レベルアップ
肩に手製のボーガンを担ぎ、犬のポチをお供に弘夢は進む。
川へ進んだ時は最短距離を選んだ為、道なき道を進んだが、今回は歩きやすさを優先して歩いている。
先頭では、父である八郎と兄の光平が左右に気を配りながら進み、バテ気味の母理津子を姉の万理が支えて進んでいる。
「しかし、この獣道、人が歩いて出来たのならいいんだけど」
「熊みたいな大型の動物の通り道だったりしたら途中でコンニチハ…だよね」
「ハハハハ。止めて―笑えない」
「多分鹿か何か。そうそう滅多な事はない…と思う、というか信じたい…」
皆、ここがゴブリンの使う生活道路だったらどうしようと考えないようにしているようだ。
「あっ、また。…」
「ハイハイ。わかったわよ」
時を止めた死体、昼間はただの骸だが、夜は仮初めの命を吹き込まれ動き回る。ここはそんな信じられない事がまかり通るそんな世界。
「あ、こいつ夕べうちに来た奴だ」
「成仏してください」
万理が傍に寄っただけで骸は塵になって大地に還っていく。
「本当なんなのよ。わたしのコレ」
「母さんのもね」
「遺体があるって事は人里に近づいているんだよね?」
「どうかな、人里に近ければ、こんな風に死体が放置されているのも不思議だし」
「葬送の文化がないだけかもだよ?」
「ゾンビ化するのに?それはありえないと思う」
「それにしても、ねぇ弘夢?」
万理はひそひそ声になって弟に言う。
「兄さんと父さんのアレ…どう思う?」
先程から前を進む兄と父の動きが妙だ。妙というより…。
「キレッキレ?」
「妙にキレッキレだよね」
弘夢は昨日に比べて格段に動きのいい兄と父の動きに頭を傾げる。
「スライムでレベルアップ?」
「レベルアップしたんだよね。たぶん」
「姉ちゃんも、母さん支えて歩いている割にはタフだよね?」
「やっぱり?私も、ゆうべ一体、たまたま成仏させちゃってから、身体が軽いなって思ってた」
「動いてない死体を消した場合はあまり恩恵がないかんじ?」
「そうね、さっきのアレではあまり…感じなかったわね」
そこで、ふたりは万理に支えられて歩いている母に目をうつす。
「この人、レベルアップが必要じゃね?」
「そうねぇ、今度スライムが出たら、母さんやってみる?」
母の理津子は息もたえだえでもう話しさえできないようで、頷くだけうなずいた。
「父さん?母さんが限界っぽい。休憩しようよ」
どうやら理津子を除いた家族4人がレベルアップ済のようだ。
一行は少し開けた場所で休息を取る。
「ほら、母さん、水」
「うっぅぅぅ。すまないねぇ、というか、それ私が出したんだけどね」
「ウィ●キン●ン好きでしょ?」
「うん。好きー」
「母さんの、アイテムボックス便利だよねぇ、それまだ冷えてるもん」
「それにもっと早く気がついてたら、氷が溶けないうちに保存できたのにねぇ」
「まったくねー、それねー」
「●イジ●イ食べる?」
「私、●本●足がいい」
「ほいほい。」
理津子は何もないところから、スティックタイプのおやつ的な物を出す。
「母さん、それ取り出す時ってどうなってるの?」
「頭の中にリストが出るんだよねぇ。それでその部分をクリックするイメージ」
「へぇ、便利だね」
弘夢は、●イジ●イを口に入れながら油断なくあたりを見まわっている父と兄を見る。
「兄さんはけっこうスライムを倒してたと思うけど、父さんはそれほど倒していなかったよね?」
「ほら、最初に父さんが川に落っこちたじゃない?あの時水の中にいたでっかいスライムに引きずり込まれたそうよ。」
理津子は今度はカ●パンと牛乳をアイテムボックスから取り出す。
「これ父さんと兄さんにね」
万理がそれを受け取ると兄と父に渡す。
「はい、兄貴、父さんにも渡して」
光平が頷いて、カ●パンを口に咥えると八郎の分のパンとコーヒーを受け取ると油断のない目で周囲を見まわしつつ父親の方へ歩き去る。
その動きの隙のなさにやや引き気味の3人の家族。
「で、水中で、魚を下ろしていた包丁を振り回したら、偶然核にあたったらしいのよ。」
「なるほど、レベルの高いスライムだったって事か」
「兄さんがアレなのは、いつもの奇声あげつつ、雑魚を倒しまくったからね」
「俺、5匹やった」
「私は1匹。だけどゾンビも成仏させたってか、倒したから…」
「母さんは一匹も倒してないの~~」
万理は母の肩をポンポンと慰めるように叩く。
「レベルアップしてね。今度アレが出たらゆずるから」
「スライムは兎も角、ゾンビは嫌ぁぁぁ」
「まぁアイテムボックスはすごく助かってるから…ね。母さん」
なんだかんだいって、母親に甘い、末っ子の弘夢だった。




