第十四話 異世界のハニーハント!?
あらすじ
異世界への転移が常識となった未来の話。
転移に憧れた少年が移った異世界は“打ち捨てられた世界”と呼ばれる過酷な大地だった。
転移先で記憶の一部と名前を失った少年は、いつしか自らの事をカムドと名乗るようになる。
異世界で助けてくれた兄妹と行動を共にしていたある日、彼らの恩人が謎の女性に殺害され、彼らは仇討ちを決意する。
現在は仇討ちの旅に出る為、一行は路銀集めに勤しむのだった。
握手した相手に“共感”を与える能力と共に、少年は打ち捨てられた世界を駆ける!!
登場人物
カムド(主人公)
異世界に憧れ、異世界に誘われた少年。
自らの記憶を失い、カムドと名乗る。
不器用で純朴な少年だったが、段々と異世界への生活に順応してきている。
情に篤く、非常に涙もろい。
握手した相手に“共感”を与える能力を持っている。
メティアナ
辺境に住まう兄妹の妹、あだ名はメティ。
非常に優秀な医者ではあるのだが、自分の医術でお金を稼ぐ事に躊躇いも持っている様子。
美しい赤髪をしており周辺の村ではその美貌も評判の才色兼備。
身内に粗暴な面を見せる欠点を除けば完璧な女性。
イブ
謎多き銀髪の女性、洋館に閉じ込められて過ごしていた。
彼女の姉が兄妹の恩人を殺した犯人。
相手を食らうことでその能力を奪えるのだという。
華奢な見た目からは信じられない程の身体能力を持っており、物体をすぐ近くまで引寄せる“引寄せの能力”と、“遠くの音を聞く能力”を持っている事だけわかっている。
エムバラ
辺境に住まう兄妹の兄、現地読みでは“ンバラ”が正確な発音らしい。
狩人としても職人としても一流のウデを持っているのだが、才能故に不遜な態度を見せる事も。
頼りになる兄貴分だが、非常に口が悪い。
放った矢が相手を追いかける能力を持っている。
ミゲル
火術使いの魔導師、金髪の美少年。
その年齢にしては恐ろしい程の魔力を秘めているが、気を許した相手には幼稚でわがままな姿も見せる。
幼くして両親を地球人に惨殺された過去を持ち、地球人に対して深い憎しみを抱いていた、またメティに対して恋心を持っている。
リック
リチャード・ハーパー、地球・アメリカ出身。
理知的で分析力に長けており、カムド一行の潤滑油的な存在。
オッサンと呼ばれる事を嫌っているようだが、オッサンに片足突っ込んだ年齢であることは否めない。
物事を瞬間的に記憶する能力を持っている。
「ミゲル、カムド、手はず通り頼むぜ、白髪女…しくじるんじゃないぞ。」
エムバラの号令に合わせて各自配置につく。
エムバラは煙幕を矢で打ち込み、煙が効いたタイミングで巣を切り崩す役。
ミゲルは着火と寄ってくるハチを駆除する役。
イブは巣を引き寄せて回収する役。
俺は彼らの介助と、寄ってくるハチを駆除する役だ。
地味な役回りではあるがしっかりと任務をこなそう。
「それじゃ、着火頼む。」
「任せとけ!」
エムバラの合図でミゲルは松の枝葉を入れた網に火をつける。
やがて網の中を火が伝搬してゆき、ゆっくりと白煙が立ち上ぼり始めた。
「よし、それじゃあ撃ち込むぜ、各自抜かるなよ!!」
エムバラは弓を引き絞り、狙いを定める。
ビュオオオッ!ガツッ!!
煙幕をくくった矢がキラービーの巣の真横、木の幹に打ち込まれた。
「よっしゃ、命中だ!第二波急げッ!」
「任せろ!」
エムバラの号令にミゲルが応える。
その場の空気が引き締まるのを感じた。
ゴブリンの群れの時にも感じたこの感覚。
確かにエムバラの弓の腕は大したものだ、だが彼の真の凄さは人を動かし、導く力にこそあるのだと俺は思う。
…こんなこと、ムズ痒くて本人には絶対言わないけど。
異世界で俺と握手! 第十四話【異世界のハニーハント!?】(D社さんゴメンナサイ!)
