廃村にたどり着く
「この人の腕の傷は何者かの噛みあとのようだし、近くにまだいるんじゃないか?その何者かってのが」
「でも、このまま置いておいても野生動物に食われるんじゃない?それは気の毒すぎるというか」
「埋めてやるべきだろうなぁ…」
「ちゃんと深く埋めるか火葬にしてやんないと、掘り返されそうじゃん?」
「うーん、あまりこの場に長くとどまるのは良くないと思うがなぁ」
光平と八郎は悩んでいた。
この倒れている一見騎士風の男は何者なんだろうか。
八本足の馬も人懐こいし、ここに置き去りにするのも気がひける。
「どうもこのお馬さんたち、馬車から離れがたいみたいなんだよね。」
「軽トラでけん引すればついてこないかな?」
「うーん。泥棒と間違えられないか?」
万理と弘夢も悩んでいた。こういう時どうするのが正解なんだろうか?
「とりあえず、馬車に乗せて引いていこう、この馬車がどこに向かっていこうとしてたかわからないが、戻る道は、この轍を辿ればわかるだろうし、馬はついてきたければ、ついてくるだろう。」
必殺先延ばしを選択し、遺体の肩と足を二人で持って運び馬車にのせる。
はずれかけた扉も、簡易に修理し、中身が飛び出さないように荷物も積み直した。
そしてロープで馬車と軽トラを繋ぎ、そろそろと動かす。
車輪が壊れていなくてよかった。
案の定、馬は、馬車のあとを追いかけてついてきた。
しばらく進むと、傾きかけた物見やぐらとおぼしき物が見えてきた。
「廃村だろうな」
「廃村?」
「見てみろ、随分な荒れ方じゃないか」
村の周囲にはぐるっと木の塀と思しきものが取り囲んでいたようだが、今では倒れたりして塀としては役にたっていないようだ。
周囲は雑草に覆われ、門のところのかがり火を炊いたであろう場所には倒れた支柱があるのみだ。
トラックを止め、降りてみる。
村の中に八郎を先頭に足を踏み入れる。
石摘みの分は壁が残っているが、屋根は落ち、木戸は家の内側へもたれるように倒れかかっていたり
壁すら残っていない柱だけの家々。
底の抜けた鍋っぽいものや、農作業用の道具の朽ちたものが転がっていて、かつてはそこに生活者がいたことをうかがわせる。
朽ちた家畜用の小屋。
飼葉をいれたとおぼしき木の器や、馬や羊をつないだ錆びた金属製の金具がついたまま転がっている支柱。
「…ゴブリンの村じゃなさそうだな」
「たしかに、そういう心配もしなきゃ…だよね」
「あ、井戸があるよ」
「水がくめるかな?」
村の中央とおぼしき広場に井戸を見つけた、万理と弘夢は井戸にかけよった。
「水を汲む道具がないね」
「待って、バケツを母さんに出してもらってくる」
上から 八郎が覗き込む。
「ん?何か今、動いたような?」
「ほらロープと、バケツ。」
駆け足で戻ってきた弘夢からバケツを受け取り、しっかりとロープに結わえる。
上から投げいれると、かすかに何かの音がした。
「水…じゃなさそうだね?」
「待って、懐中電灯」
上から照らすが、はるか下の方にかすかに黒っぽい物が見えるだけ。
「枯れ井戸?」
光平がかすかに緊張したおももちで、持っていた白い骨をかまえた。
「なんか泣き声?ん?猫みたいな?」
その時、がっと、バケツを結わえたロープが井戸の中に動いていった。
「わっ!ロープが落ちちゃう?」
万理があわててロープを掴み、弘夢もロープを掴んでぐっとふんばる。
「何か、ロープを引っ張ってる??なに??」
その時、八郎が叫んだ。
「人だ!人がいる。中に落ちているんだ!」




