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異世界で俺と握手!  作者: 醍醐郎
18/20

第十六話 居場所

あらすじ


異世界への転移が常識となった未来の話。

転移に憧れた少年が移った異世界は“打ち捨てられた世界”と呼ばれる過酷な大地だった。


転移先で記憶の一部と名前を失った少年は、いつしか自らの事をカムドと名乗るようになる。


異世界で助けてくれた兄妹と行動を共にしていたある日、彼らの恩人が謎の女性に殺害され、彼らは仇討ちを決意する。

そんな彼らの元へ、カララと呼ばれる少女が現れ物語は動いていく。


握手した相手に“共感”を与える能力と共に、少年は打ち捨てられた世界を駆ける!!




登場人物


カムド(主人公)

異世界に憧れ、異世界に誘われた少年。

自らの記憶を失い、カムドと名乗る。

情に篤く、非常に涙もろい。

握手した相手に“共感”を与える能力を持っている。


メティアナ

辺境に住まう兄妹の妹、あだ名はメティ。

非常に優秀な医者で美しい赤髪をした才色兼備の女性。


イブ

謎多き銀髪の女性、洋館に閉じ込められて過ごしていた。

華奢な見た目からは信じられない程の身体能力を持っている。


エムバラ

辺境に住まう兄妹の兄、現地読みでは“ンバラ”らしい。

狩人としても職人としても一流のウデを持っているのだが、非常に口が悪い。


ミゲル

火術使いの魔導師、金髪の美少年。

幼くして両親を地球人に惨殺された過去を持ち、またメティに対して恋心を持っている。


リック

リチャード・ハーパー、地球・アメリカ出身。

理知的で分析力に長けており、カムド一行の潤滑油的な存在。

物事を瞬間的に記憶する能力を持っている。


カララ

メティの事を先輩と慕う少女。

快活で気の強そうな見た目をしている。

「メティ先輩!あなたと異世界人を引き離しに来ました!!」

「引き離しにって……カララあなた…。」


メティは突然の事態に困惑した表情を浮かべている。


「それで、誰が異世界人なんですか!?

あなたですか!?あなたですか!?それともあなた…………は手の甲に火の入れ墨があるから違うか…。」

「なんなんだ、この人は…。」


カララと呼ばれたこの少女は、鼻息荒く俺たちの顔を一人ひとり指差していく。

いつもなら女とみればすぐに鼻の下を伸ばすミゲルすら怪訝な表情を浮かべている。


「ちょっとカララ、久しぶりに会ったと思ったらいきなり…私のお客さんに対してその物言いは失礼じゃない?」


「だってぇ!!先輩は薬学の神・ペルムルのホープなんですよォ!

そんな方が異世界人なんかと一緒にいる事で才能が無駄になったらどうするんですかぁ!!

私は先輩の事が心配で飛んで来たのにそんな言い方酷いですよぉぉぉーーーっ!!うえーーーーん!!」


カララはわざとらしく目を両手で隠す。


「嘘泣きしたってダメ!!病人もいるんだから静かにしてよね。」

「ちっ、バレたか!!さすがはメティちゃん先輩!」

「ちょっと、なにメティちゃん先輩って、変な呼び方しないで!」


………まーたキャラの濃いヤツが出てきた。

先程まで治まっていた頭痛がぶり返してきたのはきっとカノジョのせいだ。




異世界で俺と握手!【第十六話 居場所】




「メティ先輩!私は先輩の事が心配で言っているんですよ!?

既に近所の村では先輩が異世界人とつるんで悪さをしているなんて言う人もいるんです!!」

「一体誰がそんな根も葉もない事を…。」


カララは表情を曇らせる。

「先日、大魔道師ダルムマルカス様が亡くなりましたよね?

