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異世界で俺と握手!  作者: 醍醐郎
14/20

第十ニ話 第一回!クッキー争奪チキチキしりとり大会!?

あらすじ


異世界への転移が常識となった未来の話。

異世界に憧れる少年が、念願叶い異世界への転移に成功する。

だが、そこは“打ち捨てられた異世界”と呼ばれる過酷な大地だった。

モンスターの奇襲にあい、記憶を失った少年は自らをカムドと名乗り、記憶を取り戻す事を決意する。


旅をするうちに、自分を救ってくれた兄妹の仇討かたきうちに巻き込まれて行く。


“握手した相手に共感を持たせる”能力を手に、少年は今日も打ち捨てられた異世界を駆ける!!




登場人物


カムド(主人公)

異世界に憧れていた少年、記憶を失った事を境に自らをカムドと名乗る。

不器用で純粋、時に破天荒な正確だが、情に篤く涙もろい。

握手した相手に共感を持たせる能力を持つ。



メティアナ

辺境に住まう兄妹の妹、あだ名はメティ。

赤髪の美少女であり、優秀な医者でもある。

近隣の村民たちからはとても好かれているようだが、身内には手厳しい一面も持つ。



イブ

洋館に住んでいた銀髪の女性、その出自には多くの謎が残る。

姉がいることと、食べた相手の能力を奪う力がある事だけはわかっている。

彼女の姉こそが兄妹の恩人を殺した犯人であり、イブもまた姉を追っている。

常人離れした強さを持つ。



エムバラ

辺境に住まう兄妹の兄、正確な読みはンバラらしい。

狩人としても職人としても一流の腕を持つが、その実力故に横柄な態度を取ることも多い。

頼れる兄貴分だが非常に口が悪い。

放った矢が相手を追尾する能力を持っている。



ミゲル

金髪の美少年、メティアナに恋心を抱いていた。

若くして火術の優秀な使い手ではあるが、プライドが高く、思い込みの激しい性格。

両親を異世界人に惨殺された過去を持ち、異世界人に対し憎しみとトラウマを持っている。

戒律を破り地下に軟禁されていたが、カムドにより救い出される。



リック

リチャード・ハーパー、アメリカ人。

彼もまた地球出身。

冷静、理知的、観察力に優れるカムド一向の潤滑剤的な存在。

オッサン呼ばわりされる事を嫌っている。

「ったく、おせーよ。

こちとらメシの材料まで取ってたっつーのに。」

「兄ィってば前話の出だしと同じような事言ってるー。」

「メタい!開幕メタメタだよ!」


メタネタはやめてメティさん!


「遅れて来たんだからお前らがメシ作れよなー。」


エムバラの手には鳥が二羽、イタチのような生き物一匹が握られていた。


「えっ、そのイタチみたいなの、食うの?」


「嫌なら別に食わなくてもいいんだぞ。」

エムバラが不機嫌そうにプイッと横を向く。


「いや、食べます食べますぅエムバラ様ぁ!」


晩飯抜きとかあり得ん!揉み手でエムバラにすり寄る。


「やめい、クネクネと気色悪い!!」


俺もこの辺境の兄妹とのアウトドア生活に馴染んできた気がする。

一方………。


「メティアナさん、それって塩ショウガじゃ……。」

「そうだけど、どうしたの?」

「いや、ボク……それ苦手で…。」


「えー!?美味しいのに勿体無い!!」


ミゲルはシティボーイを気取っているのか食の好みでゴネている。


「そういえば、イブって何か好きな食べ物はあるの?」

「なんでも食べますよ、特に目玉がコリコリして好きです、あと生き血をゼリーにしたものも美味しくて好きですね。」


「それって、何の生き物の……?」

「哺乳類全般、ですかね。」


カニバリズムやめてー!食欲なくなるわー……。




異世界で俺と握手! 第十二話【第一回!クッキー争奪チキチキしりとり大会!?】



夜営の支度も終わり、六人で鍋を囲む。


「今日は鳥団子の鍋とフェグルの素揚げだよ。」


鍋が焚き火にかけられてグラグラと煮えている。

フェグルというのはあのイタチみたいな生き物だろうか、バナナの葉っぱのようなものに原型を留めたままちょこんと乗せられている。


「おほっ!こいつはうまそうだ、いただきまーす!!」


「ちょい待てや、獲物を獲ったのは俺だ、テントの設営もほとんど俺一人でやったようなもんだしな!

