剣 VS 槍 (改稿版)
前話の「剣 VS 槍」の改稿版です。前話は消そうか迷ったのですが残しておきます。
人称:三人称
時間:夕方
場所:草原
登場人物:A(団長)、B
Aの性別:女
Bの性別:男
Aの武器:剣
Bの武器:槍
END:Aの勝利
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「······お前は私がここで止める」
Aはそう言うと、どこか悲しげな視線をBに向ける。
「この力はもう団長でも止められねぇよ」
そう言って、Bは黒く禍々しいオーラに包まれた槍に視線を向ける。
Bが槍へ向けていた視線を元に戻すとAはBに問いかけた。
「どうして、そんな力に手を出したんだ?」
唐突な質問に少し驚いた表情を見せるB。しかし、すぐに質問の意味を理解すると、ふっ、と笑った。
「そんなの、団長が一番よく分かってるでしょ?」
少しおどけたように答えるBだが、その目は全く笑っていない。
しばらく二人の間には沈黙が続いた。すると、この空気に耐えられなくなったのか、Bがついに喋り出した。
「······俺が弱いからですよ、団長。俺は何も守れやしなかった。街のみんな、同じ騎士団の仲間たち、そして······家族も」
そう言うとBは顔を顰めながらも、さらに言葉を続ける。
「俺は何も守れやしなかった!何故か、それは俺に力が無いからだ!」
Aは何も言わずにBを見つめ、Bの話に耳を傾ける。
Bは深く息をつくと、少し間を置いてからまた喋り出した。
「······あとは分かりますよね? 俺は力を欲するあまり、この封印されていた槍を宝物庫から盗んだ。でも今じゃ槍の力に飲まれてこのザマですよ」
そう言って、Bは自嘲気味に笑った。
すると、ずっと黙って話を聞いていたAが口を開く。
「そんな偽物の力で自分を偽ったって何も変わりはしない!」
Aはそう言い放った。
しかし、Bは呆れた様に言葉を返す。
「まあ、才能に恵まれた人間、特に団長みたいな人はそう思うでしょうね。でもね、俺みたいな凡人が夢とか希望とか、そんなものだけで真っ当に生きられるとは思わないで欲しいな」
そう言うとBは、話は終わりだと言わんばかりにBは槍を構える。
Aも覚悟を決めたのか、腰に刺さっている剣を鞘から引き抜くと、両手で正面に剣を構える。
「お前に救いが無いと言うのなら、この私が責任を持ってお前を終わらせてやるッ!」
この言葉が合図となって、二人は互いに動き出した。
まず最初に攻撃を仕掛けたのはBだった。
Aの接近を許すまいと、Bは槍のリーチを使った先制攻撃を仕掛ける。最初に足元を草ごと横薙ぎに払い、その勢いのままAの右肩に向けて振り上げる。
Aは、Bの攻撃を躱しながらも接近を試みる。
Bは槍を振り切ってしまい、体勢をすぐには直すことが出来ない。Aはその隙をついて自身の右側に流れて行った槍をさらに右側へと打ち払う。
Bは勢いのついていた槍先を剣で打ち払われ、体勢を崩してしまう。
その隙にAは駆け出すと、一気にBの懐へと肉薄する。そして、無駄のない動きでBの首元へと剣を振り下ろした。
だが、人間の動きとは思えない速さで体勢を立て直すと槍の柄の部分でAの剣撃を受け止める。
「なッ!」
Aは驚きを隠せないようで、思わず声を漏らす。
しかし、すぐに視線を戻すとAは口を開く。
「······これがその槍の力なのか?」
「そうだ······よッ!」
BはAの剣を押し返すと、後方へと跳躍して距離をとる。
が、Bは途中で下がるのを辞め、地を蹴った。
「ハァァアァァァッ!」
Bは槍をAの顔めがけて鋭く突き出した。
それを首を捻って躱すも、Aの頬には赤い線が一筋走った。
しかし、Aはそれを気にも止めず、剣の面の部分に槍の柄の部分を這わせる様にして逸らしながら、Bへと接近する。
槍の優位性はそのリーチの長さだ。Bはこのままだと自分が不利になると判断し、Aの剣から槍を離すとバックステップで後ろへと下がり、Aとの距離を置く。
