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異世界で俺と握手!  作者: 醍醐郎
19/20

第十七話 旅立ちの唄と千里の押し花

あらすじ


異世界への転移が常識となった未来の話。

転移に憧れた少年が移った異世界は“打ち捨てられた世界”と呼ばれる過酷な大地だった。


転移先で記憶の一部と名前を失った少年は、いつしか自らの事をカムドと名乗るようになる。


異世界で助けてくれた兄妹と行動を共にしていたある日、彼らの恩人が謎の女性に殺害され、彼らは仇討ちを決意する。


仇討ちの旅の出発の前日、村の少女であるリーリアが行方不明になったという報せを受け、彼らは森へと向かうことになる。


握手した相手に“共感”を与える能力と共に、少年は打ち捨てられた世界を駆ける!!




登場人物


カムド(主人公)

異世界に憧れ、異世界に誘われた少年。

自らの記憶を失い、カムドと名乗る。

情に篤く、非常に涙もろい。

握手した相手に“共感”を与える能力を持っている。


メティアナ

辺境に住まう兄妹の妹、あだ名はメティ。

非常に優秀な医者で美しい赤髪をした才色兼備の女性。


イブ

謎多き銀髪の女性、洋館に閉じ込められて過ごしていた。

華奢な見た目からは信じられない程の身体能力を持っている。


エムバラ

辺境に住まう兄妹の兄、現地読みでは“ンバラ”らしい。

狩人としても職人としても一流のウデを持っているのだが、非常に口が悪い。


ミゲル

火術使いの魔導師、金髪の美少年。

幼くして両親を地球人に惨殺された過去を持ち、またメティに対して恋心を持っている。


リック

リチャード・ハーパー、地球・アメリカ出身。

理知的で分析力に長けており、カムド一行の潤滑油的な存在。


カララ

メティの事を先輩と慕う少女。

快活で気の強そうな見た目をしている。


リーリア

辺境の村の元気少女、ガンテさんは彼女の父親。

「私、寝ちゃってたの?



ここ………どこだろ………。」


少女はか細く声をあげる。

ここは彼女の見知った筈の森の中、だがどこかいつもと様子が異なる。



静かすぎるのだ。




虫の音、木の葉のささやき、風の音、ここでは何も感じられなかったからだ。


少女、リーリアは漠然とした恐怖に少し身を強張こわばらせながらも、辺りの状況を探る。


ここは夜のアンムルの森の中…………メティとのお別れの為に千里草を摘みに来ていた事を思い出す。

周囲に明かりなどはなく、木々の隙間から僅かに見える星あかりだけが唯一の光源だ。


「どうしよう…早く帰らないと。

…なんだかこわいよ………。」


とりあえずこの場所を去らなければ……リーリアはそう思い立ち、家路へと向かった。




異世界で俺と握手! 【第十七話 旅立ちの唄と千里の押し花】




幸い、彼女にとってこの森ほ庭のようなもの。

夜でいつもと多少風景は異なっていたが、木々や獣道の特徴から今自分がどこにいるのかは大体の予想がつく。


「たしか……こっち。」


リーリアは記憶を頼りに黙々と歩いた………だが、ここで異変に気付く。


「………あれ、ここ………最初にいたとこ?」


家へと向かっていた筈なのに、気付けば最初に彼女のいた大きなかしの木の前に戻ってきていた。


「えっ、なんで………!」


ゴゴォ…………。

ザワザワ………ザザザザァ…………。


その時、それまで無音にすら感じられた静かな森が、突然風に揺られて枝葉がざらざらと音を立てて鳴りはじめた。

リーリアは恐怖から咄嗟に目を閉じる。


「イヤだ、こわいよ…………。」

そのまま目と耳をふさいでその場にうずくまるリーリアに……。





『ねぇ、遊ぼうよ。』




背後から何者かが声を掛けてくる。


「ひっ………!」


リーリアは悲鳴を押し殺して猛然と走り、その場を離れる。

だが、しばらく走った所で、再び先程の木の前に戻ってきている事に気付く。


「そんな……!」


『ねぇ、なんで逃げるの?』


「や、やだ……。」

『遊ぼうよ、ねぇ、遊ぼうよ………遊んでくれないと…………。』


リーリアが声の主を見上げる。

声の主は柱時計のようにひょろ長い大男だった。


影のように全身真っ黒で、表情は読み取れなかったが、口元はニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた。