だから最初の一口目はこの俺様がいただくんだよ!!」


エムバラが椀を持ってなにやら威張り散らしている。


「はいはいわかったわかった、兄ィは放っておいてみんなどんどん食べてねー。」

「もくもくもく…メティは料理が上手なんですね。」


「おまっ!!ちょっと…!」

「ほら、冷めちゃうから兄ィも食べなよ。」

「ええい、こなくそ!!おかわりは俺が先だ!」ガツガツ!


「じゃあ俺も、いただきます!」


左手を右手で包むお祈りポーズを取る、この所作もすっかり馴染んできた。


「いただきます。」

メティも隣で合掌の手をを作ってニッコリと笑っている。


「うめ、うめ!」


皆に続いて俺も椀に一口つける。


………!!

確かにこれはうまい、鳥団子からほんのり鶏肉のダシが香る、一口目はあっさりだがパンチも効いている。

皮目の部分をうっすら焦がして浮かせているので、あっさりしているのにこうばしさと脂のジューシーさも感じる事ができる。


野草とショウガが苦味と辛みを効かせて全体を上手くまとめてくれている。


「うん、すっげぇうまいよメティ!」

「よかった!どんどん食べてね。」


ミゲルはみんながショウガを美味しそうに食べている所を怪訝な表情で見ている。


「ミゲル、これはショウガ入れた方が絶対うまいって!」

「やめろっ!ショウガという単語を聞きたくない!!」


そこまで毛嫌いする事もないだろうに…。

ミゲルはこれで結構偏食家のようだ。


「んー、こっちの素揚げもいけるねー、これはクヌムかな?」

リックが素揚げをうまそうに頬張っている。


「うん、野生のは臭みがあるから塩とスパイスで臭みを消すんだ。

あと、お好みでこれも使ってね。」


メティはガラスの小瓶を取り出す、うす緑の液と白いカタマリが混在している。


「ディップかぁ、懐かしいなぁ!私の故郷アメリカではグレイビーとケチャップとディップは食事に欠かせないからね!」

「あめりか?」

「ああ、俺らの世界で一番の経済大国だ。」

「へぇ、リックはそこの出身なんだ?」


メティは物珍しそうにリックを見ている。


一方のリックはというと、すっかりディップに夢中のようだ。

リックは嬉しそうに素揚げにディップを盛り付ける。


「ふむ、これもうまいね!トロッとしていてホクッと……。

ん、待ってくれ、何を使っているか当ててみるから中身は言わないでくれ……。

これはそう……芋だね!二種類の芋と油を混ぜているんだ!」


「すごいっ正解!わかっちゃうもんだね!」

「みんなも食べてみるといいよ、かなりイケるよ!」


リックが小瓶を他のメンバーにも手渡していく。


「もちろん俺が一番食ってやる!ミゲル、お前の分も寄越せ!」

「やめろンバラ!なに考えてるんだお前は!!」

「あはははっ…。」


食事を取り囲む皆が、満ち足りた笑顔を浮かべている。

どんな大変な事があった後でもお腹はすくし、ごはんはうまい。

これは異世界でも俺たちのいた世界でも変わりはしないんだ。


こうして皆の顔を見回していると、みんなで火を囲み、こうやって食事をする事が一番の親睦になるのだと改めて感じる。

そこには食の好みの違いこそあれ、異世界人も地球人も関係ないのだ。



