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剣 VS 剣


人称:三人称


時間:昼間


場所:闘技場


登場人物:A、B、審判、観客(民衆)


Aの性別:男

Bの性別:男


Aの武器:剣

Bの武器:剣


END:相打ち


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これより、A対Bの試合を始める。構え!」


 審判の合図で二人は互いに剣を構える。

その身に鎧と兜を纏うAは、大剣を上段に。

 フードを羽織っているBは重心を低く、少し短めの片手剣を構える。

 すると、AがBに問いかける。


「······お前は鎧をつけないのか?」


「ああ、俺の持ち味は速さなんでな。そんなに重いもの付けてたら、ただの木偶の坊になっちまうよ」


「······そうか」


 AとBは軽く会話を交わすとまた互いに向き直る。


 闘技場から溢れんばかりの声援と熱気に包まれる民衆とは裏腹に、互いに見つめ合う二人の視線は酷く冷たいものだった。


 お互いを探り合う二人。

 それを見つめ、固唾を呑む観客。


「試合開始!」


 今、戦いの火蓋が切って落とされた。

 観客は指笛や歓声で会場を盛り上げる。


 互いに向かい合った状態から、しばらく膠着状態が続いていた二人に変化があった。

 まず最初に動き出したのは、Bだ。

 いい事を思いついたと言わんばかりに口角をつり上げるB。


 すると、BはAに向かって真っ直ぐに駆け出し、そのままAに肉薄する。


「シッ!」


 Bは鋭く息を吐き出すと、まずは腕試しと言わんばかりに剣を横に薙ぎ払う。

 それを、流れるように自身の剣でBの剣を逸らすA。


「この程度の攻撃で倒れてくれるほどお前はヤワでは無いようだな」


「······当たり前だ」


「いや、むしろこの程度で倒れられてしまっては、こちらの面子が丸潰れだからな」


 陽気に話しかけるBとそれに淡々と受け答えするA。


「······次はこちらから行かせてもらおうか」


「ああ、いつでも来い!」


 Bの声を合図に本格的に戦いが始まった。


 AがゆっくりとBとの距離を詰めて行く。

 すると、Aは砂埃を上げながらBの方へと駆け出した。


「ハァァアァァァッ!」


 Aは剣を上段に構え、そのまま振り下ろす。

 咄嗟にBは後方へと跳躍し、Aの剣を躱す。


 すると、すかさずAは途中で振り下ろすのを辞め、剣先をBに向け喉元へと突き出し、追撃をかける。

 連続で繰り出されるAの攻撃に対して、Bは素早くしゃがみ込み冷静に対処していく。


「クッ!」


「その程度の速さじゃ俺は殺せねえぞ!」


 そう叫ぶと、Bは姿勢を低くしたまま横に走り出した。

 Aは姿勢を正すと、走っていったBの様子をうかがう。


「こっちからも反撃させてもらうぜ!」


 突如、Bが進行方向をAに向け、勢いそのまま全速力で向かっていく。

 もちろんAはBの攻撃に備え、剣を構える。


 BがだんだんとAに近づき、今にも二人の剣と剣が触れ合うという刹那、Aの目の前からBの姿が消えた。

 Aは困惑し、周りを見まわす。すると、困惑するAの顔に影がかかった。

 そう、実際には消えたのではなくBがAの頭上へと飛び上がったのだ。


 BはそのままAの頭上で体を前転させながら、鎧と兜の隙間に一撃を叩き込む。

 闘技場には甲高い金属音が鳴り響いた。


「う、くッ···」


 Aは兜からくぐもった呻き声を上げ、体をふらつかせている。

 しかし、体に外傷は無く、兜の右側面が少し陥没しているだけだ。


 Aはふらつく体を奮い立たせ、後方に立つBへと体を向ける。


「クックック······、やるなお前」


 可笑しそうに笑みを浮かべながらAへと喋りかけるB。さらに、Bは言葉を続ける。


「まさか、咄嗟に頭をずらして兜で防ぐなんてな」


 Bがそう言うと、今までほとんど喋らなかったAが兜の中で笑った。


「ああ、長年戦ってきた勘ってやつかな。不思議と体が動いてくれたよ」


「ならば、その長年の勘とやらに感謝しなくてはいけないな。おかげで、まだまだ楽しめそうだよ」


 お互いに不敵な笑みを浮かべ、再度剣を構え直す。

 二人が言葉を交わす事はもう無い。あとは、剣で語り合うのみだ。


 まず最初に仕掛けたのはAだ。長年の鍛錬で磨き上げたであろう、洗礼された剣の軌道。Aの剣はBをひたすらに狙い続ける。


 まず、右上から左下への振り下ろし。次に敵の左肩を狙った振り上げ、そのまま流れるように首元への横薙ぎ。それを反転させたり緩急をつけ、Bが対処出来ぬように何度も繰り返す。


 この、連続攻撃にはBも回避が追いつかず所々に傷を作る。

 Bは一旦、後方へと回避すると砂を掴み、Aの兜の隙間へと叩きつける。


「ゲホッ、ゴホッ」


 兜の中で咳き込むA。目にも砂が入ったらしく、Aは兜を脱ぎ捨て目を擦る。

 待ってましたと言わんばかりにBは音もなくAの背後へとまわると剣を逆手に持ち、背の高いAの首筋を狙うために飛び上がってそのまま剣を振り下ろす。


 が、Aは後ろで聞こえたBの砂を蹴る音に反応し、右足を軸に背後で飛び上がっているBに大剣の横薙ぎを振るう。


「ウォォォオォォォッ!」


 Aの大剣で打ち据えられたBは声にならないような唸り声を上げ、Bはくの字に吹き飛ばされる。


「ゔっ······」


 Bはそのまま地面に叩きつけられ、横たわって動かない。


「······勝負あったようだな」


 Aは慎重に、横たわるBに近ずいていく。

 Bは右腕で体を庇ったらしく、通常ではありえない方向へと右腕が折れ曲がっている。


 Aは仰向けに横たわるBのすぐ横に立つと無言で剣を逆手に持ち、Bの心臓を突き刺すために剣を振り上げる。

 と、突然Bが目を開けると、懐に左手を突っ込み、短剣を取り出すとAの顔面目掛けて投げつける。


 咄嗟にAは顔を逸らすも、Bの短剣が頬を掠める。


「クッ!······まさか隠し武器を持っていたとは」


 するとBがAの方を見つめながら喋り出した。


「今の剣には、熊でも一発喰らえば即逝っちまうような猛毒が塗ってあった。お前は死ぬんだよ」


 そう言うとBは、クックック、と笑いさらに言葉を続ける。


「あと少しの命、お前はどう使う?」


「······ならば、お前に敬意を表して私自らがお前を葬ろう」


 足元がふらつき始めているAだが、その声ははっきりとした意志を持っていた。


 Bは笑顔で目を閉じ、仰向けに横たわっている。

 Aは震える手で剣を持ち上げ、そのままBの心臓へと剣を突き立てた。そして、剣から手を離すとそのまま仰向けに倒れ込み二度と起き上がることは無かった。


 二人の死に顔はとても満ち足りた笑顔であったという。



「試合終了! 結果、相打ち!」


 その瞬間、少し静まり返っていた闘技場に再び熱気が舞い戻る。

 観客は皆、死闘を尽くし戦った二人の戦士に歓声と指笛を送った。






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