第二話 秘境の村、俺の名前…
あらすじ
異世界に強い憧れを抱いていた主人公だったが、怪しい男の手によって、念願の異世界へと導かれる。
しかし、移った先の世界で待ち受けていたのは、見知らぬ地での孤独・乾き・そしてモンスターの襲撃だった。
主人公は異世界移住者が受けられる“力の底上げ”を駆使し、モンスターに果敢に立ち向かうが、群れのボスの奇襲にあい殺されかける。
間一髪のところを二人組の旅人に助けられたが、そこで意識が途絶えてしまった。
果たして主人公を待ち受けていたものは……!?
「ぐっ……いってぇ…。」
腕の鈍い痛みで目が覚める、熱を持ったようにドクン…ドクン…と脈打っている。
「ん……そっか…俺、モンスターに襲われて……。
ん?………ここは…どこだ?」
周囲を見回す、一面木の板で内装された…コテージのような小さな家…?
俺はふと不安を感じ、寝床らしき所から起きる。
「うぇ…なんか口の中が苦いぞ…ぺっぺっ……!」
物音に気付いたのか、家の外にいた人影が中に入ってきた。
「よぉ、ようやく起きたか。」
黒い髭づらの熊のような大男だ。
「ここは…?」
「ここはアンムルの村、それでこの家はメティちゃんの診療所さ。」
「メティ…?」
はて…どこかで聞いた覚えが…。
「あの兄妹なら隣の家にいる筈だぜ、会ってきなよ。」
「ん?…あ、ああ。」
異世界で俺と握手! 第二話【秘境の村、俺の名前…。】
「まぁアレだな、会いに行くのは良いとして、年頃の娘にその格好で会うのはマズイな!かっかっかっ!!」
熊男はこちらを指さし、薄くなった頭皮を掻きながら笑っている。
「格好……ああ、まぁ確かに。」
見ると、革製の腰巻きのようなものだけしか着ていなかった。
日本の街中でこんな格好をしていたら、やっぱり嫌な顔をされるだろうな。
お巡りさんにも声を掛けられるかもしれない。
俺は枕元に畳んであった白衣のような服を手に取る。
腕を動かすと、先日モンスターに殴られた所がまだズキズキと痛む。
「あぁイテテ……、枕元にあったって事は着ろって事で良いんだよな…?」
まだ朦朧とする中で考えを巡らせる。
兄妹っていうのは、やっぱり先日襲われている所を助けてくれたあの二人だろうか?
両腕に包帯のような布が巻かれているが、これもあの二人がしてくれたのだろうか…?
ボーッと考えながら着替えを済ませる。
「まぁ、考えてたってわかりはしないか、会って直接聞けばいい。」
腰紐をキュッと結ぶと、外へと向かう。
―――――――――――――――――――――
「……げっ、まぶしい。」
外の日射しに目がくらむ、しばらく寝ていたせいかうまく眼が順応しない…。
「あっ、お兄さん起きたんだ!!メティお姉ちゃん心配してたんだよ!」
外に出るなり、近くにいた幼い女の子がこちらに駆け寄ってくる。
「ん、ああ…そうだったのか。」
やはり、この包帯…俺を助けてくれた女性が看病してくれたんだろうか。
「なぁチビちゃん、そのメティって人にお礼が言いたいんだ、案内してくれないかな?」
「チビちゃんじゃないよ、リーリアって名前があるんだもん!」
女の子はフンと鼻を鳴らすと不機嫌そうに腰に手を当てる。
「ああ、ゴメンなリーリア、メティさんのお家まで案内してくれ。」
「いいよ~、こっち!」
リーリアは俺の腕を掴むとグイグイと左手の家に俺を引っ張る。
「あいてててっ、まだ本調子じゃないんだ…そんなに引っ張らないでくれ!」
「あ、ごめんなさ~い…。」
彼女はシュンっと悲しそうな顔をする…いやでも、本当に痛いんだって!!