ガツン!!
二発目の煙幕も巣のすぐ近くに突き刺さる。
さすがはエムバラといったところか。
松の枝葉から煙がモクモクと立ち上る。
リックから聞いた話では松に含まれる脂、松ヤニは燃やした時に大量のススや煙を吐き出すのだという。
確かに煙幕にはうってつけかも知れない。
キラービーたちは煙にいぶされ、たまらず巣を飛び出し周囲を旋回する。
「カムド、ミゲル、来るぞ!!」
エムバラの声に呼応するかのように、数匹のキラービーがこちらへ向かって飛んでくる。
防護服を着込んではいるが、打ち漏らせば当然ダメージは受ける事になるだろう。
毒によるアナフィラキシーもこわい、防護はしているが刺されないに越したことはない。
ここは俺たちでしっかりと射ちとってやる!
「いくぞ!豪連弾!」
ミゲルは手の平をパッと拡げて術名を詠みあげる。
すると、声に合わせて数発の火球が次々と発射され、キラービーを次々と打ち落としていく。
「よし!!」
ミゲルは思わずガッツポーズをする。
「いや、まだだ、次が来るぞ!!」
奥から七匹……いや、十匹はいるだろうか、キラービーが次々とこちらへ目掛けて飛んでくる。
「どうしようカムド、豪連弾は次の発射まで装填に時間がかかるんだよ!」
「違う術ならすぐに打てるのか?
例えば俺が矢を射ったら、その回りを巻くように炎を出せないか?」
「その程度ならいけそうだな…………やってみよう!」
ミゲルは人差し指と中指を二本合わせて前に突き出す。
「カムド!先に射ってくれ!!」
「わかった!3つ数えたら射つ、上手く併せてくれよ!!
1、2の3!!」
バシュッ!
俺は目一杯矢を引き絞り、キラービーたちの中心へ放つ。
「集い来たりて渦を成さん!赤流波!!」
「詠唱!?第三小節の呪文か!」
詠唱の必要な中級以上の呪文を見るのはこれが初めてだ。
ミゲルが呪文を唱え終わると彼の指先から炎の渦が逆巻き、矢の後を追うようにして飛んでいく。
熱風に煽られてキラービーの群れは火の粉を散らして燃える。
蜂たちは熱風に煽られ赤橙色に染まったかと思うと、そのまま空中で消し炭となりボロボロと朽ちて落ちていった。
「やったな、カムド!!」
ミゲルは喜びの表情を浮かべているが、俺は今の技には少し不満が残る。
今のがキラービーではなくイブの姉が相手だった時に、果たして通用するだろうか…?
「何とかなったけどタイミングが合ってなかった気がする…。」
「初連携にしては上出来さ、矢の軌道に乗れたから僕の術もあそこまで飛ばせたんだ。
だけど、今はそんな事よりも………!」
ミゲルは少し焦ったような表情でエムバラを振り返る。
「ンバラまだか!?早く巣を回収して帰ろう!」
エムバラは焦りを見せるミゲルとは対照的にあくまで冷静そうな表情を保っている。
「ああ、ボチボチ煙も効き始めてる……!
こっからが正念場だ、覚悟決めろよ!」
エムバラが巣に向けて弓を引き絞る。
俺でも目視できるかギリギリの位置だが、彼は視界に巣をはっきりと捉えているようだった。
「いくぞ、白髪女!」
「ええ。」
エムバラはイブとアイコンタクトをした後、弓を解き放つ。
限界まで絞られた弓は、ビュオン!と唸りをあげて矢を弾き出した。
――――ストン!一発命中。
ストン!続け様にもう一発命中!
パラパラ………ドスン!!
命中した矢が蜂の巣を砕く。
木片の散らばる音がした幾ばくか後、ビーチボール大のいびつな半球体が地面へと落ちてきた。
…あれがキラービーの巣か!
「引き寄せます、くっついてきた分の蜂の処理はお願いします!」
「OK!」
イブが引き寄せの能力を使う。
対象物に手の平をかざした後に素早く手招きのような動作をする。
次の瞬間にはイブの手元に蜂の巣が移動してきていた。
「うげっ!?」
「ひいぃっ!?」
ブブブブ……!