アンムルから来た薬師が異世界人と結託して彼を殺したのだと噂になっているんです!」

「……!?」

「ダルムマルカスって……ダマ先生の事か!」


俺は思わず身を乗り出させる。


「おいあんた、その話は誰から聞いたんだ!?」

「な、なんなんですかあなたは!」

「いいから教えてくれ、誰から聞いたんだ!?」


初対面の相手に失礼な態度だったかもしれない。

だが、この時の俺は完全に頭に血が登っていた、今にも掴み掛からん勢いで彼女へと詰め寄る。


そのあまりの剣幕にカララは渋々といった表情で口を開いた。

「私は……知り合いに聞いただけですけど、知り合いは元火術研究所の弟子の人からだって……。」


「まさか………!」


リックがハッとした表情を浮かべる。


「リック、誰か心当たりあるのか?」

「そんな噂を流して得をするのは、おそらく彼女くらいじゃないか?」

「彼女って、まさか!」

「イブの………!」


イブの姉と対峙した時の事を思い出す。

あの殺気、人間に対してまるで虫でも見ているかのような眼差しをしていた。


彼女の無機質な表情が脳裏に浮かび、首筋にじとっと汗が吹き出すのを感じた。


「噂を流した?一体どうして?」

「予測する事しか出来ないが…撹乱目的か、単なる嫌がらせか……ともかく我々は彼女に敵対認定を受けたのは確かだ。」


ぞっとしない話だ、彼女の力はまだ未知数の部分が多いが、もし彼女がこちらを積極的に狩りに動いたとしたら、果たして皆が無傷でいられるだろうか?


…ふとそんな嫌な考えが頭をよぎった。


「こーらーーっ!今話をしているのは私なんですよ!!

無視しないでくださーーっい!!」

耳もとで大声を出されて鼓膜がキーンとなる。


「だーーっ、うっさい!耳キーンなるわ!静かにしろぃ!!」

耳障りなキンキン声に反射的に怒鳴り返す。

しかし、彼女もその程度で黙るようなタマではないようだ。


「イーヤでーすぅー!!メティ先輩が異世界人と縁を切ってくれるまで、私はここでみんなの耳をキンキンさせ続けちゃうんですからね!」


こちらが真剣な話をしている時になんてはた迷惑な決意表明なんだろう。

なんだかとてつもなくイライラしてきたぞ。


「なんでこの世界の人間は異世界人ってだけでこんなにぎゃんぎゃん騒げるんだ、クッソうぜぇ!!」


「わ、悪かったな……。」

ミゲルがバツの悪そうな表情で呟く。


「なんですかその物言いは!さてはあなたが異世界人ですか!?」

「ああ、だったらどうした!?」


そろそろ鬱陶しくなってきた。

思わずカララを睨みつける。


「当然、メティ先輩と別れてもらいます!」

「ああそうかい、なら腕ずくでやってみろよ!」


売り言葉に買い言葉、もはや後に引くことはできない。


「ちょっとカムド、やめてよ!」

「俺は大丈夫だ、ここからテコでも動かない。」

「いや、そうじゃないでしょ……。」

メティは思わず頭を抱える。


「なんですそのバカにした目は!私をきゃわいいだけの女の子と思わないでくださいよ?」


「可愛くねーし、ムカつくわ!!」

「むっきー!言いましたねー!?

覚悟してくださいよ!」

まるっきり子供の口喧嘩のようだったが、表情を見るに二人とも本気だった。


カララはスッと身を屈めるとーー


次の瞬間には俺の背後に回り込み


軽やかにこちらの右腕を取り


「このぉっ!!」


ひしぎ上げてきた。


「……がっ!?」


予想外の痛みに俺は思わず声を洩らす。


「それから、こうだっ!!」ドウッ!


俺の腕を左手に持ち替えると、無防備になった右の脇腹を掌底しょうていで小突き上げてくる。


「がはっ!!……ゲホッゲホッ!」

衝撃に一瞬呼吸が止まる。


「どうですか!私も医者のはしくれ、人体のどこをどう攻撃すればいいかは熟知しています!」


ドスッ!ギリギリギリッ!

カララは手を手刀の形に変えて脇腹に一撃を叩きつけて来る。


「ぐっ!!」


こちらが衝撃に呻いているとーー

そのままグリグリと右手に力を込めてきた。


「彼女、結構ケンカ慣れしているみたいだね…。

普通は他人を殴る行為に抵抗があるはずだけど、彼女は攻撃に容赦がない。」

「うん………。

しょっちゅうケンカするからよく先生から怒られてた……。」


リックの問いにメティは頭をもたげながら答える。


「降参するならこれ以上危害は加えません、その代わり二度と先輩には近付かないでください!」


カララは勝ちを確信したのか、こちらを侮ったような笑みを浮かべてきた。


「コイツ………!」

「ほら、これ以上は時間の無駄です、早く諦めて私たちの前から消えてくださいな。」


「ナメるなよ!!」


俺は脇腹にめり込んだ手刀を左手でガシッと掴むと…。


「きゃっ!?」

グン!と手前に引き寄せながら左向きにターンする。

カララが体勢を崩し、ダンスのように輪を作りながら半回転する。


「早いッ!遠心力で引き剥がすつもりか!!」

思わずリックが唸る。


先ほどまで極められていた腕がほどけかけているのを見て、俺はカララの腕を力一杯振りほどいた。


「さっきはよくもやってくれたな。」


反撃開始だ、掴んでいた腕にギチギチと力を込める。


「痛いっ!!」

「……あっ、すまな…………ぐおっ!?」

カララが悲鳴をあげたのを聞き、咄嗟に手を離してしまう。


「隙あり!」ドンッ!