「ん……そういえばリーリアの服…どこかで見たような…。」
黄色地の布に赤い刺繍で綺麗な模様が縫い込まれている。
「うん、アンムルの名産品でね、たーふら染め…?とかってぇ!言うのっ!!」
「へぇ…。」
「それでね、ここがメティお姉ちゃんのお家なんだ~!」
先ほど寝ていた診療所から数十歩進んだ所でリーリアは家を指さす。
「へぇ、本当に目と鼻の先なんだな。」
リーリアに指刺された家を眺める、黄土色の土壁だが屋根との継ぎ目は黒い木目が見える。
木造に土を塗って壁にしているんだろうか。
出入口のドアとは別に木製の階段が伸びている、どうやら家は二階建てのようだ。
「ん、リーリアありがとうな。」
「えへへ~、それじゃお兄ちゃんまたね~。」
元気に手を振って帰っていく、いい子だ。
「おっと、和んでる場合じゃなかったな、ちょっと緊張するが…入るか。」
俺は深呼吸で息を整え、恩人の家のドアをノックし、そっとドアノブに手をかけた……。
―――――――――――――――――――――
「失礼しま~……。」
恐る恐るドアを開ける、ドアを開けると誰かの話し声が聞こえてきた。
「(この声、やっぱりこの前の二人…!)」
あの時のお礼が言える…!そんな期待感から勢いよくドアを開けた。
見てくれ!俺はあんたたちのおかげでこんなに元気に…!
「こんのバカ兄ィ!!」
「えっ…?のわぁッッ!!」
謎の小袋が投げつけられ、俺は頭から粉まみれになった。
その映像をフルハイビジョンでお楽しみください(ヤケクソ)
バサァ!(1カメ)
バサァ!!(2カメ)
バサァ!!!(3カメ)
「ゲッ、兄ィが避けるからお客さんに当たっちゃったじゃん!!だ、大丈夫ですか~!?」
「バカヤロウ!お前が変なもん投げたせいだぞ!!」
「にゃにぉ~!!」
待て、怒るな、彼らは恩人だ……見ず知らずの俺を助けて、看病までしてくれたんだ…。
「あれっ、あなたもしかしてモンスターに襲われてた…、元気になったんだね!」
「おぉっ!?マジか…!!」
二人が嬉しそうにこちらに駆けて来るのが見えたので、こちらも視線を上げる。
「「ぷふっ…!!」」
顔を上げた時に、真っ白になった俺の頬を見て二人は小さく肩を震わせた。
―――ムカッ!!
いかん、耐えるんだ…彼らは恩人で…。
「元気そうなのは良いが、お客人、そんなイエティみたいな顔してたっけ…うっひゃっひゃ!!」
お前が避けたからじゃい!!
「こら兄ィ、そんな事言ったら失礼……ぷふぅ!あっはっはっ……!!」
お前が投げたからじゃい!!
「「あっはっはっはっ、ヒィ~ッ!!」」
せきを切ったように二人して笑い出す。
「お前らがやったんだろおがよおおおおお!!二人ともそこに座れぇ!!」
さすがにこれにはブチキレた。
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「いいですかぁ、食用の粉は料理をする為にあるんですよぉ、人を粉だらけにするためにあるんじゃないですよぉ。」
「はい、ごめんなさい。」
「続いて兄くん、まず兄妹ゲンカは良くないですよぉ、そして粉だらけになった客人をコケにするのはいけない事ですよねぇ?」
「はい、反省してます…。」
二人を椅子に座らせ、その前で教師のように説教をする。
「何であんなケンカなんかしてた?」
「だって、兄ィってば私が大切に取っておいたハチミツのケーキを食べちゃうんだもん!!」
「えっ、そんな事で……。」
まさかのしょーもない答えに少し唖然となる。
「そんなもの、また買うか作れば…。」
「買うって簡単にいうけど…、この辺ではものすごく高価で貴重なものなんだよ…?」
涙目でうなだれる妹の方。
「えっ、養蜂家とかいないの…?」
「都会のがどうかは知らないけど、この辺に自生するキラービーって品種は狂暴で飼い慣らすのなんて無理だ。」
兄の方が口を開く。
「採取する時に身体中刺されて死人が出ることもあるんだ。」
「そうなのか…。」
「それなのに兄ィったら、酷いよ!」
「だーから、悪かったって言ってるだろ!」
状況を知らずに安易な事を言ってしまった…、そんなにハチミツが貴重なら彼女が怒っていたのも少し合点が行く。
物思いにふけり、黙っていると妹の方が口を開く。
「ところで、もう身体は大丈夫なの?」
「んー、ああ、まだ腕が痛むけど…普通に過ごしてる分にはもう大丈夫かな。」
「そっか、良かった…。」
