この森を抜けよう
朝になった。
昨日気持ち悪いぐらいに集まった動く死体はとうとう30体ほどになっていたが、朝になれば、その姿を消してしまっていた。
太陽の出ない、常闇の住人だからかもしれない。
ただ、彼らが来ていた証拠には、革鎧を止める金属の部分やとれて落ちた鎧の部品などが落ちていて、夢ではない事がうかがわれた。
昨日のスーパーでの戦利品であるシリアルでもそもそと朝食を終え、八郎は家族の顔を見渡した。
家族の皆の目の下には隈が出来ており、よく眠れなかったのは自分と一緒のようだった。
「このままここに籠城していてもジリ貧だと思う。」
「私もそう思う。あの川まで切り開いた道が気になって…」
たしかにあれを見つけられたら、ゴブリンどもは家を容易く見つけるだろう
「今さらながら、考えが足りなかったな」
八郎はため息をついた。光平も頷いている。
「昨日の夜のゾンビ共を見て知ったんだが、多分中世程度の文化圏が近くにあると思う。このままゴブリンやゾンビに怯えているよりは人の生活圏に出た方がいいと思う。」
万理が手をあげた。
「でも、こっちの生活習慣や文化の違いで迫害されたり反対に捕まって殺されたりとか、そんな心配もあるよ。第一言葉も通じないと思うし」
「宗教の違いによる迫害とか怖いよね。昨日のゾンビでは髪とかはあるってわかったけど、顔かたちとかわからなかったし。見た目が違う事で受け入れられない事もあるかも」
弘夢も万理よりの考えのようだ。
「でも、俺は、少なくともここに居続ける事は安全策といえないと思う」
光平は八郎を支持するようだ。
「お母さんもここにいるのは危ないと思うわ」
「私だってここに居たい訳じゃないのよ?ただ、その文化圏が安全かどうか分からないって言ってるの」
「…家、どうするの?」
「家、ここにおいてくの嫌よ」
「まだローンあるし」
「それはもう、無理なんじゃないかな」
もうこうなったらローンの支払いとか無理だろう。向こうに残された八郎の口座からは引かれ続けるかもしれないが。
「家は、母さんにやらせてみて。しまえるかもしれない」
「うそでしょ」
「さすがにそれは無理」
「ええ???大丈夫?」
理津子が自信満々なので、家族は家の外に出てみる。
「バリケードの外側まで出て。それごといれちゃうから」
そう言われて畑中ファミリーはバリケードの外へ出る。
ポチもいっしょだ。
「しまっちゃえ!」
「!!!!!!!」
「入ったね…」
「家、消えちゃった」
「さぁ引っ越ししましょ!」
やけに元気な理津子の声がはずんでいた。
八郎はあんぐりと口を開けた。
「まだ夢は覚めないのかって言いたくなるね。まぁ夢じゃないのは分かってるんだけど」
万理が呆れている。
「夜になったらお家を出して眠ればいいね。謎バリアーが出て、ゾンビは食い止めてくれるし」
「万理が近づいてもゾンビは消えるんだぜ。まるで浄化したみたいになる」
光平がいうのを、弘夢はキラキラとした目で見つめる。
「本当?姉ちゃん?」
「実際にやって見せたりしないわよ」
ギロリと万理は弟を見て言う。
「わざわざゾンビの傍になんて近寄りたい?」
「「あぁ、ーー」」
それはごめんだろう。兄と弟は大人しく「見てみたい」という言葉をのみこんだ。
そして八郎は八郎で、
「家を設置するところ…平らな場所が必要だが、さてどうやってそれを確保したらいいもんか。」
と考えこむのだった。




