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森の死闘③

 光平は自分自身に驚いていた。

 身体が軽い。


 自分達は、人里を求めて見も知らぬ山中を移動中に、緑色のファンタジー世界ではお馴染みの雑魚キャラであるゴブリンの奇襲を受けた。


 先のとがった木の棒のような物が飛来し地面にささったのを見て振り返ったところ、こちらを狙うゴブリンの射手を見つけた。


「っ!ゴブリンっ!何か投げてきた!!!」


 自分と父親は素早く木の陰に隠れられたが、後続の3人がもたもたしている。

 弓につがえた矢がまだこちらを狙っているのに気がつき、地面の小石を土ごと掴むと投げつける。


 小石まじりの土は思ったよりも遠くまで飛び、射手であるゴブリンがひるんだ。


  ちらりと母を見ると蹲っている。あれでは的にされてしまう。


 光平は河原で拾った、何かわからない生物の白い骨を構え走り出す。


 踏み出した足にぐっと力を込めると、今まで経験したことのないような瞬発力が生まれた。

5~6歩駆けただけのような気がするが、すぐにゴブリンの射手に肉薄していた。


「きぇぇぇぇぇ!」


 奇声と分かっているが、雄叫びをあげ光平はゴブリンに向かって白い骨を振り切った。

 

 助走をつけた上で大きくふりかぶった、光平の長い手で振りかぶられた白い骨はゴブリンの頭部をとらえるとともに、ゴキッという音をさせてその首を反対側へと捻じ曲げた。


アドレナリンがどばっと出た気がする。

光平の目はゴブリンの手から弓矢が落ちたのをとらえた。 


「弘夢!右と左から別の奴がっ!!」


妹の声にずざざざと音をたて着地を決めながら左右の方向を確認すれば、別のゴブリンの姿が。


弟がゆうべ手仕事で作っていたボーガンでねらっていないゴブリンの方へ、むかう。


 「きぃぃぃぃぇぇぇぇ!」


 雄叫びをあげれば、そのゴブリンは周れ右をして逃げ出そうとした。


「がぅがぅがぅがぅ!」


 ポチが先に回り込んで吠えたてて足止めをしている間に逃げはじめたゴブリンに追いつく。


 ポチは決して今まで噛んだ事のない犬だ。

 マナースクールでも、歯をあてないように厳しく躾られている。


 「あんな生き物噛んだら病気になるからな!噛むなよ。俺にまかせろっ!」


 大きくふりかぶって1度目は避けられたが、グギャグギャ言って唾が飛んできたので思わず殴り倒していた。


「汚いだろっ!この野郎!」


光平としては、軽く振り払ったつもりだったが、おおげさな位、そのゴブリンは吹っ飛び、岩に頭部をぶつけると動かなくなった。


「殺っちまったのか…。でも、殺ってもいいよな?こいつ等も殺る気だったし」


白い骨でつついて様子を見る。死んだふりではないようだ。

念のため、触りたくはなかったが、手首で脈をとったり顔の前で手をふったりして息を確かめる。


 「つーかこいつら、哺乳動物的な生存確認て有効なのかそもそもがわからん。しかし鼻もあるし目もあるし口もある。とすれば呼吸はしている生き物なんだろうな」


 鼻からは緑色の液体が流れている。


「やべぇ、こいつら緑色の体液してやがる。ヘモグロビンねぇのかよ。どうやって生命活動してるんだ」


 目の端で、弟が射たボーガンの矢が、もう一匹の顔面に刺さったのを確認する。


 父と弟が、白い骨をふりかぶって最期のゴブリンに襲いかかっていくが、あれなら、ものの数分で倒せるだろう。


 弓矢を使うゴブリンの方まで戻り、生死を確認する。


 口に その辺の木の枝をつっこみ口内を確認する。


「尖った犬歯と前歯、奥歯の数本は臼歯状態、雑食…というか肉食よりってところか…口、でかいな」


ざっと全体を見回す。


「人間とか猿とかと似たような骨格だな。まぁ弓矢使ってたしな」


ついで顔に注目する。

 