――――――――――――――――――――――――



「それでね、カムドの記憶を取り戻す為に異世界の食べ物を作ろうって考えているんだ。」


「ふむ、それは………意外といいアイデアかも知れないね。」


リックがメティを見ながら言う。


「脳の記憶を司る部分と、嗅覚を感じ取る部分は非常に近い位置にあるんだ、だから匂いは記憶と結び付きやすいと言われている。

うまくやれば、料理を再現する事で匂いと紐付けされている部分の記憶を引き出せるかもしれない。」


「ただ…。」とリックは続ける。


「彼の母国の料理の形態は非常に複雑で、再現は結構難しいかもしれないね。」

「そうなんですか?」


メティは残念そうな表情を浮かべる。


「彼の生まれ育った国の食事は乾物から取るダシと、発酵食品から作られる調味料のおかげで奥深い味が出せている。

乾物の方は簡単なものを用いれば再現できるが、問題は発酵食品の方だ。」

「味噌とか醤油の事か?」


「そう、ミソとソイソースだね。

これらの原料にアスペルギルスオリゼーというニホン独特のコウジカビが用いられるんだが…。

これはニホン固有の種であり、デリケートだから培養も非常に難しい。

極東と気候風土の似ている土地を見つけて新たに似たカビを採取するか、コウジに近い食品を作れる人から分けてもらう他ないだろう。」


「それじゃあ、和食を再現するのは無理なのか?」


それは残念だ、メティがここまで協力してくれていたのに何だか申し訳ない気持ちだ。


「諦めるのは早い、風土の似た土地を探すのは難しいだろうが、後者は必ずどこかにいるはずだ。

例えば、異世界人の暮らす集落などへ行けば、もしかしたら既に作っている人がいるかもしれない。」


「異世界人の集落……!?」

「僕は反対だ。」


それまで黙っていたミゲルが突然口を開く。


「異世界人にも信用に足る人物がいることはわかった、だが君たち以外の異世界人は果たしてどうかな?

アームストロング一味のような連中がいないとも限らないんじゃないか?

そんな危険な場所にメティアナさんを連れていく気なら、僕は見過ごす事は出来ない。」


ミゲルの言うことにも一理ある。

アームストロング一味が実際にどういう連中なのかはわからないが、伝え聞く限りでは非常に危ないヤツらに違いない。


「安心してくれミゲルくん、都の近くの集落には私の旧友もいるんだ、彼らであればそのような間違いを犯すことはない。

私が保証しよう。」


「………ともかく僕は反対だ、この気持ちが覆る事はないと思う、それだけだ。」


急に場の空気が冷える。


両親が異世界人に惨殺された事で、ミゲルが異世界人を遠ざけたがる気持ちも理解できるが…。

リックの旧友を含めて信用に足りないと切り捨てるような発言はあんまりではないか。


無言のまま二人が視線を下ろす、気まずい空気が辺りに漂う。


誰も何も発せずに黙っていると…。


「くぅくぅ……。」

沈黙を破ったのは近くでイブの立てている寝息だった。


「ははっ、お腹一杯になると眠くなるのは異世界でも同じだな。」


イブの小さな子供のような挙動に思わず場に笑顔が戻る。


「もう、イブったらこんなとこで寝ちゃってる!

