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スライム狩り

「ふーっ。ふーっ。ふーっ」


 その晩、理津子は熱を出した。


「おい、理津子、しっかりしろ」


 足に受けた傷からくる発熱だろうか。息も荒く、目もうつろだ。


「母さん、しっかりして」


 ちなみに家の中である。


 さすがに何処ともしれない森の中で地面でごろ寝とか出来ない。

 脆弱な現代人である。

 そして八郎は枕が代わると眠れない質であった。


 あれから出来る限り早く、あの現場から立ち去り、今は平原のような場所へ出ている。

 そこへ家を出し、理津子を寝室のベッドで寝かせたのだ。


 ゴブリンの矢のささったふくらはぎは膨れ上がり、熱を持って膿みはじめていた。

 毒でも塗ってあったのだろうかと一家は恐怖した。


 さすがに何の毒か分からない上に血清などある訳がなく、手をこまねくより他なかった。


「俺、トウユーに行ってもっといい薬がないか見てくる」


 立ちさりかけた光平のTシャツの裾を理津子が掴む。


「…危ないから、…やめて…ちょうだい」


 意識朦朧としているはずなのに、それだけははっきりと言い切った。


「だけど…」


見ていられない。光平がおろおろと言いかけるが、父である八郎も理津子と同意見であり首をふる。


あの時は光平の機転で逃げのびたが、あの数と襲撃してきたゴブリン共と比べて数の多さだけでも十分に危機感を抱かせるものだった。


「家族がバラバラになるのは避けた方がいいって言ったよね?」


 弘夢が必死で、傷の手当について検索しながら言った。


「僕が着いていくよ」


「待て、危険だ。」


 家族が揉めている中、万理はホウロウの厚い鍋を持って家の外へ出ていった。


 万理の首もとの傷はかすり傷だったのもあり、熱も出ていない。

 だが、矢に毒がぬってあったのだったら、自分も何らかの症状が出ているはずだ。


 家の外は森の中ほど暗くはなく、星明りで見たことのないひざくらいの高さの草が風になびいているのが見える。

 月のような天体が3個、中空に光を放っているのをみるとやはりここは地球ではないのだなと改めて感じられた。


 見回せば、家の周囲をぐるりと積んだカートの柵のむこう、謎バリアの外側にアンデットが何体か佇んでいるのが見えた。


 前回は怖くて、ろくによく見なかったが、しげしげと見てみれば、今夜の死体はまだフレッシュな状態らしい。


 恰幅のよさそうな身体に、よさそうな生地の服を着た中年男性と、軽装の男性、それにドレスを着た女性が二人ほど。親子だろうか?

 何よりも武装していないのが気にいった。

 

 ひとたび、深呼吸をして、鍋を足元に置く。


 万理が謎バリアから一歩足を踏み出すと、彼らは緩慢な動きでわらわらと寄ってくる。

 だが万理の近くに近づいたとたんにふいに硬直し、動きを止めるとハラハラと崩れていく。


 謎バリアの周辺の近づいてきたアンデットを全て消し去ると、万理は首もとの傷のあった場所に手をやった。


 「やっぱり…」


そうつぶやくと、彼女は鍋の中身を慎重にその辺にまきはじめた。




 八郎は決断を迫られていた。


このまま理津子の回復を手持ちの抗生物質の投与で様子を見るか、何らかのアクション…トウユーまで戻り、効きそうな薬類を取ってくるか。


 はたまた患部を切り落とすなどの大胆な処置をするべきか。


 前者は手遅れになる可能性があり、次の案では当然危険生物との戦闘が予想され、最悪は死亡、けが人の量産などミイラ取りがミイラになる可能性が多いにある。


 大胆な処置は却下だ。家族の誰もそのような胆力を持ったものなどいない。


 「ポチと俺とが出るというのでどうだろう?」


 トウユーまでの行き帰りの間、無事に戻ったとして、ここには万理とけが人の理津子が残る。

 アンデットには素晴らしい謎の力を発揮する万理だけれど、ゴブリンのような危険生物とは戦えないだろう。

 そうなると動けない理津子を守って、この家に籠城するにも、一人ばかりの戦闘員では足りない。

 現状男3人がかりでも厳しいと思わざるを得ないのだ。

 何よりも息子を危険な場所へ行かせたくはない。


 八郎が鍋の蓋を胸と背中にくくりつけ、スキー用の厚いジャンプスーツを引っ張り出して、息子達に止められていると万理が外から帰ってきた。


 母の手にキリのようなものを握らせ、その手を握り、鍋の中のものを突き刺す。

 突き刺す。突き刺す、突き刺す。


 「…万理、何を?」


 その異常な姿に、八郎は問いかけた。


 「スライムを採ってきて、母さんに仕留めさせているの。レベルアップさせるのよ」


 一通り、鍋の中のスライムを始末してしまうと、万理は再び立ち上がった。


 「ぼやぼやしないで手伝って!!」


 その一言に、男3人は台所へ鍋を求めて走った。





 「鍋は蓋付きのがいいわ。餌は昨日拾った小魚ね。こいつで釣って、魚を取り込んだ状態でそうっと鍋にこうしていれる。下手に刺激を与えると酸を吐くけど、獲物を消化しはじめると、動かなくなるみたいだからそこが狙い目ね」


 上手にフライ返しで、鍋にスライムを次々とすくいとる。

 数匹を鍋に入れたところで、家に戻り、理津子の手をとって、核を錐で突く。


 「本当はアンデットの方がレベルアップが早そうなんだけど、あんなの家にいれる訳いかないし」


 そもそも謎バリアで敷地には入ってこれないようだから仕方ないのだが。


 家族総出で、付近一帯のスライムを狩る。

 時折、牙が異様に出たネズミや、耳かと思ったらノコギリのような角をはやした兎っぽい動物などは例の白い骨で殴って撃退する。


 「あ、っポチ!だめじゃないか!」


 知らないうちにポチが自分で狩ったと思われる小動物の肉を口にしていて叱りつけるが、昨日からの騒ぎでロクに食事もとっていなかった事を思い出す。


 「ちゃんとポチの餌はあげてたのに…」


 もともと食いしん坊で食事制限をしていたから、目の前の生肉の誘惑に勝てなかったようだ。


「…ポチが大丈夫そうだったら、このノコギリ兎の肉も食材候補にしよう」


 数羽とれた兎も縛って腰に下げネズミはスライムの餌とすると大きなスライムも採れはしめた。


 結局明け方近くまで一家はスライムを採って家へ運ぶという事をし続けた。


 


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