妹の方が胸を撫で下ろす。
ドキッ。
彼女の素肌の美しさ、愛らしい仕草に、思わず胸がドキドキとしていた。
「じゃあ快気祝いにひとつ自己紹介と行くか?」
「あぁ、そう言えばまだだったな。」
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「まずは主治医、お前からだな!」
兄の方がいたずらっぽい顔で妹を囃す。
「やめてよ兄ィ、主治医なんて…まだまだ婆っちゃんに比べたら全然…。」
「おうそうだぁな!お前の薬は苦くて飲みにくいのばっかりだもんな!」
「うっさいなぁもぅ!ぶっ飛ばすぞ!!」
言うが早いか、既に手が兄の脇腹をつついている。
「イテッ!イテッ!やめろっつぅの!!」
「ははっ、仲が良いんだな?」
「「どこがぁ…?」」
二人して絶妙にハモる辺り、やはり仲が良さそうに見えるが…。
「ほれほれ、脱線してないで自己紹介だ!!」
「コホン、私はメティアナ、この村で薬師をやってて…みんなにはメティって呼ばれてるよ!宜しくね!」
「ああ、ヨロシク。」
メティアナが右手を差し出してきたので、それに応じてこちらも右手を差し出す。
近くで見るとますます美人だ、頬はまるで雪のように白く、人形のように目鼻立ちが整っている。
それにほんのりと甘い良い香りがする…。
彼女との握手に思わず心臓がドキンと高鳴る。
なんだろう…今、心なしか彼女も頬を赤く染めた気がした。
視線が合ったまま手が離せない。
「おーい、おいおーい、お二人さん、なにボーッとしてんだよぉ!」
声にハッとなり、思わず二人とも腕をパッと離す。
はぁ…心地いい肌触りだったなぁ…もう少し握っていたかった。
「おい、こいつはこれで結構じゃじゃ馬だぞぉ?
見た目に騙されて何人の男が泣かされてきたやら~。」
「もう、兄ィのバカッ!適当な事言わないでよ!!」
茶化すような顔でこちらに右手を差し出してきた。
「俺はンバラ、メティの兄、村一番の弓名人とは俺の事さ!!」
「ォンバラさん…?」
「そっかぁ、外の人は呼びにくいらしいよな、喉の奥を鳴らすんだが…呼びにくかったらエムバラでいいぜ!」
しっかりと握手を交わす。
「ん……んんっ!?」
握手を交わすと突然挙動不審になりリティを見つめるエムバラ。
「なぁ、メティ…お前最近になって綺麗になったよな…。」
「はぁ!?急になに言い出すのさバカ兄ィ!!」
メティは呆れと困惑が混ざったような表情でエムバラを睨む。
「いやさ、急にお前の魅力に気付いたと言うか、ちょっとだけハグさせてくれ!!」
「嫌だキモい!!ちょっ…こっちくんな!!」
バキッ!ドカァ!!
妹に抱き着こうとする兄貴と、ここぞと拳を振り回す妹。
なんだこれは、謎の修羅場を見せられているぞ…。
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「さぁて、これでこっちの自己紹介は以上なんだが、お前の名前は?」
「えっと、そうか……名前、俺の……名前?」
俺は日本からこの異世界に来て…。
俺の……名前…!?
「なんだよ青い顔して、メティに飲まされた薬が当たったか?」
顔から血の気が引いていく。
「そんなわけないでしょバカ兄ィ!……ねぇ大丈夫?」
「あ、ああ…体は大丈夫なんだけどさ……俺…。」
頭の中にモヤがかかったような嫌な気分だ…。
それまで周りに当たり前にあった空気が一気になくなってしまったかのように胸が息苦しい……。
俺…。
「俺、俺の名前………なんだったっけ…。」
第二話 完
書きたい設定がありすぎて、この話は結構な長編になる予感がしています。
果たして完結できるでしょうか…?
読者様の感想やレビューがあれば完結頑張れるかも!
メティアナちゃんやリーリアちゃんたち、女の子の可愛い名前はすぐに思いつくのですが、エムバラくんの名前は中々難産でした。
浪速の黒豹と焼き肉のタレから着想を得ています。
明日はうどんと焼き肉を食べようかな。
それではまた。
追記しました。
まだこの頃はメティアナの名前がメティであったりリティであったり表記揺れするんですよね、今では間違える事はないのですが…脳内ロールプレイング不足でした。
文章もこの頃に比べたら多少マシになったのかな?
なってるといいな!?
ただ、この頃はこの頃で文章を書きたいんだなって意欲はストレートに伝わって来るんですよね、やっぱり見直しって大事だ。