ほら、テントに行くよ。」


すかさずメティがイブの手を引いてテントへと向かった。


「…さぁて、小難しい話はここまでだ、ちょっとレクリエーションを挟むから、それが終わったらみんなションベンして寝ろよ!」


エムバラがパチンと手を打つ。


「レクリエーション?」

「ああ、賞品はコイツだ。」


エムバラがふところから包みを取り出す。


「木苺のクッキーだ、市場で買ったのを隠し持ってたのさ。」

「おお、食後のデザートだね、グランマがよく焼いてくれたのを思い出すよ。」


リックが急に目を輝かせる。


「まぁ待て、これにありつけるのは上位二名だけだ!」


「なに?クッキー?やるやる!!」

メティがすっ飛ぶようにして戻ってくる、なんとも耳ざとい。


「よしっ、全員参加だぞ、下位二名は交代で火の番だ。」


「ちょっと待てよ、僕はやるなんて…!」


ミゲルは渋っている。


「なんだよ、白ける野郎だな。」

「さては負けるのがこわいのかー?」


エムバラの尻馬に乗って俺もミゲルを煽ってみる。


「なんと言われようと僕は……。」


「えー、やろうよ、ミゲルくん!きっと楽しいよ!!」

「ええ、メティアナさんとクッキーを山分けしましょう!」

「変わり身はえーなオイ。」


そんなこんなで、イブを除いた全員参加でレクリエーション大会が始まろうとしていた。



――――――――――――――――――――――――



「ところで何のゲームをするんだ?」

「よくぞ聞いた!名付けて第一回、クッキー争奪チキチキしりとり大会だ!!」


「しりとり?はっ、そんな子供だましな…。」

拍子抜けだ、少し肩すかしを食らって思わず肩をすくめて笑う。


「しりとり……あっ…。」

一方のリックは何かを察したような表情を浮かべる。


「言ったなカムド、説明は省くからな!」

「おう、ドンと来い、超常現象だぜ!」


俺は余裕の笑みを浮かべている、なぜならしりとりは得意中の得意だからだ。


「じゃあ最初はミゲルからだ、火の神のムからだ!」

「ムか、ム………ム…、木の葉!」


「いや、ちょっと待てぃ!!」


周囲に俺の声がこだまする。


「何騒いでんだよ。」

「いや、いきなりルール無視かよ!なんだよ“ムで始まるのがこのは”って!」


メティとミゲルはポカンとした顔でこちらを見つめている。

あれ?何、この俺が変な事言ったみたいな空気は。


「ぷっ!ぬっふっふっふ………!」


一方のエムバラはしてやったりな表情でほくそ笑んでいる。


「カムドくん、木の葉は【ムガルン】だから合ってるんだ……。」

「はぁ!?」


そうか、彼らの言葉は俺には日本語として聞こえているが、あくまで彼らは現地の言葉で話しているのだった!

エムバラのやつ、まさかこれを見越してしりとりを選んだのか!何てヤツだ!!


「あっ、でも【ん】で終わったらそこで終わりなんじゃ……?」


「おうカムド、俺の名前を思い出してみろ、ンで始まる言葉なんかこの国にゃ腐るほどあるぞ。」


エムバラの現地読みは、ンバラ……!?


…と言うことは、このゲームは【ん】で終わる言葉では終了にならないのか!?

じゃあ一体どうやったら終わりになるんだよ!!


「頭抱えてどうしたんだよ、次はお前の番だけど、今からでも抜けるか?」


エムバラがニヤニヤとした表情で見てくる。

ちくしょう!コイツにだけは負けたくない!


「なめるなよ!んはンバラのん!だ!!」


「「「あっ。」」」


エムバラ以外の三人が一斉に気まずそうに顔を見合わせる。


「くっくっくっくっ………だーっはっはっは!引っ掛かってやんのー!!

ぎゃーっはっはっはっ!腹いてぇーーー!!」


「は?????????

