森の死闘①
その若いゴブリンは、群れでは下位の存在だった。
上位の者達が新しい餌場を独占してしまったため、昨日から空き腹を抱えて、巣穴から遠く離れた川原を餌をもとめてさすらっていた。
以前、上位の者達が川原で「ごちそうを見つけて食った」話を聞いていたので、自分もそんな幸運に預かれないかと同じような仲間と考えたのだ。
それを見つけたのはたまたま偶然だった。
不自然に下草が倒れていた場所から森の中をのぞくと、何者かが通った折に出来たであろう道をみつけた。
その道を辿っていくと、やや開けた場所に出た。
そこで道は行き止まりのように見えたが、その若いゴブリンは、不自然に枝が折れたりしている場所を見つけた。
そこに足を踏み入れば、何らかの獣の通った獣道であるとの判断が容易くついた。
若いゴブリンだとて、狩りの経験はある。
獣道の大きさからいって、それなりの大きさの動物である事が経験からもわかる。
そして、そう昔でない時間、何かがその道を辿っていったことも。
若いゴブリンは地面に顔を近づけた。
足跡があった。
その若いゴブリンははじめて見た物だったが、それを獲物だと判断するのに時間はかけなかった。
「グケグケ!グキャグキャッ」
仲間を呼ぶと二匹の仲間がやってきた。
ニタァ
尖った耳のあたりまで裂けた口からのぞく凶悪な歯を見せて3匹は笑いあった。
追いかけようと、すぐに話はまとまる。
1時間ほど走ったあたりで獲物に追いついた。
そうっと木の影から覗く。その獲物を狙う。
獲物は自分達と同じく2本足で歩く見た事のない動物のようだ。
仲間の一匹が先輩ゴブリンからゆずりうけた弓を準備した。
すでに獲物をたらふく食う想像をして、その若いゴブリンはよだれが出るのを止められなかった。
一番弱そうな奴を狙う、すると他の獲物はそいつを犠牲にして逃げる。
今までは、それで獲物をしとめていた。
今回もそれで仕留められるだろう。
自分達がたらふく食べた後、巣穴で報告すれば、逃げた方の獲物も上位のゴブリン達がいずれ仕留めるだろう。自分達もおこぼれをもらえるかもしれない。
仲間のもう一匹と左右に分かれて逃げ道をふさぐ。
仲間の矢が一直線に飛んで獲物にささった瞬間を見て、その若いゴブリンは隠れていた藪から飛び出した。
短いので、日付変更あたりでもう一話書いてアップします。