『遊んでくれないと………食べちゃうよ?キュヒヒヒヒヒ………!!』


「あっ………………あっ…………。」


本当は叫びだしたいぐらい怖かった。

だが、リーリアの叫びは声にはならず、吐息として小さく吐き出されるばかりだった。


『ねぇ、遊ぼうよ……遊ぼうよ………。』


影の男は細長くいびつに枝分かれした腕をリーリアに向けて伸ばす。


子供が戯れるような無邪気なモノではない。

例えるなら、猫が獲物のネズミを執拗に追いかけ回そうとする時のような、()()()()()()をリーリア相手に向けていた。


「ひっ…………!」


『遊ぼ……………グギャ!?』ズドン!!


不意に化け物の腕を何かがはじき飛ばす。


枝分かれした腕の先端が欠け、影の男は目をパチパチと瞬かせて自らの腕を見ていた。


『う…………で……………?』


化け物が後方を振り返ると、矢で射抜かれた腕が木にダラリとぶら下がっていた。


「リーリア!!大丈夫だった!?」


化け物が腕を凝視している中、何者かがリーリアの元へと駆け寄る。

……メティだ。


「お姉ちゃん…………お姉ちゃん!!」


リーリアはメティに抱きつくと涙をポロポロとこぼす。


「はぁ…………はぁ…………よかった、無事かリーリア!?」

「おとうさん!!」


「よしっ、なんとか間に合ったな!」

「お兄ちゃんも!?」


遅れてガンテさんと俺、イブもその場に到着する。


「ゼェゼェ…………ふぅ…………ふぅ………リーリア、お説教は後だ、しっかりと掴まっておけよ!」


ガンテさんは息を整えるとリーリアを背中におぶる。


「カムド、メティアナさん、イブ………ちょっと待ってくれよ………。」


更に遅れること数秒、ミゲルとリックも俺たちに追い付いた。


化け物はその一部始終を目を丸くして見ていたが、皆が集まった所で『ウウゥ……………』と唸り始める。


『だれ………………?



だれ!!!



ダれだオ前らはあアアァアアぁぁァ!!!!』


怒り狂ったような雄叫びを森中に響き渡らせる。

それまで静かだった森をつんざくような轟音に、静まっていた鳥立ちは驚き、ギャアギャアとけたたましい声を挙げながら一斉に飛び立って行った。


闇夜に響く無数の羽音はなんとも不気味で、俺は知らず知らずのうちに肌を粟立あわだてていた。


『邪魔スるナぁアああぁァッ!!』


化け物は怒り狂ったように手足をバタつかせると周囲の木々の枝葉を薙ぎ払いだす。


「ぐわっ!!」


飛び散った木片が俺たち目掛けて降り注ぎ、俺はたまらず顔を手でかばった。


チクリ、チクリと身体に枝がぶつかり、周囲に散らばっていく。

この程度ならば致命傷になることはないだろうが、このままではとてもじゃないが奴に目を向けられない。


「いてっ、いてっ………クソッ!!」

「リーリア!目を閉じてろ!!」


後ろを振り向くと、枝からなんとかリーリアを守ろうとガンテさんが身を張って彼女を庇っているのが見える。


このままではリーリアたちが危ない………何とかしないと……!


「カムド、みんな、下がってください!!」


その時、イブが単身化け物のふところに飛び込む。


「イブ!?……な、何を………!」

「私は大丈夫です、巻き込まれないように下がって!」


驚異的な身のこなしで枝葉をかわし、あるいはいなしていくと、彼女はグングンと化け物に近付き………!