「目は正面についてて、瞳孔は横長…気味が悪いぃ。…カエルの目みたいな印象だな」


 手先も器用なのだろう。指も5本そろっている。

 腰まわりにはボロ布を巻き、上半身は裸、足も裸足のようだ。


「身長は120センチから140センチ位か。これだとやや痩せ形だな。トウユーで見た奴のがもっと体格が良かったからな」


 緑色の皮膚はところどころ瘤のように盛り上がっていて滑らかさはない。

 全体的に嫌悪感をそそる見た目だ。


「つーことは、天敵って事だ」


背後から矢で射かけておいて、左右から挟み撃ちという攻撃方法は狩りなれているといった印象を受ける。


「まぁゴブリンだろうからな」


妹弟も、両親でさえも、あれはゴブリンだろうという認識なのだ。

光平の認識もあれはゴブリンだという認識で落ち着いた。



 一通りの見分を終えて、皆の方へ戻りかけると母親の足に矢が刺さっているのに気がついた。


 弟があわあわしながら、矢を抜こうとしている。


「待て、返しはないようだけど、抜くときに血管を傷つけるかもしれない。腿のところを縛れ」


 光平はあわてて注意を促した。


 「そ、そうだな!先に薬とか準備しとこう」


父がタオルでぎゅっと傷より心臓寄りの腿の部分を縛ると、妹の万理もあわてて消毒薬やガーゼ、ハンカチを用意する。


「俺がとってきた中に抗生物質があったはず。」


弘夢に、抗生物質の名前を検索させ、持ち合わせと照合する。


 「鎮痛剤も、ほら、先に飲んどこう」


お医者さんも処方しているという有名な鎮痛剤を災害用保存用水で母に飲ませる。

川で汲んだ水は、煮沸がすんでいないので、まだ飲用できない。


「わたしの手を握ってて」


万理が差し出した手を握りながら、青を通りこして真っ白い顔になった母が気丈にも言った。


「さぁ!抜いて、一気にやっちゃって!!」


「いい?動かないでよ!」


父が背後でしっかり母の身体を固定したのを確認してから、刺さった矢を引き抜く。


「!!!!!!!!!!」


目を瞠り、歯を食いしばって母は痛みに耐えた。


ぽろりとその目から涙が落ちる。


「がんばったね。母さん。がんばったね」


万理もぼろぼろ泣きながら、母の手をさする。


「水かけて傷口洗って、木のささくれとか傷口に残ってるかもしれない、よく確認して」


どうやら太い血管は傷つけていないようだが、かなりの傷だ。


丹念に血をぬぐいながら、傷口を確認すると皮膚と皮膚を合わせるように傷口を整える。


「縫った方がいいんだろうけど…」


 母は力なく首をふった。木綿糸と裁縫針で傷口を縫うとかどこのクリスマスついてない野郎だ。


「なんか映画で見たけどホチキスで代用するという手もあるらしいんだけど…」


母の首は今度はぶんぶんと音がしそうなほど左右にふられた。


「…それはヤメテ」


光平もそれを知事ににまでなった某国のアクションスターが映画の中でしていた気がしたが、その処置を自分がするとなると自信がもてなかった。


「傷を早くなおす絆創膏があったよ。」


 とりあえず、それで、傷口を覆えるだけ覆った。その上から軟膏を塗りたくり、包帯で傷が開かないよう、しっかりと縛った。


「絆創膏の上から軟膏塗っても意味なかったね」


 全員がそれに気がつかなかったとは、よほどパニックになっていたのだろう。


「ここから早く移動した方がいいかもだけど…母さん、歩けそう?」


「いや、無理だろう。てか歩かない方がいい、担架をつくろう」


光平はそう提案をした。





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