伝った。
(っ……、これは、蛇腹か……)
羅世蘭は猿羅の槍、そして烈虎の身体能力に圧倒され、もう1つの驚異を忘れていた。
不規則な軌道、計りにくい間合い、僅かな力で異様な速度を叩き出す、蛇腹と言う武器を。