蜂の巣に吸い寄せられて何匹かの蜂が巣から身を這い出させている。
蜂の子と共にウゾウゾとうごめくその姿は、俺やミゲルに嫌悪感を抱かせるに十分足るものだった。
「うおおおおっ!」バタバタバタ!!
「うああああっ!」シュボッ!ボボッ!
俺はナタで、ミゲルは火の術で蜂を払う。
こちらも刺されたくないからもう必死だ。
ブブブ…ブブブブブブブ!バチン!バチン!
煙幕や巣の半壊により、半狂乱状態になったキラービーたちが無秩序に周囲を飛び回りだし、木や防護服にぶつかる音がする。
闇雲に飛び回るうちに、こちらに勘付いた個体数匹は防護服に群がり、噛みつき、あるいはなんとか針を通そうとしきりに刺してくる。
この時の羽音がなんとも不快で、ずっと聞いていると段々鳥肌が立ってくるのがわかる。
「よしっ、巣は回収したな?早いトコずらかるぞ!」
こうなれば長居は無用、俺たちは巣を丈夫な麻の袋のような入れ物に投げ入れると、その場を後にしたのだった……。
「やった!成功だな!」
「ふぅ、なんとかなった…。」
俺とミゲルは安心感から胸を撫で下ろす。
「よし、今日一発目にしてはなかなかの収穫だったな。」
「………今日一発目?」
なにか変な事を口走ってなかったか!?
「まさか今ので終わりのつもりじゃないよな?
夕方までまだ時間がある、今日は蜂の巣狩り三昧だ!!」
「「う、うそだぁーーー!!」」
俺たちはぼろ雑巾のようになるまで蜂の巣狩りに付き合わされる事となる。
少し刺されるし、そりゃあもう大変だった……。
「スゴいね!蜂の巣一日にニつもゲットなんて!」
「少し刺されてしまいましたが楽しかったです。」
「どこがぁ!?熱いし痛いし疲れるし、最悪だっただろ!」
思わずイブの発言を真っ向から否定する。
「あははっ、大変だったね。
さぁさ、軽く診察するからみんな刺されたを場所見せてね。」
「はいっはいっ!!メティアナさん!僕、背中十ヶ所くらい刺されちゃいましたぁ~~!痛くて死にそうです~~~~っ!!」
「いや、一ヶ所しか刺されてなかっただろ!?ってか元気そうだなお前!」
思わずミゲルに突っ込みを入れる。
「刺された場所ですか………服、脱いだ方が良いですよね?」ぬぎぬぎ
イブは言い終わるより早く服を脱ぎ始める。
「イ、イブ!ちょっとタンマ!」
「はあぁぁ~~~!目のやり場に困るからやめてぇ~~~!」
「カ、カムド!子供は見ちゃダメだ!!」
「いや、お前も子供だろ!!」
思春期男子の前でイブ女史が無造作に服を脱ごうとするものだから馬車の中が混沌としていますよ。
ちょっとしたカオス空間ですよ。
「あはははっ、なんだか楽しそうだね。」
遠巻きにリックが笑う。
「わかってるかお前らー、まだ終わりじゃないからな!!