「来い…………!」


遠くにあった大岩を手招きすると、次の瞬間にはその岩がヤツの身体にめり込んでいた。


『ギゥ…………?


ガ……………ガふァアらアァアァぐヒ!!!』


化け物は岩にメリメリと身体を貫かれ、やがて足だけ地面に残したまま、引き裂かれた上体がドサアアアッと地面に崩れ伏した。


ドンッ――――

倒れた瞬間、衝撃が僅かに地面を揺らす。


「す、すごいよイブ………ひとりで倒しちゃった!!

あははっ………!!」


ミゲルが驚嘆しながら歓声を上げる。


地面に倒れた怪物は薄紫色の煙を吐き出しながら、やがてその姿を樫の木の丸太へと変えて行った。


「………樫の木、あの化け物の正体はコイツだったのか……。」


ガンテさんが髭をさすりながら木を眺める。

しかし、その中にあってメティとリックだけが表情を強張らせた。


「ま、待って………樫の木のモンスター………。」


「まずい、油断するなみんな、まだ終わってない!!」


リックが叫び終わる間もなく、周囲にあった巨木が続々と影に包まれ、穴が穿うがたれ、そのウロの中からギョロリと目玉が覗く。


「う、うわぁっ!?」


『あ……………そ……ぼ………!』


その数は1体や2体ではない、周囲を取り囲む10数本の木々が一斉に化け物へと変わり、地面から足を引き抜いてゆく。


「く、くそ………化け物め…………!僕の炎の術を受けてみろ!!

……………その業火ごうか煉獄れんごくよりでて……。」


「ダメだミゲル!!」


ミゲルの詠唱をリックが止める。


「な、なんで止めるのさ!!」

「忘れたかい、彼らは木だ………この数が一斉に燃えたら私たちも無事ではいられない…!!」


「じ、じゃあどうしろって言うんだよ!!」


「狙うは各個撃破か……これはかなり厳しそうだな。」


『あ…………そぼ……』

『あそぼ…』

『アそボ』

『あソぼ!!』


『遊ぼうよ、キュヒヒヒヒヒ!』

『キュひヒヒヒヒひヒヒィ!』

『キゅヒヒヒひヒヒヒヒひヒひィ!!』


「うっ………!」


木偶たちが不気味な声をあげて一斉に笑う。

この常軌を逸した光景に俺はすっかり気持ちを折られていた。


この数を俺たちだけでなんとか出来るのだろうか……?



…その時。

メキメキメキィ!!ズドオオオオォォン!!


化け物1体に大岩がめり込み、音を立てて崩れ落ちる。


「カムド、メティ、何をしているのです、私たちだけでも戦いますよ。

ミゲルは火であかりを確保してください。」


イブの引き寄せの能力だ、目覚めて間もない緩慢な動作のうちに、彼女が倒してしまったのだ。


「ワオ、彼女、ロックスターのようにカッコいいね。」


「いや、駄洒落てる場合かよ!!」


リックのしょうもないダジャレになんだか肩の力が抜ける。

でも、そのおかげか、なんだか恐怖心も薄れてきた。


この数、図体の大きさに圧倒されたが、やつらも無敵ではない。

イブにやれるなら俺だって!!


「よし!イブ、射撃で援護するぞ!」


弓を引き絞って化け物目掛けて構える。


「元が木なら身体を狙ってもダメだ………それなら!!」


ビュン!ビュン!ビュビュン!!


ガツッ!ザクッ!ガツガツッガツッ!!


一本、二本、三本、矢継ぎ早に矢を放つと、そのうちの一本が化け物の目玉を捉え、突き刺さる。


『……ご…………ボオぉォォおぉォ!?』

化け物は愚鈍な動きで片目を覆い、身をよじりながら痛がっているようだ。


「よし、当たった!!効いてるみたいだ。」


予想的中、硬そうな木の部分にいくら矢を放っても効くかはわからない。

それならば確実にダメージの当たりそうな目を潰し、動きを封じ……!!