すると、彼女はこちらの身体を突き飛ばしてきた。


「何すんだよ!」


反射的に彼女の腕を取ると、そのままもみ合いのような形になり、両腕での押し引きが始まる。


「は、離して!」

「いやだよ!離したらまた突き飛ばすつもりだろ!」

「当たり前でしょ!」

「じゃあダメだ!」


そのままギリギリと腕を押し込む。

そろそろこの押し合いにも疲れてきた、早く諦めてくれないだろうか。


「このっ!離せ!!」

「のわっ!!」


こちらの集中が切れかかっていたのを見抜かれたか、カララがサッと腕を引っ込めてこちらを引き剥がそうとしてくる。


こちらも離してはなるものかと必死で追いすがると、バランスが崩れて前に勢いよくつんのめる。


身体を支えようと腕が彼女の肩に掛けたところ……。


「さ、触らないで!!」

「うわっ!バカッ!!」


カララがむちゃくちゃに暴れだしたため、そのまま前にずるっこけ………。


ドターーーン!!


「ひゃぁっ!」

「むぎゅ!」


彼女ごと地面にもつれて倒れてしまった。


「いててて………。」


なんとか倒れた身体を起こすと、片手が何やら柔らかいものを掴んでいる事に気付く。


『むにっ……』

「むにっ?…………のぐわぁっ!!」


なんと、あろうことか俺の右手は彼女の胸の上に置かれ、鷲掴み状態になっているではないか!!


「あっ…………あっ…………あっ!!」

「わわわわっ!!す、すまん!!」


驚きの表情を浮かべて頬を紅潮させるカララ。

俺はいたたまれない気分になり、急いで身を跳ね起こす。


「ごめんなさい!ごめんなさい!そんなつもりじゃ………。」

「カムド…………。」

「いや、わざとじゃないぞ、断じて!!」


メティからの軽蔑の眼差しに思わず手をブンブンと振り回す。


「カララごめん!……そっ、そのっ、おっ………おっ…………おっぱ………!!」


動揺のあまり下品な言葉が口を突きそうになったところで……。


「いやっ…………………いやああああああっ!!」

ビッターーーーン!!