巣の鮮度の落ちないうちに分別、圧搾、加熱処理までしてやらないと商品にならねぇ。」
エムバラがすっかりお気楽気分になっていた俺たちにクギを指す。
「えーー……疲れた。」
「えーーっ……明日にしようよ。」
「「えええぇーーーっ………。」」
俺とミゲルからブーイングならぬ、エーイングが飛ぶ。
「うるっせぇ!『えー』っじゃねぇ!ツケの分までしっかり働けガキん子ブラザーズ!!」
俺たちの『えー』の輪唱は家まで続いた。
「お爺さん、なにかエーエーと変な音がするのぅ。」
「婆さん、あれは“エーエー虫”の声じゃ、夏が近付くとハチミツを求めて集まって、ああやってエー!エー!と鳴くんじゃ。」
「………はて、そんな虫いましたっけねぇ。」
―――――――――――――――――――――――
「成虫は首をもいでおけ、飛び回られると厄介だ。
幼虫は瓶詰めにしろ、蜂の子は高値で売れる。」
「だー!エムバラも手伝ってくれよ!!」
俺たちはアンムルの村外れで巣の分別作業をしていた。
ある程度選別は済ませていたが、それでも中には成虫が混じっている。
成虫は目が明かりに慣れていないうちにグビをもぎ、煮えた油の中に次々と放り込む。
キラービーの素揚げはこれはこれで珍味として珍重されているらしい。
蜂の子は言わずと知れた森のタンパク源だ。
味も食感も病み付きになるほど美味しいらしいが……。
ウゾウゾウゾウゾ……。
「ヒイイィッ!か、カムド代わってよ!僕このウネウネしたの無理だよ!」
「わがまま言うなよ、こっちも手いっぱいだっつーの!」
ウニョウニョキシキシ
「ひぇーーっっ、やっぱギブ!」
またいつものミゲルの泣き言が始まる。
こんなときの特効薬はアレしかないだろうな。
「はぁ…………メティ、いつもの頼む。」
「えっ?いつものって?」
「ちょっと耳貸して。」
俺はメティにこそこそっと短く耳打ちをする。
「えっ、えっ?そんなこと?」
「悪いっ!頼むよ!」
「まぁいいけど…。」
メティはいぶかしげな顔をしながらも了承した。
「み、ミゲルくーん、蜂の子はね、とっても貴重な生薬になるんだよぉ~~~。
それでねー、たくさん取れたら私と~~~~っても嬉しいなぁ~~~、なんて。」
言いながらなんとなく赤面しているメティがなんだかいじらしい。
「か、カムド、ほんとに今ので良かったの?」
ミゲルは蜂の巣を抱えたまま微動だにしない。
「あれ、おかしいな………?」
「なにそれ、じゃあ今のは言い損!?」
メティがムスッとしながらこちらを睨む。
「いや、損とかそういうのじゃ……。」
「うおおおおっ!メティアナさんの為ならうおおおおおおおっ!」
俺がなんとか取り繕おうとしていると、唐突にミゲルが選別を再開しだした。
そのやる気といったらあまりの早さに手元が見えない程の早業だ。
「す、すごい!音速を越えている!!」
「これが……ミゲルくんの真のチカラ!?」
「うおおおおおおっ!!!」
しゅばっ!すちゃっ!ぽとん!
あまりの早さに周辺に砂ぼこりが舞い立つ!
「うおおおおおおおおおっ!!」
「うるせぇしハチミツにホコリが混じるだろ、もっと静かにやれ!」ポカリ!
「い、いってええぇ!」
エムバラの容赦ないゲンコツがミゲルを襲う。
ミゲルは頭を抑えて悶絶している。
「ほれ、夜までに全部終わらせるぞ、次は圧搾だ。」
エムバラは何やら一斗缶のような箱を取り出す。
「なんじゃこりゃ?」
中を覗き込むとローラーが二本取り付けてあり、外側に手回し用のハンドルが取り付けてあり、底には網が取り付いている。
「はっはぁ、これを回して絞りなさいと。」
「お前も察しがよくなってきたな、ローラーの位置を丁度いいところに調整して、巣を間に通す。
お前はそっち側を回してくれ。」
「こ、こうか?」
反対側のハンドルをクルクルと回していると、ローラーの間に巣が差し込まれる。
ローラーが巣をミシミシと潰すに従い、ハンドルに徐々に重みが伝わる。
「回すの早いぞ、もっとゆっくり………そう、そんなかんじだ。」
「これ、結構大変だな。」
二分ほどローラーを回すと、絞り終えた巣が網の上にポトリと落ちる。
下に置いてある蜜受けのボウルにボタリ、ボタリと徐々に蜜が貯まっていく。
「これがハチミツですか、初めて見ます。」
「うん、イブにも後で食べさせてあげるからね。」
「美味しいのですか?」
「うん、とーーってもね。」
メティさん、口の端からよだれが出てますよ!
「絞りカスもまだ使うからな、乳鉢で潰して蜜は絞るだけ絞り出す。」
「うん、だから巣は捨てないでこっちにちょうだいね。」
「蜜を全部絞り終わった巣は、湯で煮出してロウを抽出する。」
ロウってなんだ?カオスとロウのロウか?