「カムド、下がって!!」

「任せた!」


ゴゴゴォォオオォォ!!

『げォぐギぃぃギィぃ!!?』


イブの引き寄せで確実に倒す!!


ズドォオオオォォン!!


「よっしゃあ!!」

「油断しないで、次が来ます!!」


周囲に目をやると、イブの言った通り、既に木の化け物たちにじわりじわりと距離を詰められていた。


「二人とも、離れて!!」


遠くからメティの声がして、その場から二歩三歩と飛びのく。

先ほどまで俺たちのいた場所にメティの小瓶が放られると、瓶は化け物1体に直撃し バリン!! と音を立てて割れる。


「がアぁあァァぁァっ!ガガがァァ!!」


瓶の中の液体を浴びた化け物のは、ジュワジュワと音と煙を発しながらもがいている。


「強酸の入った瓶だよ。

よかった、ちゃんと効くみたいだね!」


化け物はしばらく頭を右へ左へ大きく振り回した後、ドシン!!と音を立てて地面に倒れた。


確かに効いてはいる。

個で相対あいたいして個別に撃破していけば決して倒せない相手ではないが………!!


「なんか………さっきより増えてないか……。」


こう数が多くては数体倒したところで焼け石に水…。

……いや、むしろこちらは体力が削られ、奴らは徐々に数を増やしている分こちらの方が形勢不利だ。


「クソッ、どうする………。」


「それなら………全部倒すまでです。」ダダッ!!


短くそう告げると…彼女は敵のただ中へと向かって走った。


「お、おい、イブ!!」

「大丈夫です、この程度の動きの相手ならば……。」


イブがわずかにこちらを振り返った……その時!!


ズズズッ………ボゴォ!ボコココォッ!!


「!?」


イブの足元が隆起りゅうきし、足元を取られる。


「あれは………根っ子!!やつら根っ子を操っているのか……!?」


そして………体勢を崩し、よろめいているイブ目がけて…!

化け物は腕を振り上げるようにして、地面ごとイブを薙ぎ払った!!


「イブ…………?

イブ!!」


――――――――――――――――――――――



化け物に弾き飛ばされたイブは……。

ピンポン玉のように軽々と宙に投げ出され……。


「が ぐぅっ…………!!」


悲鳴をあげて地面を転がると…そのままピクリとも動かなくなった。


「イブ!!」

「カムドくん、今近づいちゃダメだ!!」


思わず彼女に駆け寄ろうとするが、リックに呼び止められる。


『遊ぼ………あそぼ………!キュフフフフ!!』

『キュフフフフ………!』

『ギヒヒヒぃ!アぞぼ………ギヒヒヒヒヒヒ!!』


化け物たちは不気味な笑い声をあげながらイブへとじりじりとにじり寄る。

どうやら奴等の狙いは彼女ひとりのようだ。


「くそっ………こっちは眼中になしかよ!!」

「も、もう見てられないよ!僕も戦う!!」


たまらずミゲルが前に躍り出る。


「カムドくん、ミゲル、落ち着け、これは罠だ……!

あいつらの動き、とても統制が取れている、狙いは最初からこちらの最大の戦力のイブだったんだ。

最初の三体を捨てゴマにして、こちらの主力を見極めたんだ。」


化け物たちの動きを見る、イブをいつでも攻撃出来る距離に置きながら、隊列を組むようにグルッと取り囲むばかりで攻撃を加えようとしない。


「彼女を助けに向かえばそこから…狩られる。

彼女を無力化しつつこちらも確実に倒す狡猾こうかつな作戦だ。」

「だからなんだって言うんだよ!!」


「だから落ち着いてくれ、先ほどから彼らは画一的な動きしか出来ない。

それなのにあのような隊列や作戦を取れるという事は……彼らには指示を送っているキングがいる。

これはチェスなんだ。」


「まるでチェスだな!……って事か……?