涙目になったカララから強烈なビンタが見舞われる。

今日は厄日だ。



―――――――――――――――――――――――



「………大体の話はわかった、噂を聞きつけて不安になったから人様の診療所で大暴れしたと。」

「はい、その通りです……。」

「そうか、お前の行動でお前が嫌う異世界人以上にうちに迷惑が掛かったんだが、何か言うことは?」

「大変申し訳ありませんでした………。」


カララの様子が落ち着いた所で俺たちは診療所からメティたちの家に場所を移した。

事のあらましをエムバラに説明したところで、彼女はエムバラにこってりと怒られている。


人様の建物の中であれだけ暴れたのだから仕方のない事だろう。


「そそそ、それでお兄様……わ、私の処遇は……。」

「はぁ………、本来なら出入り禁止にしたいけど、お前の事だからどうせ黙って来るだろ?」

「そ、それじゃあ……!」

「そのかわり、もう暴れるんじゃねぇぞ?」

「ほっ……。」


エムバラから容赦の言葉をかけられ、カララは胸を撫でおろしている。


「さて、次はカムド、お前の番なわけだが。」

「や、やっぱり?」


喧嘩両成敗、カララの次は当然俺に声が掛けられる。


「ち、ちょっと待ってくれ、先にケンカを吹っ掛けてきたのも手を出してきたのも彼女の方だ!」

「問答無用だ、話を聞く限りではお前も応戦して暴れたんだろ。」

「そ、それはそうだけど……。」


ぐぬぬ…………たしかに人様の建物の中で一緒になって暴れてしまったのは事実だ。

こちらに反論の余地は残されてはいなかった。


「そしてどさくさに紛れて胸を揉みしだいた、と。」

「な、なにをっ……あれは偶然だ!!」

「そんな都合のいい偶然がどこの世界にあるんだよ。」


「ま、待て、あれは事故だ!!」

「やっぱり……。」


メティから軽蔑のこもった痛い視線が注がれる。


「や、やめてくれ、誤解だ!!」

「カムド、気持ちはわかるけどアレはダメだよ……。」


挙げ句、ミゲルにまでダメ出しされる始末……。

屈辱だが今は何を言っても逆効果な気がする…。


「とりあえずカムド、暴れて不快な思いをさせた事をみんなに謝れ。

それから暴力を振るった事をカララに謝れ。」


「あ……ああ、そうだよな。」


少し釈然としない気分は残るが、俺がケンカした事で皆に嫌な思いをさせた事は確かなのだろう。

ならば謝るべきだ。


「みんな……ゴメン。」


皆を見ながら深く頭を下げる。


「カララ………ごめん。」


カララは顔を赤くしながらこちらと目を合わせようともしない。

内心少しムッとしたが、やはり悪いことをした以上は謝るべきだと思う。


ミゲルの時とはワケが違う、彼女は呪いのアイテムで脅してきたわけではない。

俺が単純に彼女を気に入らないと思ったからケンカに応じてしまった。


突っかかってくるヤツと片っ端からケンカしていては異世界人とか地球人とか関係なく周り中敵だらけになってしまう。


…今後は何を言われようが、何をされようが、多少の事は我慢できる度量を身に付けなければいけないのかもしれない。


メティや、みんなにイヤな思いをさせない為にも……。


「さぁ、反省会は終わりだ。

カララは宿はあるのか?」

エムバラがカララを見やりながら話し始める。


「えっと一応………はい………ペルムルの修道院に。」

「そうか、村はずれだが今の時間なら大丈夫だな、早く帰れよ?

話なら明日、改めて聞くから。」

「はい…………失礼します。」


この跳ねっ返り娘、エムバラの言うことだけはやたら聞き分けが良い。


メティの兄として敬われているのだろうが、目の泳ぎっぷりを見るに恐れられているようにも見える。


「えっと、カララ……気を付けてね?」

「はい、ありがとうございます…。」


カララはすっかり意気消沈しているようだ、メティの言葉にもどこか力のない返事をする。

とぼとぼと別人のようにショボくれて帰って行く姿を見て、ちょっとだけ気の毒な気持ちになる。


「……………………行ったか。」


皆が黙りこんでいると、重々しく口を開いたのはエムバラだった。


「はてさて……何から話したもんかね。」


エムバラは自らの顔をくしゃくしゃと撫で回した後、虚空をぼんやりと見つめる。


「あの…………エムバラ。」


そこへイブが声を掛ける。


「昨日はすみませんでした、私は自分の事ばかり考えていました。


私にとっての“居場所は”……ここなんです、ここだけなんです。」


「居場所………ねぇ。


まぁもういいだろ、昨日は俺も言い過ぎた、悪かったなイブ。」


あのエムバラが素直に謝っている…!

そして、これまで頑なに呼ぼうとしなかったイブの名前を呼んだ!!


その場にいた誰もがギョッとした視線をエムバラに向け、驚いているようだった。


「な、なんだよお前ら、その顔は。」

「いや、あのンバラが素直に謝るなんて……どこかおかしくなったかなと思って。」

「てめぇミゲル、言うに事欠いてなんつー言い草だてめぇ!」


「い、いや、だってそうだろ!!」とミゲル。

「お前がそんな塩らしい態度、絶対変だよ!気味が悪い!」

「そ、そんなにおかしかったか?」


「「うん。」」

エムバラの問いに皆がコクコクと小さく頷く。


「そ、そうか………。」

破天荒な所のあるエムバラも、これには少なからずショックを受けているようだ。

…だが、これも全ては彼の日頃の言動のせいだ、仕方がない。


「そ、そんな事はどうだっていいんだよ!

よく聞けよ、どうやら状況が変わったようだ。」

「………状況が変わった?」


どういう事だろう?

エムバラは真面目な表情に戻ると話を続ける。


「カララの話、聞いただろ?

俺は準備が整ってからヤツを追うべきだと思っていた。

だが、今ヤツは噂の流布と言う形で俺たちを追い詰めようとしている。」

「噂がどうしたんだよ、そんなのほっとけば良いだろ?」


「そうも行かねぇんだわ、それが。


今、俺たちが資金のアテにしているのは物の販売だが、ここで今変な噂を流される事は非常に都合が悪いんだ。」


「そうなのか?」


「うーん、結局物を売るっていうのは信頼があってこそだからね。

悪い噂が流されていたらどんなに良いものを作っても売れなくなっちゃう………かもしれない。」

「うーん……そういうもんなのか。」


メティが注釈を入れる。

彼女はいつも俺にもわかりやすいように丁寧に説明してくれるのでありがたい。


「あと心配なのは、国からの内偵だな。」

「な、ないてい………???」


「…スパイの事だよ、カムドくん。」


「スパイだって?国が?俺たちを?