「カムドくん、ロウソクのロウだよ。」
「わ、わかってるよ!」
不思議そうな顔をしていたのがバレたのかリックから指摘を受ける。
これが結構恥ずかしい。
「蜂が分泌するロウは色々な物の材料につかえるんだー。」
「へぇー、蜂の巣って捨てるところがほとんどないんだな。」
「そうだね、蜂を神様からの贈り物だって崇めてる家もあるね。」
俺たちの話を聞きながら、でもなぜかイブだけはひとり顔をしかめている。
「イブ、どうかしたのか?」
「はい………蜂のことを考えていました、彼らは家を壊され、エサの蜜も赤ちゃんも奪われ……この仕事はとても残酷です…。」
「ああ、まぁね……。」
確かに、同じ事を人間の立場に置き換えて考えればとても残酷な事をしているよな…。
「生きる為には仕方ないさ、俺たちは生きていく上でなにかを壊し、なにかを奪い、なにかを食わなきゃ生きていけねぇ。
それをやめて弱くなれば、今度は俺たちが壊され、奪われ、食われる側に回るだけだ。」
「た、確かにそれはもう勘弁だな…。」
エムバラの言うことはもっともだ。
綺麗事だけでは生きてはいけない世界、こちらに来てからと言うものそれを嫌というほど感じてきた。
強くなければ自分たちが収奪の対象になる………。
かつては俺も弱い者として収奪の憂き目にあったことがある…。
「それに、俺たちは蜂の巣を全部奪うような真似はしてない、現に俺は巣を一個丸ごと射ち落とすことも出来たが、それはしていない。
それは森に生かされ、森と共に生きるのが秘境の村に住むものの鉄則だからだ、欲しくても今の時期以外の狩猟は禁じられているし、取り尽くすような真似も絶対にしてはいけない。」
「私たち、森に住まう部族も森の一部分だからね、いつかは私たちの身体も森の土に返り、魂は森と共に生き続ける。
古い考え方だけど、私たちのご先祖様もそうやって森と生きて来たんだ。」
「森との共生………ですか。」
イブは何やら考え込んでいる様子だ。
「さぁ、お喋りはその辺にして、口より手を動かそうぜ、終わらなくなっちまう。」
「それもそうだ。」
既に太陽は西側に傾き初めていた、早いところ仕事を終わらせないと。
――――――――――――――――――――――
デデン!
【キラービーの巣でミツロウ蝋燭 作ってみた】
「はい、ペルムルチャンネルにようこそ!
私が主任のメティで、こちらは助手のカムドでーす!ほらカムド、挨拶!」
「な、なんだ!?何か始まった!?」
「今回はキラービーの巣でミツロウロウソク 作ってみたーと言うことでですね。
まずはお湯で巣の絞りかすをグツグツと煮出しまーす。」
「えっと、これ続ける感じ……?」
………。
「煮たったら巣を取り出して少し冷ましまーす。」
「ふむふむ。」
…………。
「冷めたらザルで濾し取って、上に浮いている固形物もあつめる、この油分が固まったのがロウだよ。」
「ほうほう。」
………。
「そして……完成品が、こちらがミツロウです!」ワアアアア!
ドドン!
「おおー!……でもあれだけ巣があったのにこれだけしかロウは手に入らないのかー。」
「そーなんです!だから資源は大事にしなければなりませんねー!」
「はーい!」
………。
「続いて、湯煎で溶かしたこのロウに木綿の糸を垂らしていきまーす。
ロウがついたら持ち上げて冷ます、冷めたらまたロウにつける。」
「おー。」
「この作業をディッピングと呼びまーす!」
『ディッピング』テレレーーーン
「ところでメティ先生!なんで木綿の糸なんですか?」
「はい、いい質問ですねー、今の。
木綿以外だと燃える速度が早すぎたり、火がつきにくかったりするんですねー。
ロウソクの芯用の糸がホームセンターに売ってたりしますが、ない場合はタコ糸でも代用できます。」
「いやー、異世界にホームセンターあるかなー??」
………。
「冷やしてつけて、冷やしてつけて…………繰り返して、完成したものがこちらっ!じゃじゃーーーん!」
「すげーー!本当にロウソクだ!」
「さっそく火をつけてみましょう!……う~~ん、ほんのり甘い香りがしますが、これがミツロウならではですねー!」
………。
「そんなわけで、今回はミツロウからロウソクを作ってみましたがどうだったでしょうか!?