だけどその王をどうやって探すんだよ!」


「いいかい、チェスっていうのは盤面を俯瞰ふかんで見ないと適切に動かせないものだ。

そして、この状況を俯瞰で見れる場所はただひとつ!」


リックが天高くを指差す、その先によく目をらすと……。


「いたっ!!あの光か!!」


小さな豆粒のような光が空をチラチラと飛んでいる。

先ほどまでは木の化け物に塞がれて見えなかったが、今奴等はイブの元に集まっているため、こちらからも丸見えだ!!


「外すなよ、カムド!!」

「わかってるさ!!食らえッ化け物の親玉キング!!」


矢を引き絞り、天高く構える。

そして俺は入魂の一射を天に浮かぶ光へ向けて………放つ、筈だった!


『ギュぉオオぉぉぉォォ!!』


「な、なんだ!?」


こちらが矢を放つよりも先に、化け物たちは各個頭を揺さぶり木の葉を散らし出すと、バサバサと音を立てて木の葉が無数に降り注いだ!!


「うわあっ!!」

「きゃあっ!!」


咄嗟に木の葉の波を避ける。


「クソッ!!これじゃ狙う所じゃない!!」


不覚だ、千載一遇のチャンスをフイにしてしまった……!

木の葉はザラザラと雪崩のように地面に降り注ぐと、しばらく周囲を舞い散った……!


「か、カムド………!!あれ見てくれ!!」

「今度は何だ!?」


驚きの表情を浮かべて空を指差すミゲル、その指先を目で追うと……。


「しまった、逃げられた……!!」


こちらが慌てふためいた隙を突き、敵のボスはどこかに身を隠してしまった。


「リック!あいつがいない!……どこにいるんだ!?」

「マズイな………俯瞰を捨てたという事は…!!」


『あそぼ………キュヒヒヒ!!』


イブを取り囲む化け物たちが再びざわつきはじめる。


「おいリック、ボスはどこにいるんだ!?」

「俯瞰を捨てたという事は、彼らは私たちへの迎撃を捨てて、まずこちらの主力を倒すはずだ…!!」


「そんな………それじゃあイブが!!」

「おそらく本体はあの中心の化け物どれかに潜んでいる筈だ……!」


『アゾボ!アゾボ!ゲキュヒヒアヒひヒヒひヒ……遊ぼ!!』


イブを取り囲む化け物たちが手を振り上げる。

あれが次々に振り下ろされれば、きっと彼女はひとたまりもない……!


「やめろおおおおおお!!」


『遊ぼ!あぞぼオオうゥ!!』

「いいぜ、かくれんぼだな、俺も混ぜてくれよ。」


見間違いだろうか、化け物たちの群れの中に赤い閃光のような筋が二本、三本と撃ち込まれると……!!


『ギャアアアアアア!!!』


中央からおぞましい叫び声が聞こえた後、化け物たちはピタリと動きを止めると………。

そのまま元の木に姿が戻って行った。



「ダークピクシー見ぃつけた!!」


光のたもとには、いつの間にか弓を構えたエムバラが立っていた。


「エムバラ!!……やったのか!?」

「待ってたよ、我が軍の騎兵ナイト。」


「………ったく、お前らがついていながらなんてザマだよ。」

「もう、兄ィが遅いからでしょ、ばか兄ィ……!」


メティは目にうっすらと涙を浮かべている。

正直俺ももうダメかと諦めかけていた、彼が間に合って本当に良かった……。


「キミが必ず追いつくと信じてたからね、時間稼ぎにはなったろう?」

「ハッ、言ってろぃ。」


リックは肩をすくめて笑う、何とか間に合ったから良かったものの、本当に危ない橋を渡る。


だが、誰もがホッと胸を撫で降ろしていたその時………!