いやいやいやいや~~、そんな大げさな~~。」


「それがあながち大げさとも言い切れないのが最近の情勢なんだよ…。」


リックが表情を曇らせる。


「リックのオッサンの言う通りだ、アームストロング一味の話は覚えてるだろ?」

「アームストロング……!!」


ミゲルが小さく体を震わせる。

無理もない、アームストロング一味と言えば彼の家族を惨殺した地球人の荒くれ者の集団の事だ。


「やつらが暴れて以来、お前ら異世界人は国からの監視対象だ、何せこの国の首都をひとつき足らずで滅ぼしたんだからな。

……俺たちがここで悠長に構えていたら、もしかしたら国から内偵……場合によっては治安部隊が送られる。」


「えっと………そういうの良くわからないんだけど、そいつらが来たら俺たちどうなるんだ…?」


「国に害を成すと判断されれば拘束、最悪の場合は処刑されるだろうな。」


「し……処刑って……冗談だろ!?」


「こんな趣味の悪い冗談言うかよ。

………お前らをかくまっていたと判断されれば俺たちの身も危うい。」


「……マジかよ、だからカララはあんなに真剣になっていたのか…。」


エムバラたちの説明でカララの失礼な態度にも合点がいく。

メティたちの身を案ずれば、彼女たちに害が及ばないように俺を引き離そうとするのはむしろ当然の事だ。


「そ、そうか………。


は、ハハハハ……俺たち地球人ってお前らからそんなに嫌われてたのか…知らなかったよ……。」


思わず渇いた笑いが出る。

薄々察してはいたが、俺たち地球人はこの世界では異物でしかないのだ。


「カムド………。」


「おい、ヤケになるなよなカムド、少なくともここにいるみんなはお前の味方だ。」

ミゲルがこちらの肩に手を置いてくる。


「お前が悪事に手を染めない限り、僕たちはお前の出自を理由に差別したりなんかしない、絶対な。」

「み、ミゲル……。」

ミゲルの思わぬ一言に思わず涙腺が緩む。


「な、なんだよ…泣いてねぇからな!

こっち見んじゃねぇ!」


「………無理して強がるなよ。」

「うるせっ!うるせっ!」


袖口で顔をゴシゴシと拭う。


本当に、この世界に来てからは泣いてばかりだ。

死にかけて、認めてもらえて、悔しくて…………。


この半月足らずの短い間に何度涙を流しただろう。

元の世界にいたらこんなに泣くことはなかっただろう。


だけど、俺はその涙と引き換えにして、何にも替えがたい仲間を手に入れた。

元の世界にいたら決して出会う事はなかったであろう、彼らと。


それを思うと、とても頼もしくて、少しむず痒くて、でも温かな満ち足りた気持ちに胸が充たされる。


「おい、ガキんちょども、話は終わってないぞ。」

「ハッ、そうだ……!


えっと、何の話だっけ!?」


しまった、途中で話が脱線したせいで内容をほとんど覚えていないぞ!


「………国の内偵をどう交わすか。」

「そ、それだ!!」


エムバラは呆れたような表情を浮かべながら腕組みしている。


「真面目な話、ここに留まるのは得策じゃないと思う。

既に噂ではアンムルの医者の兄妹と異世界人がつるんでるって所まで話が広まっているからだ。

具体的には、明日にでもこの家を引き払って、イブの姉を追う。」


「ちょ、ちょっと待て、いくらなんでも急すぎないか!?

それに引き払うって、そんなに急に家の買い手なんて付くものなのか!?」


「そのぐらい急を要する事になっちまってるんだよ。

それに、おあつらえ向きなことに買い手ならアテがある。」


「えっ、それって……。」




―――――――――――――――――――――――



「ええぇ~~~~っ!?先輩たちが家を出るぅぅ~~~!?!?」


「相変わらずやかましい女だな……。」


カララのけたたましい声にエムバラは耳を押さえている。


「うん、それでカララに私の診療所を引き継いでもらえないかな…って。」


「こ、光栄ですっっ!

で、でも私なんかで大丈夫ですかぁっ!?

だ、だけどなんで急にっ!?

っていうかメティ先輩いなくなっちゃうんですかぁ~~~~っ!?」


「あ、あははははー、う、うん…。」

「おいカララ、質問はひとつにしろよな。」


メティはカララの勢いに負けてタジタジの様子だ。


「メティ先輩たちがいなくなるから、私にこの家と診療所を買って欲しいと……。」


「うん、カララだったらこの診療所を上手く活かせるんじゃないかと思ってね。

…ほら、ペルムルの洗礼を受けた後もこの村に留まる人ってそんなに多くないじゃない?

