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非常時につき


「お邪魔しまーす」

「…真っ暗だな、中」

「待って、携帯だすよ」


 畑中家の5人は割れた正面玄関の扉からおそるおそる店内に入る。

 正面玄関付近はガラス窓のせいで明るいが店内の奥の方は暗い。

 弘夢の携帯の灯りで店内の様子がぼんやりと見えてくる。


「うわぁ、福袋だぁ。これ、今日か明日に販売する予定だった分だよね」

「楽しみにしてた人、かわいそう」

「それを言うなら、訳がわかんない所に飛ばされた俺らの方がかわいそうだろ」



「よし、懐中電灯を手にいれたぞ」

「これ、元に戻ったら請求されるかなぁ…」

「それはその時に考えればいいよ。今は非常時だからさ。それに先客に荒らされた後みたいだし。」


それぞれが、懐中電灯を持って照らした店内の中は酷いものだった。

青果コーナーや精肉コーナーのものは食い散らかされ、陳列棚のものは投げおろされて床に散らばっている。


「これをやったのが人間だったらいいんだけど」

「この様子から言って、その線は薄そうだよ」

「たとえ人間だとしても、こんな風にしちゃう相手とは会いたくないなぁ…」



八郎は気をひきしめた。


「何か、動物の毛みたいなのが…」

 弘夢が不安そうな顔をして陳列棚についた赤茶色の毛束を指さす。

「熊とかかもしれんな」


「なんか、長居しない方がよさそう。」

「手早くすませるぞ」


「さっきのアメーバ―っぽいのといい…河原の骨といい。何なのよ。ここ」

「光平は薬、自分で治療もできるな?弘夢と俺は水、食料。」

「私と万理は生活雑貨ね」

「持てるだけ持って帰るぞ」


「今更ながら家に残してきたポチが心配ね」

「急ぎましょう」

「帰ったら家の周りに柵か何かで防御を考えた方がいいかも」


 畑中家の5人は手分けして店内に散らばった。


「皆、気をつけろよ」


 八郎は小さな声で注意をした。


 スーパーの袋を何重にもしてそこに缶詰やペットボトル類をつめる。弘夢がカートと買い物かごを持ってきたので、カートに積み上げれるだけ積んで、売り場の紐で縛る。

 食料品売り場を荒らした何者かは、缶詰やペットボトル入りの水を食べ物とは認識しなかったらしい。

けっこう無事な物が多かった。

 骨にささった矢じりの事といい、どうも文化的な連中ではない気がする。

というか十中八九、野生動物かなにかだろう。

 

 カートで運べるのは店内だけだろう、川まで道なき道を歩いた感じからいってカートを押していける気がしない。何とかして家までもっていく方法はないだろうか。


 集合場所に決めたレジ前に集まると、妻の理津子が何故かニコニコとしている。


 「理津子、荷物は?」


 「ちょっと母さん手品を覚えたのよ。見てて」


 子ども達のこんな時に何を言ってるんだ?と言った視線をものとせず。理津子はレジ前の菓子の陳列棚の前に立つ。


 「しまっちゃえ!!」


理津子がそう言ったとたんレジ前にあったチョコクッキーの箱菓子が消える。


「でてきてー」


すると理津子の手の平の上には先ほどのチョコクッキーの箱が。


「え?どうなってるの?」

「うそだろ」

「マジか」


子ども達が口々に言う中、八郎は呆れて言った。


「理津子、今はそんな場合じゃぁないぞ」


ところが。長男の光平がそれを遮った。


「待って。親父。母さん、どれくらいそれ出来る?」


「うーん、わかんないけど、まだまだ入りそう?」


「じゃぁお店で無事なもの、出来るだけしまえる?」


「やってみる」


どういうことだ?と八郎が光平を見る。


光平と弘夢、そして万理はお互いに顔を見合わせている。


「親父、家に帰ったら説明するけど、荷物運びは母さんにまかせて、俺達は持っていくものを厳選しよう」


「私達が動くから、父さんは見張りでもしててよ」


万理にそう言われ、わけがわからぬまま、口をぽかんと開けて八郎は立ち尽くすのだった。




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