『き、貴様ら……!よくも………許さん………許さんぞ………!!』


化け物たちの中央からこの世の物とも思えないおぞましい声が響く。


「チッ………まだ生きてやがったか。」


声の方にエムバラが再び弓を構える。


『ただでは……死なない………この女も道連れに…。』


イブが攻撃を受ける前に、果たして化け物を仕留める事が出来るだろうか……。

状況を固唾を飲んで見守っていると……。



ボガァッ!!『ア゛ッ゜………!!』


奇妙な音が響いた後、辺りは嘘のように静まり返る。


「な、何が起こったんだ………?」


事態が飲み込めずに状況を静観していると、イブが木の合間を縫ってスタスタと歩いて来た。


「イブ………お前が倒したのか、良かった…。

…………って、どうしたその手は!?」


見るとイブの右手は真っ赤に染まっていた。

おそらく化け物を倒した時の返り血だろうか………。


「困りましたね…………服が汚れてしまいました。」

「はは、イブ……お前ってヤツは………。」


イブがケロっとした表情をしているのを見て思わず変な笑いが込み上げる。


「カムドくん、もうひとつチェスに例えた理由があるんだが……。

チェスも女王クイーンが一番強いのさ。」



―――――――――――――――――――――――




「それじゃ、そろそろ行くわ。」


エムバラは馬にまたがり、見送りに来ていた人々に目をやる。


「ンバラ、寂しくなるな……。」

「バラ様、必ずご無事で帰ってきてくださいね……。」


早朝だというのに沢山の人たちが彼を取り囲んで別れの言葉を口々に述べている。


何よりも驚いたのはその女性の数の多さだ。

おそらく村中の娘が集まったのではないかという人数。


この過疎の辺境においてこれだけの人数を目にする事は今後ないのではないか。


「随分集まったなぁ……。」

「でしょ、あれで兄ィは人望があるから不思議だよね。」


呆けたような俺の声に、メティが答える。


「……何を辛気くさい面してるのさ、今生こんじょうの別れじゃあるまいし。

……目的を果たしたら必ず帰って来るさ。」


中には泣き出す村娘までいる。

エムバラは本当にモテるんだなぁ……。


一方―――。


「メティお姉ちゃん、本当に行っちゃうの?」

「うん、みんな元気でね。」

「イヤだよぉ!!」


メティは子供たちに泣きつかれている。


「メティアナ先生、今まで本当にありがとうございました。

先生がおったから我々大病せずにここまで来れました……。」


村のご老人たちからも感謝の言葉を述べられている。


「ほらカララ、これからは貴女がこの診療所を引き継ぐんだからみんなに挨拶しないと。」


「え……えっと……。」


カララは緊張で表情をこわばらせると、そのまま皆の前で硬直している。


「あ、あの………私なんかまだまだ、メティ先輩に比べると、全然若輩者なんですけど

…………この村の為に精一杯頑張るんで、その…………よ、よろしくお願いします!!」


カララは足をガタガタと震わせながらも、一生懸命な瞳で集まった人々を見つめる。


「よっ!頑張れよ、カララちゃん!」

「応援するから、困った事があったら言ってね。」

「ワシの嫁さんの若い頃そっくりじゃわい、ワシャシャ!!」


誰からともなく拍手が起きる。

その中心でカララははにかんだ笑みを浮かべる。


「メティお姉ちゃん!!」

「リーリア!ガンテさん!」


メティの元に鉄器屋の父娘おやこが駆け寄る。


「みなさん、昨日は本当にありがとうございました。

ご恩は墓場まで持って行きますんで!ほれ、おめぇも頭下げろ。」

「ごめんなさい!!」


「そ、そんな……頭を上げてください。」

「リーリアが無事だったんだから大丈夫ですよ。」


彼らの謝罪にかえってこちらの方が恐縮してしまう。


「それで、あれを渡すんだろ?」

「ん…………うん……、」


リーリアはもじもじとしながらメティに何かを手渡す。


「旅人の無事を祈る千里草………潰れちゃったから押し花にしたの…。」


