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森の死闘②

 万理は、母の理津子の手をとって立たせた。


「さぁ、母さん。そろそろ息が落ち着いてきたみたいだし、行こうよ」


 暗くなる前に、こんな不気味な森は抜けたい。

 ちょっと歩いただけなのに、骸と行き当たるだなんて気味が悪い。

 しかも、その骸は夜は歩きまわるときたもんだ。


 「スライム、出てきたらちょっと戦ってみようか?」

 

 だからその時に、万理を含め、しんがりの3人が下を向いていたのは仕方がなかったのかもしれない。


 いきなり母の理津子が転んだ。


 肩をかしていた万理もバランスを崩し、地面に手をついた。


 「いたたたた。」


 木の根っこにでもつまずいたのだろう。

 最近、母は何もない平坦な場所で躓くとこぼしていた。

 加齢からくる筋力の衰えで、足をあげているつもりであがってないという事はよくあることだ。


 「---!!!!」


 言葉にならない声を出して理津子はその場に蹲る。


 「どうした?どこかぶつけた?すりむいちゃった?」

 

 そう聞きながら、身体をかがめたとたんに、ひゅんと耳元で風がうなり、おくれて火のついた棒でも押し当てられたかのような痛みが襲ってきた。


「な、なに?!!!」


 思わず耳元に手をやれば何か生暖かい感覚。


 遅れて首筋に何かが垂れてきた。


「っ!ゴブリンっ!何か投げてきた!!!」

「矢だ!矢を投げてきた!」


 兄と弟が叫ぶのを聞いて、さっきの耳元のあの風切音は、それか?と合点がいく。

 そして矢は射ると言うのでは?と万理は一瞬思ったが、もう一本、矢らしき棒が地面に刺さったのを見てパニックになった。


「え??うそ??ゴブリンて、弓矢いけるの?」


「隠れろ、隠れろ、木の影でも岩の影でもいい!!」


 父親が叫ぶのを聞いて、あわてて矢が飛んできた方向とは逆側の木の幹に隠れる。


「いやぁぁ、はみ出るぅぅ」


 ところが木の幹は胴の幅より若干細かったため、身体が出てしまう。


「こっちだ!こっちの木まで来い!」


 父親の声に振り向けば、けっこうな大木があり、その陰に父は隠れているようだ。


「そうだ母さん!」「理津子こっちだ!」


 父と万理の声は同時だった。

 見れば弟の弘夢が母の傍に立ち、四つん這いになっている母を引きずってこようとしている。


 「この野郎!!」


 父と兄が、地面の石だの、砂などめちゃくちゃに投げ返している。


 弓矢をもったゴブリンは飛んでくる小石を警戒して、思わず顔の前で腕を交差した。


 「弘夢!ボーガン!」

 万理は弘夢からボーガンをひったくると、地面につきささった矢を抜くや否や撃ち返した。


 矢はへろへろと飛び、ポトンと下に落ちる。


 「へたくそ!」


 弟の罵声にじゃぁお前が撃てよ。撃ってみろよとばかりに突き返す。


「母さんを頼む!」


 弘夢は、自作した矢もどきを背中にしょったディパックより引き抜くと、ゴブリンに向かって撃った。


 ビン!


 弦がわりの幅広ゴムがはじかれて、矢はあさっての方向に。


「くそっ!!」


 弘夢が叫ぶのと同時に何者かが、弓矢をつがえたゴブリンに襲いかかった。


「きぇぇぇぇぇ!」


 兄である。いつの間に、ゴブリンへとせまっていたのだろうか。

 そして鬼気せまる気迫を込めて、持っていた例の骨でなぐりつけた。


 ゴン!グキッ!


 めちゃくちゃ痛そうな音をたててゴブリンは吹っ飛んだ。

 首が曲がっていけない方向に曲がっている。


 「うわ、えぐっ」


 思わず目を逸らして、万理は他のゴブリンが両サイドから回り込んで来ているのに気がついた。


 「弘夢!右と左から別の奴がっ!!」


 「こっちはまかせろ!」


 父が吠え、もっていた石をふりかぶる。


 「畜生、あたりやがれ、あたれ!あたれ!!」


 弘夢がむちゃくちゃに射た何本かのうち一本が奇跡的にゴブリンの顔に飛んでいき…片目を射抜いた。


 「きぃぃぃぃぇぇぇぇ!」


 「がぅがぅがぅがぅ!」


 弘夢がリードを放してしまったので、ポチも歯をむいてゴブリンに挑みかかる。


 兄の光平も骨の棍棒をふりまわしてゴブリンに飛びかかる。


 一体、何をどうしたのか、やっと正気に戻った万理が我に返るとゴブリン達はすべて倒され自分は地面に坐りこんでいた。


「もう、嫌だよぅ。何なん?いったい何なん?」


 気がつけば泣いていた。


「大丈夫か?」


 父の八郎が万理の耳のあたりについた傷にハンカチを押し当ててくれている。


 そのハンカチを手にとってみると血で汚れている。


 かすっただけなのにけっこうな出血だ。


「母さん救急箱だして」


 言ってから、いつまでも蹲っている母に気が付く。


 「…」


 顔をあげた母の顔は真っ青だった。


 その足には脹脛のあたりに矢が深々と刺さったままだった。


 


 


 







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