この村からお医者さんがいなくなったら、きっとみんな困るから…貴方にお願い出来ないかなと思って。」


メティは寂しそうな笑顔を浮かべ、カララを見つめる。


「そう思って貰えてることは凄く嬉しいですけど……なんで先輩たちまで出て行かなくちゃならないんですか!

異世界人にだけ出て行ってもらうんじゃダメなんですか!!」


「ごめんね、でももう決めた事なんだ……。」


メティは小さく、でも力強く答える。


「私たちはダマ先生を殺した犯人を知ってる、あの人を止められるのはきっと私たちしかいない…。

だから、私たちは仇討ちをするまで帰れない…………帰らない。」


「そんな…………。」


「こんなお願い、貴女にしかできないから、最後に私のワガママを聞いてもらえないかな?」


「そ、そんな、最後なんて言わないでください!!」


「そうだぞメティ、ヤツをぶっ倒して俺たちはもう一度この家に戻ってくる。

だからカララ、お前には俺たちの復讐が終わるまでこの家を守ってもらいたいんだ。

そしてこんな事を頼めるのはお前くらいしかいない。」


エムバラの真剣な眼差しに固唾を飲むカララ。


何かを考え込んだ後、一拍置いて口を開いた。


「わかりました、私に任せてください。」

「カララ…………!」


「せ~~んぱ~~~い!!」ガバァ!


「きゃあああっ!?」


どさくさに紛れてカララがメティに抱きつく。


「や、やめてよ、みんな見てる!………恥ずかしいって。」

「先輩はズルいです、私が断れない事を知っていてああいう事を言うんですから。」


「……それは、ごめん…。」

「だからこれはお仕置きなんです…………先輩、絶対帰ってきてくださいね。」

「……………うん、約束するよ。」


「…えへへ。」


カララはメティの服に顔をうずめながら顔を左右に振る。


「カララ、もういい?」

「ダメです、だって、泣いてるとこ見られたくないもん……。」


ちょっと変な所はあるが、カララも根は素直な少女なのだと思う。

これだけ真剣にメティの事を考えてくれている事に、なんだかこちらまで嬉しくなる。


「………それと、そこのあんたぁぁぁ!!!」

「えっ、俺っ?」


微笑ましくその様子を見ていると、カララは突然こちらを振り返りビシッとゆび指してきた。


「メティ先輩は半分はあんたの為に旅立つようなもんなんだからね!

もし不幸にさせるような事したら、このカララちゃんが許さないかんねー!!」


「あ、ああ……任せろ。」

「声が小さくてお話になんないわー!!」


「任せろ!メティは俺が守る!」

「バカちん!あんたに守られる程先輩は弱くないんだからね!!」


「じゃあ、どうしろって言うんだよお前!」

「そんなの私が知るわけないでしょー!ガルルル!」


前言撤回!やっぱりコイツはワケのわからねぇヤツだ!!


するとここで突然エムバラが目を光らせながらカララに話しかける。


「おいカララ、ところでなんだが、この家はまだお前の所有物じゃあないんだ。

暴れたいなら払うもの払ってからにしてもらえないか?」


カララはハッとした表情になり、ポケットの中を探りはじめた後、気まずそうな笑みを浮かべる。


「え………えーっと、宿に帰らないと持ち合わせが……。」

「じゃあ今すぐ取りに行かんかぁぁぁーい!!」

「ひ、ひええぇーーっ!お助けぇぇーー!!」


……どうやら彼女でもエムバラには頭が上がらないようだ。



―――――――――――――――――――――――



「ひと、ふた、みつ……………ほい、確かに400万ビーツ、きっちりいただくぜ。」

「これ全部中身は金貨か!?凄いな……。」


手の平大の金貨が詰まった皮袋が四っつも並ぶ、その様は壮観のひとことだ。


「へぇ~、金貨なんて見るの初めてだ。」

「一般に流通してるのは銀貨銅貨が一般的だからな。

これは2万ビーツ金貨、一袋50枚入りでこれが4袋だ。」

「あぁ…三年かけた私の積み立て金よ、サヨウナラ~……。」


カララはホロホロと涙をこぼしている。


「なに泣いてんだよ、バリバリ働けばすぐに元は取れるだろ。」


「うぅ~~グスッ、先輩慰めてくださ~い。」ガバァッ!