メティは紙に貼り付けられてしおりになった押し花を慈しむような眼で見つめている。


「ありがとうリーリア、ありがとうガンテさん、ありがとうみんな……私………。」


メティが思わずホロリと涙をこぼす。

すると、せきを切ったように子供たちがメティに抱きつく。


「お姉ちゃーん!」

「やっぱりイヤだよ!!」

「うぇえええん!」


皆、涙を流しながらメティにしがみつく。

それに応えるように、メティは子供たちの頭を一人ずつなでていく。


「ほらみんな、泣かないの。

みんなが強くなってこの村アンムルの村を継いで行かなくちゃいけないんだからね。

だから、ツラくても頑張って…。」


メティの口から詞が紡がれるようにして惜別の言葉が零れ出る。


その光景に、俺の胸も静かに震えていた。


「カムド、私は知り合いと言えば研究所の方か貴方がたしか知りませんが…………こういうのって良いものですね……。」


「バカッ、急に変な事言うなよ…!」


イブの一言にそれまで我慢していた涙がひとつ、ふたつとあふれた。


故郷の情景を失った俺にとっては、この村は既に俺の故郷でもあったんだ…。

改めてその事に気付かされた。


………。


「ミゲルはみんなに挨拶しなくていいのかい?」

「……そういうリックはどうなんだ?」


リックとミゲルは既に馬車に腰かけて出発の時を今や遅しと待っていた。


「私は……ここに知人がいるわけではないし……、変に情が移ってもイヤだからね。」


リックはどこか寂しそうに笑う。


「僕は………お別れってあんまり慣れてないし…………。」


ミゲルは口ごもりながら言葉を続ける。


「それに、イブの姉に、アームストロング一味に、復讐を遂げるまでは……。

僕自身がいつ死ぬかわからないのに、人々と深く関わりを持つのはやめようと思ったから……。

人を失うツラさは、どんな絶望よりも苦しいから…。」


「そうか……少しだけわかるよ…。

でも、人と関わりを持たないのもそれなりに大変だけどね。」


ミゲルとリックは話終えるとぼんやりとアンムルの最後の空を、夜がゆっくりと明け行くのを見つめた。



…………。




「よしみんな、別れは済ませたな?

ケツに根っ子が生える前に出発するぜ!!」


エムバラが軽口を叩き、馬をはやす。


これで本当にこの村ともお別れなのだ………。

メティもどこか少し浮かない顔をしている。


「みんなしてショボくれた顔してんなよ!

サヨナラじゃないぞ、出発の挨拶はひとつさ、わかってるだろ!」


「あーもう、そんな言われなくたってわかってるって!」

「ふふっ、そうだね、それじゃあみんな!!」


「「「行ってきます!!」」」


少年、少女の声が夜明けの村に響く。

いつか「ただいま」の声でこの場所に帰る日の事を願いながら。


この声が彼らの長く、過酷な旅への幕開けの合図である事を


この時の彼らは、まだ知るよしもなかった………。




第十七話 完

どうも、醍醐郞です。


一週間待たずに投稿出来たのはまぁ良いとして、他の連載まで全く手が回らないのが口惜しい限りです。


創作作品が好きなのでこんな駄文を書き続けられている部分は多いのですが、やっぱり楽しさはアウトプットよりインプットの方が楽しいですね、書くより読む方が気楽で楽しいです、これは多分何話書こうが変わる事はなさそうですね。


じゃあ何のために書いてるのか、これは多分達成感と自己満足、あとは作品に対する漠然とした自信なんでしょうね。

特に自信の部分、この作品を眠らせてしまったら勿体無いという気持ちは書くモチベーションとして非常に高い気がします。


評価してもらうにもまずは完結させてからでないと評価のしようもないと思うのでソコを目指して頑張ろうと思います。


長くなりましたが、それではまた。




追記:PVが全く伸びないと思ったら……君の名はかぁ、ノーマークだったぁ!!

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