面白ければ好評価とチャンネル登録を!」
「ボタンがねーわ!いい加減にしろ!」
「「ありがとうございましたー!」」
………。
うつら、うつら……ガバッ!
「ハッ……!?い、今なんか幻覚が見えたような!」
「カムド、火を使ってる側でうたた寝してると危ないよー?」
疲れからだろうか、いつの間にか居眠りをしてしまっていたようだ。
「な、なんだ、夢か…。」
「みんな疲れてるみたいだし、今日はここまでにしてゴハンにしよっか!」
「「やったーー!」」
「よっしゃー!」
喜びの声が複数あがる。
疲れ果てた身体もエネルギーを欲しているようだ。
俺も、空きっ腹で食べる食事はさぞかし美味しいだろうと思っていた。
そう、この時までは……。
―――――――――――――――――――――――
「はい、夕御飯できましたよー!」
「うーん、悪魔召喚のための儀式ですか?」
卓の上には皿がところ狭しと置かれている。
ハチミツのかかったパンケーキ、かき揚げのようなフライ…………ここまではまぁ良しとしよう。
それから、蜂の子の乗ったサラダ、蜂の子のバター炒め、頭のもげた成虫が丸々載ったキラービーの素揚げ…………。
「おー、今日はごちそうだな!」
エムバラが呑気に呟く。
秘境に住む者は根性の据わり方が違うぜ……。
「ぼ、僕…急に食欲が……。」
「俺も……。」
「えぇーーっ!?すっごく美味しいんだよ、これっ!!」
美味しかろうがなんだろうが、そのグロテスクな見た目がどうにもこちらの食欲を削いでくる。
「ほら、リックも美味しそうだって思うでしょ?」
「ジーザスクライスト……。」
「うん、とっても嫌がってそうだ。」
食文化の違いと言えばそこまでかも知れないが、俺、ミゲル、そしてリックは蜂料理に対して中々食指が伸びないでいた。
「食わないんなら先にいただいちまうぜぇ?」
「兄ィ、お祈り。」
「へいへい。」
エムバラはさっさとお祈りを済ませるとさっそく蜂の子を皿によそってがっつきはじめる。
「ムシャムシャ…………おー、うめぇ!」
「でしょー!みんなも食べたらいいのにねー。」
「安心しな、残るようなら俺様が全部食ってやるからよぅ!」
俺たちはその光景を白い目で見つめている。
ミゲルとリックは食欲をが湧かないのかパンケーキをちびちびとつつくばかりだ。
「みんな食べないの?」
「た、食べてますよ!」
「う、うん、このパンケーキすごく美味しいよ!」
メティの寂しそうな表情に二人は愛想笑いを返す。
「もくもくもく、メティはやはり料理が上手ですね。
この蜂の子サラダもおいしいです。」
「!?」
なんとイブも蜂の子料理を食べているではないか。
「…………イブ、もしかして蜂の子食べたことあるのか?」
「いいえ、初めてですが、結構美味しいですよ?」
俺は勇気を出し、黄色味がかった物体を皿の上にあける。
近くで見ると嫌でも幼虫特有のウネッとしたフォルムが目につく。
ドクン ドクン ドクン
鼓動が高鳴る。
未知のものへの挑戦はいつだって不安と期待がない交ぜになって押し寄せるものだ。
「か、カムド……いくのか?」
「ああ…………イブがいけて俺がいけない道理はない。」
「……そ、そうか。」
「頑張ってね、カムド!」
皆の視線が俺に集まっているのを感じる、今さら引き帰せない。
「ええいっ!ままよ!!」
スプーンで蜂の子を口に無理やり押し込む。
ひと噛み、ムニッとした食感が歯に伝わる、思ったより弾力はない。
柔らかい感触の後に塩味の効いた外皮と、中からにじみ出る甘い液が合わさる。
味自体は悪くないのだが、胃袋が得体の知れない食材の侵入をどうにも拒否しようとして胃液をこみ上がらせてくる。
「うぷっ!!」
「カムド!?」
「らいじょぶ、このぐふぁい!!」
自分に言い聞かせるように話す。
「ふぉれふぁ!ひひょうにひきるほとこ、カムドだあぁ!(俺は!秘境に生きる男、カムドだあぁ!)」
二噛み、三噛み、口の中のものを咀嚼して、なんとか飲み下す。
「ゼェ……ゼェ………。」
「ど、どうだった?」
「食ってみれば大したことなかったぜ………!味自体はいけるよ。」
そこには激闘を終えた清々しい男の顔があった……と思う。
「負けてたまるか!!」ガバァッ!!
