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トウユー

 光平が周囲を油断なく見回している中、自分の持ってきたポリタンクに早々に水を汲み終った弘夢は、再び携帯を弄っていた。

 この摩訶不思議な事態になる前からの癖であり、むしろ携帯を触っていないと落ち着かないのだ。

 そうしている内に携帯のマップに新たな文字が浮かんでいるのを見つける。


「何なに、リプレ、トウユー南浜店??ええ??」


 それは隣の隣の町くらいにあった全国展開チェーン店の郊外型店の名前である。


 「もしかしてアレか?」


光平が指を指す方向には密林の中の一角に明らかにそぐわない人工物。


「「とうさん!!あれ!!!」」




息子達が何か騒いでいるのに気がついて、八郎は、捌きかけていた手元の鯵から目を離した。


 そのとたん、


 ぐぃっ、持っていた鯵ごと手が何かに包まれ水の中に引っ張り込まれる。


ばっしゃーーん


派手な水音とともに川に落ちる八郎。


「パパ?大丈夫?えっ!きゃっ」

「ひゃっ??何?なんなの??」


同時に万理と理津子からも悲鳴があがる。


石の間からぶよぶよとした透明な物体が這い出してきて、飛びついてきたのだ。


「いや~~何これ気持ち悪いっ」


「そのヒラメはウチのよ!何するのっ!このっ離れなさい!!」


理津子はさきほど拾ったカレイに張り付いているぶよぶよを拾った木の棒で叩いている。

カレイだと指摘されたのを覚えていないようだ。


「かあさん!背中に…ちっ」


理津子の背中にへばりついたぶよぶよを引きはがそうと光平が手をかけると、そいつから透明な液体が吐き出され、その飛沫が腕にかかる。


「うわっっちぃぃ!!」


「川で洗って!、兄さん!そいつ酸みたいなのを吐くよ!」


光平の腕からは煙があがっている。彼は走っていって川の中に上半身からダイブするかのように飛び込んだ。


「真ん中の丸い核みたいのを狙え!」


八郎の声に弘夢は光平が放り出していった鎌を拾うと振り回した。


「このっ!どっか行け!えいっ!」


水からあがった八郎も参戦し、包丁でぶよぶよの核のような物を刺して壊し、しとめていく。


「よくもやりやがったな。」


びちゃ、びちゃと水音をたてて、光平が川からあがってきた。

全身濡れ鼠になった光平の目は坐っている。そのジャケットの上着の腕の部分はまるで焦げたように変色し、穴が開いている。どうやらお気に入りの服だったようだ。


「きぇぇぇぇぇ!!」


その両手には河原で拾ったと思しき硬そうな棍棒が握られている。


「きぇぇぇぇぇ!!」


「きぇぇぇぇぇ!!」


他の家族がどん引きする中、光平の無双が暫く続いた。


10数分ほどの戦闘が終わると、河原で動くものはいなくなった。


息荒く、暴れまくっていた光平もさすがに疲れたのか座り込む。


「あーあ、鎌も包丁もボロボロ…」

「光平の、それいいね、丈夫そう」

「見せて見せて、白くて綺麗ねー」

「…でもなんかそれ、骨っぽくない?」


 包丁も鎌もさっきの騒動で刃どころか金物部分が完全にいかれたようだ。

 得体の知らない生物に襲われたのに、身を守れそうな武器らしい武器がない事に畑中家の面々は不安を覚えた。


「あの辺で拾った、まだあったぞ」

「…拾ってこよう」

「…私も」


光平がその棍棒を拾ったあたりには似たような白いものがたくさん転がっていた。


「これ、骨だよね。」

「しかも、でっかい」

「…こっちに頭蓋骨っぽいものがあったけど…」


そうして全員で何となくその白い物を拾って並べてみる。


「…竜?なんか恐竜の中の翼竜みたいなんだけど」

「でも、空を飛ぶ翼竜ならもっと骨がすかすかじゃない?これ密度けっこうありそうだよ」

「こんなに重くて飛べたのかな?」


その時、万理がきらりと光る何かを見つける。


「ねぇ、これ矢じりに見えるんだけど…」


「…」

「…」


「喉の部分の骨の間に挟まっていたんだけど…」

「……」

「少なくとも銃じゃなく弓矢で狩りをする知的生命体はいるようだね、兄ちゃん」

「それが友好的な生き物ならいいんだけどな…。ってちくしょうひりひりする」


「家に帰って手当する?」

美津子が心配そうに光平の腕にハンカチをまく。

「薬箱を持ってくるんだったわ」


「あっちの方が近いと思うんだよね」

弘夢が、指さす方向には人工的な建物が。


「…リプレトウユー南浜店?」

「薬局、入ってたよね」




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