「あーもう!こーらー、暑苦しいから離れなさーい!」


またカララがメティにジャレついている、あれはもう一種の癖か何かなのだろう。


「いいなぁ~、僕もアレやってみたいなぁ……僕がもう少し小さければ。」

「やったらその後ボコボコにするからな。」


ミゲルのしょうもないつぶやきに一応ツッコミを入れる。


「さぁ、差し当たっての資金は手に入った、明日の早朝にはここをつぞ。」


「明日!?また急だな……。」


「早いに越したことはない、カララが俺たちと付き合いがある事を悟られたくないしな。」


「あー、まぁそりゃそうか…。」


俺たちが国からの監視対象だと言うなら、なるべく無関係を装った方が彼女の為になるだろう。

何日もここに滞在していては俺たちが知り合いである事を気取られてしまう……かもしれない。


ならば、村を出るのは早いに越したことはない。


「さぁ、お前らも準備しておけよ、時間はあるようでないからな。

荷物の準備、最後に見たい場所、会いたい人、悔いを残さないようにしておけよ。」


「あ、ああ………。」


見たい場所、会いたい人か………。

それなら俺は………!



―――――――――――――――――――――



俺は荷造りを終えた後、鉄器屋の熊おじさんことガンテさんにお別れの挨拶をした。

リーリアにも挨拶をしたかったのだが、残念ながら彼女はどこかに遊びに行っていたようで、結局会うことは出来なかった。


既に暗くなりかけた窓の外をボーッと眺めていると。


「カムド、もうあの川を見るのも今日で最後なのですね……。」


イブから声が掛かる。


「あぁ、まぁそうなるよな。」

「なんだか、名残惜しいような、不思議な気分です。」


イブが目を閉じて耳に手を当てている。


「…………?どうしたんだ?」


「私は遠くの場所の音を聴く力があるんです。

だからあの川のせせらぎの音も持ち帰って来ました。」

「へぇ、便利な能力だな。」


「でも音を聞ける場所は十ヶ所ほどしか記憶出来ないんです、ランダムに場所を選ぶか、今のように任意で選ぶか……。

館の中で一人で暮らしている時はこうして外の音を聴く事で孤独を紛れさせていました。


実は姉がよからぬ事を画策していたことを察知出来たのもこの能力のおかげなんです。」


「そっか………その能力がなかったら、俺たち出会わなかったかもしれないんだな。」


「ですが……私がこのような能力を持っていたせいで、結果的にカムドたちの居場所を奪ってしまいました………。」

イブは瞳を閉じ、静かに首を横に振っている。


自責の念を抱いているのだろうか。


「なんだ、そんな事気にしてたのか、なっちゃったものは仕方ないだろ。

それに、いずれは俺もここを出るつもりだったんだ………メティはすげぇ反対してたけどさ。」


「…そうなんですか?」


「まぁだから…形はどうあれ、旅立つ理由が出来た事を俺は運命だと思ってる。

だからイブはあんまり気にするなよな。」

「運命……ですか…。」


…運命、か……我ながら柄にもなくクサイ事を言ってしまったかな。


「まぁその……なんだ?

俺は今のイブに会えて良かったよ、きっと今のイブがイブであってくれるのは、その能力のおかげだと思うから…さ。」


「なんだか哲学的ですね…。」

「………だな!時々小難しい事も考えたりするけど自分でもちんぷんかんぷんさ。」


「ふふっ……変なカムド。」


珍しくイブが笑う、彼女の微笑みに思わず胸が高鳴る。


「イブさぁ………お前、笑ってた方が素敵だよ……だから……。」



「カームードォォォ~~~!!

うらめしや~~~、お前メティアナさんと言う人がありながら~~~~!!」


突然部屋の奥からミゲルがヌッと顔を出す。


「のわっっ!!み、ミゲル………いつの間に!?」


「ずっといたぞぉぉぉ~!一部始終見ていたぞぉぉぉ~!!