二人は、互いを牽制しつつも相手の隙を見逃さぬようにと視線は相手から逸らさない。
すると、突然Bが槍の先端を上空へと向け、片手で槍を掲げた。
「いやー、やっぱり団長は強いや。俺だって、結構強くなったつもりだったんですけどねー。でも、これ以上ここで止まっている訳には行かないので、そろそろ奥の手を使わせて貰いますよっ!」
Bがそう言い切ると、掲げていた槍に変化が起こった。
槍の先端に黒いオーラが収束し、球体を生み出している。この力には痛みが伴うらしく、Bは痛みに顔を顰めながらも槍を掲げ続ける。
しばらくすると、黒いオーラの収束が収まった。
黒い球体は、槍の先端で静かに浮かんでいる。
Bは、勝利を確信したように笑みを浮かべ、技名を叫ぶ。
「《ダーク・ショット》!」
槍の先端が少し揺れたかと思うと、黒い球体から分裂するように黒球がAに向けて打ち出される。
普段の戦いでは起こりえないような特殊な攻撃だがAは冷静に対処していく。
Aに吸い込まれるように飛んでいく黒球を全て寸の所で躱している。それどころか、徐々にBの方へと接近して行く。
この光景にBは驚きを隠せない。
何せ、今までこの攻撃を使って倒せなかった者は居なかったからだ。
「まさか、この攻撃をただの人間に躱されるとは夢にも思いませんでしたよ」
Bは驚きながらもAに称賛の言葉を投げかける。
AはBの言葉など気にも止めずBへと一気に接近し、首元へ剣を突き出す。
Bは槍の柄を使ってAの剣を受け止める。
「お前のその槍は、心の闇の分だけ使用者を強くする。つまり呪いだ。そんなもので自分を壊すのは辞めろッ!」
「······団長に何を言われたってもう止まることは出来ない。その身が朽ち果てるまでの炎を燃やし続けろ、ってコイツが言っているからな」
Bは槍の方へと視線を向ける。
「······そうか。やはりお前はここで止めるしかないようだな」
Aは覚悟を決めたようにBを真っ直ぐと見据える
「ああ······いつでも来いッ!」
この声を合図に二人は動き出す。
二人の間に武器の性能差はもう無い。勝敗を分けるのは技と心の強さだけだ。
Bは人間の動きを超越した動きで一瞬にしてAへと迫ると、槍先が見えぬ速さで突きを繰り返す。
Aの力はBには遠く及ばない。しかし、長年の経験と戦闘勘、そして何より、Bを救いたいという思いが体を更なる高みへと引き上げる。
Bは目にも止まらぬ速さで連撃を繰り返し、Aはそれを剣で全て受け止める。
「ッ!······どうして当たらないんだ!」
何度も攻撃を繰り出す度に、Bの顔には困惑の色が浮かぶ。
「お前を育てたのは誰だと思っているッ! お前の動きが、分からない私ではないぞ!」
Aはそう叫ぶと、Bの突きに合わせて剣を下から振り上げた。
Aの剣はそのままBの槍の刃の部分へと吸い寄せられる様にしてぶつかり合う。
Aが槍の先端を狙った事によりBには相当な衝撃が伝わったはずだ。それでもBが武器を手放さなかったのは騎士の教えがあったからだろう。
しかし、その一瞬の隙を突いてAは槍を掴むとBを引き寄せる。そして、鳩尾に蹴りを入れてBを仰向けに倒した。
AはBに歩み寄る。
「······もう終わりにしよう」
Aは淡々と告げた。
Bは負けたにも関わらず、何かを考えるように空を見つめる。と、突然、BはAに問いかけた。
「なあ、団長」
「······何だ?」
「俺って、今から殺されるのかな?」
「······そう······だろうな」
「なら、さ。団長が俺を殺してくれよ」
───何故?
そう問いかけそうになったAだがBの目を見て思い出した。
───私がお前を終わらせてやる───
そう言ったことをBは忘れてはいなかったのだ。
静かにAはBの胸元へと剣を突きつける。
「最後に言い残す言葉はあるか?」
「······そうだなぁ······貴女が団長で良かった、かな?」
そう言ってBは満足したように笑みを浮かべた。
「······汝に光の導きがあらんことを」
AはBの胸に剣を突き刺した。
地平線の向こう側へと沈んでゆく夕日が、Aの頬を輝かせた。