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異世界へ転移したようです


「つ、疲れた~~」

「ポチ置いてってごめんねぇぇ。リード持ちながら、水運べないって思ったんだよ」

「うぉぉぉん」


あれから、河原に戻ってポリタンクやペットボトルを回収して、来た道を戻って家へ帰り付いた。

しかし、家に戻ったとはいえ、安心できない。


「こんなガラス戸じゃぁ。簡単に破られちゃうわよねぇ。」

「夜になっても灯りは漏らさない方がいいよね…」


すでに夕方である。

「煮炊きの煙とかも、見られたら、危ないかもなぁ」


と、いうわけで、腐ってしまわないうちに御節を食べてしまう。出かける前に残った冷凍庫の中に残っていた氷をいれたクーラーボックスに入れておいたのでまだ大丈夫そうだ。

牛乳や豆乳なども先に飲んでしまう。


家に帰ったら汲んだお水を煮沸消毒しようと思っていたがあんな生物がいるんじゃ煙をあげるのも怖い。

かといってカセットコンロを使うのもガスがもったいない。ここでは補充できるかわからないからだ。


「トウユーへはもういけないな」

「怖くてもう二度と嫌よぅ」

「やめた方がいいよね」

幸い、持ってこれたものもあった。理津子の手品で。


「ゴブリンがいるんじゃねぇ」


光平が、とうとうその名前を言った。


「ゴブリン?」


「父さんも母さんも映画の『指輪物語』みたろ?あれにも出てきたやつだよ。多分そいつ、それに出てきた生き物に近い奴だと思う」


「河原にいたアメーバみたいなのは、スライムだと思う」


万理も続けて言う。


「わたし、そっち方面は詳しくないけど、今期、それ系の作品の放映が多いからね。知ってる」


「で、母さんの手品は『アイテムボックス』とか『ストレージ』とか『無限倉庫』とか言われる奴だと思う。」


「ああ、倉庫とかアイテムボックスならわかるわ。スマホで農園作るのやってたし」

「スライムとかわかるぞ。お父さん世代はFFもDQもあったからな」


親二人もコンピューターゲームやソシャゲ位は経験あるらしい。今時の親なのだ。


「私から言わせると、弘夢の携帯の検索機能がつかえるのも、そっち系くさいと思う」


「そっち系?」


理津子はやや前のめりだが、八郎は渋い顔をしている。


「俺達に起こった事って異世界転移とか言われている現象だと思う」


「だとすれば、呑気にしている訳にはいかないな。ゴブリンのいる世界なら…」


日本の一般的な住宅は、寂びた剣や棍棒を振り回して、家を壊して押し入ってくるタイプのファンタジー生物に対して万全の備えはない。


「ゴブリンやスライムだけならいいけど…」


弘夢の言葉に、ゴクリと誰かが唾をのみ込んだ。


「急いで家を強化しよう」


 シャッターや雨戸を下せるところは全ておろし、板きれもないので、ガラス窓がむき出しのところには段ボールを張った。


敷地の周囲にぐるりと穴を掘り、木を切り倒す道具もないので柵は理津子がトウユー南浜店舗から『手品』で収納してきたカートを積み上げる。そしてその外側ではセンサーで光るライトを配置した。

家が小さくてよかった、そうはじめて畑中一家は思ったのだった。


掘った穴は浅いし、バリケードは高さがそれほどない。

心許ない、大変心許ない出来上がりだが、他にどうすることもできないうちに真っ暗に暮れてしまった。

一家は河原で拾った骨に刃物を括りつけたものや、灯油で火炎瓶ぽいものを、蝋燭を点けた灯りの下で自作もした。

弘夢などは、よくしなる木の枝をとってきてボーガンぽいものをスマホで検索して作っていたようだが、いざという時に使えるかどうか。


その夜、一家は居間で固まって寝た。

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