呪ってやるぅ~~!!」

「うわぁ!やめろ、まとわり着くんじゃない!!」

「うるさーい!お前みたいな女たらしは呪い殺してやるぅぅぅ~~!!」


ミゲルはゾンビのような虚ろな表情を浮かべたままこちらにのし掛かってくる。

こうまとわり着かれていては鬱陶しくてたまらない。


「ただいまー!……って、カムドとミゲルくん………相変わらず仲良いね!」


まとわり着くミゲルを見てメティが呑気な反応を示している。


「うらめしぃぃぃ~~~~!」

「お前にはこれが仲良いように見えるのか!」

「………えっ?違うの?」


なんだか会話が噛み合わない。


「ぜん゛ばぁ゛ぁぁい゛!そんなヤツより私に構ってぇぇー!」

カララがメティの後ろから顔を覗かせると、死相を浮かべた表情でこちらを睨んでくる。


「青春だね~。」

いつの間にか背景と同化していたリックがしみじみと呟いている。

オッサンくさいぞ、リック。


だが、そんな賑やかで和やかな一時は早々続かないものだ。


「おいっ!!ンバラ、メティちゃん、いるか!?」


日もとっぷり暮れた夜、鉄器屋のガンテさんの声が周囲に響く。


「こんばんは、兄ィはまだ戻ってないけど……。」

「そうか…。」


珍しく慌てた様子だ、何かあったのだろうか。


「熊おじ………ガンテさん、どうかしたのかい?」

「よう兄ちゃんもいたか…………ウチのリーリア見なかったか?

昼頃からずっと戻らねぇんだ、もう日が暮れるってのによう。」


「あぁ、そういえば俺が会いに行ったときにはいなかったなぁ…。」

「えっ、そうなの?私は広場で会ったんだけどな……。」


ガンテさんは神妙な面持ちでアゴヒゲを触っている。

「その時何か変わった事はなかったか?」


「そういえば、お別れの挨拶をした後に……おみやげがどうとか……。」

「もしかして……!」


ガンテさんは何かに思い当たったのか、ハッとした表情を見せる。


「ありがとうよ、ちょっと探しに行く!」

「あっ、ガンテさん!!」


思わず呼び止める。


「なんだい?」

「俺も付いていっていいかな?

人を探すなら人数が多い方が良いと思うんだ。」


「…………。」

ガンテさんはたっぷりたくわえた顎ヒゲを撫でながら、こちらを見る。


「すまない、お願いしていいか?」

「困った時はお互い様だろ?」


「当然私たちも行くよ。」

「カムドひとりじゃ心配だからな。」

「ええ、協力させてください。」


メティたちも歩み出て協力を申し出てくる。


「みんな………すまねぇな。」

「良いってことさ!

………ところでリーリアの行き先に心当たりはないか?」


「うーむ、いそうなところは一応一通り探したんだが……。」


「……そういえば、メティに会ってからいなくなったって言ってたよな?

メティになにか餞別せんべつを用意したかったとか…?」


「もしかして……私たちの為に千里草の花を摘みに行ったとか……?」


「千里草?」

「うん、旅人の無事を祈願して送る風習があるんだ。」


「と言うことは………森か!」

「森………この時間にか……。」


以前、ゾンビと対峙した時の事を思い出す。

否が応でも悪い想像をしてしまう。


「リーリアが心配だ、行こう!」

「せ、先輩、私も行かせてください……!」


カララがメティに自分の同行を訴える。


「ううん、カララはここに残って、兄ィが戻ってきたら伝えて欲しいんだ!」

「う………うぅ、でも。」


「なぁに変な顔してるの、心配しなくても大丈夫、すぐ戻って来るよ。

帰ってきて誰もいなかったら兄ィも心配すると思うし。」


「……わかりました、でも無理だけはしないでくださいね?」

「うん、約束。」


メティとカララは互いの手を取り合って指に力を込める。


「………よしっ、みんな行こう!!」

メティが手をほどいた所で皆に力強く号令をかける。


「おうッッ!!」

リーリアはきっと大丈夫だ、そう自らを鼓舞するようにその声に応え、周囲を見渡す。


メティ、ミゲル、イブ、リック、ここにはみんながいる。

きっとみんながいれば大丈夫だ。


彼らの横顔を頼もしく感じながら、俺たちは森へと進むのだった。




第十六話 完

どうも、醍醐郞だいごろうです。


相変わらず執筆スピードが遅くて申し訳ないです。

同時連載の方はほぼ放置になってしまっている始末、楽しみにしている方がいたら本当に申し訳ないです…。

バリバリ書いてる作家さんたちは一体どうやって時間を捻出しているんだろう……。


さて、今回16話ですが、当初の予定ならこの位のパートでそろそろアームストロング一味とはなんぞやという所に踏み込んでいる予定でした。

なかなか進度が上がらず、今これは書きたかった所の全体の16%くらいですかね?


死ぬまでの間に書ききれるのだろうか?なんだかとてつもなく不安になってきた……。

まだハードボイルドらしさをお見せ出来ていない気がする。


時間もおサイフも身体も厳しい状態だけど、頑張ります!

それではまた!

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