「み、ミゲルくん!」
ミゲルはこちらに対抗意識を燃やしたのか、突然蜂の子を掻き込みだす。
目を白黒させながらも、なんとか水で口の中のものを胃袋へ押し流した。
「め………メティアナさんの作る料理なら…な…何でも美味しい…です…………。」
心なしか食べる前より頬がやつれてる気がするぞ。
「これで食べてないのはオッサン一人になったようだな。」
「な、なにぃっ!?私のステルス迷彩が見破られた!?」
それまで背景に上手く溶け込んでリックだったが、エムバラの一言により注目が一気に集まる。
「えっと………後で食べるよ!」
「リックー、食べようよー!」
「おいしいよー?」
俺とミゲルから同調圧力をかけられるリック。
「し、食欲がなくて……。」
「大丈夫、味は保証するよぉ。」
「みんなで食べようよーー。」
「わ、私はこっちのフリッターみたいな揚げ物を食べるよ、あはは……。」
「あ、リック、それも……。」
「…………オーマイガー!オーマイガーー!!」
ひとくち食べてリックも気づいたのだろう、この揚げ物が野菜と蜂の子を揚げたものであるということを。
この日を境に、リックはハチミツと言う単語がトラウマになったのだという。
「ご、ごめんね、リック……次からは蜂の子づくしはやめるよ…。」
「オーーーノーーーー!!」
蜂の子を食べて絶叫するオジサンの声をBGMに夜は更けていくのだった。
第十四話 完
異世界の事がおぼろげにわかる解説集。
食肉について
・“打ち捨てられた世界”における家畜
魔物が多数生息する地域において食肉は家畜からではなく魔物や動物を狩猟する事で得ることが主流である。
家畜育成にかかるコストや、魔物からの襲撃のリスクが高い為、魔物の少ない都市部以外で家畜を飼う人は少ない。
ただし、乳を取る目的で飼われるヤギや、馬やギルギル、ラクダなどの移動手段としての生き物はその限りではない。
・鳥肉
アンムル周辺では狩猟で得ることが主流で、ヒバリの仲間やサギの仲間を食する事がメジャーである。
どちらも“作物や飼育している魚を食べる”として害鳥扱いを受けている為、駆除の対象でもある。
前者は骨張っている事から軟骨ごと鳥肉団子に、後者は揚げ物にしてソースを振りかけて食べられている。
・蜂の子
ハチミツ回収の副産物として得られる、森の貴重なたんぱく源、アンムルでは大人から子供まで幅広く人気。
肉食のハチよりもミツを吸う種の方が甘くて美味とされている。
不老長寿の生薬として記している書物もあり、神様への供物としてのランクも高いとされている。
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どうも、醍醐郞です。
小噺的なネタを使いすぎたせいで、今話は文をひねり出すのにも苦労しました。
ただ、不思議なんですが、そういう時って意外と自分と感性の異なるエムバラやイブみたいなキャラがよく動いてくれるんですよね。
脳の普段使ってない所が活性化するのかな?作品作りの不思議ですね。
前回コメントをくださったROROさん、この場を借りてお礼を致します。
本当にありがとうございました、実はあれが初めてのコメントなんです。
嬉しくて泣きそうになりました…………いや、泣きました、ROROさんも連載頑張ってくださいね!
季節の変わり目ですが、みなさん風邪を引かれませんように。
そう、私のように風邪を引かないように。
それではまた。