はあああああああああ!!??」


「カムドくん………ムガルンは風の神の言葉、ンバラも風の神の言葉だから今のはアウトだ……。

このしりとりは別の元素の神の言葉を使わないと終了なんだ……。」



「ク ソ ゲ ー か ! ! ! !」




――――――――――――――――――――――



「ちぇーっ、結局最後までルールがわからなかった……。」

「クソクソッ!まさかリックのオッサンが最後まで残るなんて……!」


結局、しりとりはリックが優勝、二位がメティ、三位がミゲルという結果に終わった。


「いや、すまないね、僕の異世界での能力は”瞬間記憶“なんだ、だからしりとりは得意中の得意だ。」

「ズル!卑怯もの!!」

「いや、エムバラ、お前だけは言うな。」


エムバラの負け惜しみに思わずツッコミを入れる。


「勝てなかったかぁ……ンバラ、火の番は任せたぞ。」

「兄ィ、クッキーあんがとね、じゃあおやすみ~~。」


「へーいへい…。」


ミゲルとメティの呼び掛けに頬杖をつきながら気だるそうに応えるエムバラ。


「カムドも途中で起こすから、先に寝てろよ。」


「ん?いいのか?」

「交代だっつっただろ、寝れる時は寝とけ。」


エムバラがぶっきらぼうに返す。


「わかった。」


エムバラの言葉ももっともだ、夜通し起きていては身体が持たないだろう。

今は彼の言葉に従って寝る事にした。



………。


……………。


………………。



ビュン!ストッ!


……ビュン!!ストンッ!!


俺は奇妙な音で目を醒ます。

両隣を見るととミゲルとリックが行儀よく寝ている。


「ぐぅぐぅ…………。」

「…すや、すや……………。」


ビュン!ストッ!!

やはり寝息に混じって時折無機質な音が聞こえてくる。


俺は音の正体が気になり、テントからモゾモゾと身体を這い出させる。


音のした方に視線を送ると、エムバラが木を的にして弓を構えていた。


「どうした、まだ交代の時間じゃないぞ?」


こちらの気配に気付くと、エムバラは構えをとき、こちらを振り返る。


「いや、なんか起きちゃってさ。」

「うるさかったか?悪かったな。」

「別にそんなことはないけど……。」


エムバラの方に歩を進める。


「弓の練習してたのか?」

「ああ、たまにこうやってないと腕が鈍るからな。」


的にしていた木を見ると、木のど真ん中を縦になぞるように矢が点々と刺さっていた。

ほとんどズレる事もなく、正確に線を描くように射抜かれていた。


「やっぱりスゴいな、弓だけはエムバラにかなう奴はいないかもな。」

「だが、これだけじゃダマ先生を殺したアイツには勝てない。」


エムバラはギリッと弓を握りしめる。


「そうなのかな……?」

「お前もアイツの動きを見ただろ、ケタ外れだ。

正面から狙うだけじゃ矢はいなされるかかわされるかだ。

だから……。」


エムバラが幅広の弓を手に取る。


「俺はコイツの練習をしていた。」

「これは?」

「複数打ち用の弓だ。」


エムバラは弓に二本矢を据え付け、木に向かって射かける。


ビュゥゥン!!二本の矢が同時に木目掛けて放たれた。


「ん?ちょっと上すぎないか?」

「いや、これでいい。」


エムバラが言うと同時に上に向けて放たれた矢が急に角度を変えて垂直に近い角度で降下し………!


ストンストン!!


二発とも木に命中する!


「おおっ!!すげぇ!」

「いや、これじゃまだダメだ、木を見てみろ。」


エムバラが刺さった矢を指差す。


「下のは中心を捉えているが、上のは真ん中から少し外れている。

これじゃあダメなんだよ。」


「そうか?十分すごいように見えるけど…。」


エムバラは首を横に振る。


「下の一本はおとりだ、身体狙いの一本は当然アイツにはいなされるだろう。

上の一本で頭を仕留める!はっきり言ってこっちの精度が低いようじゃお話にならない。」


エムバラの表情には鬼気迫るものが感じられた。

ダマ先生の仇、イブのお姉さんを倒す事だけを見据えているのだろう。


その姿を見ていると、俺もなんだか……。


「なぁエムバラ、俺も練習していいかな?」

「ん?練習大っ嫌いなお前が珍しいな。」

「ちょっとな。」


俺は自分の弓を馬車から取り出す。


「やっても構わないけど、あんまり矢を無駄にすんなよ。

お前下手だからすぐ変なとこに飛ばすし。」


辛辣な言葉を投げ掛けられるが、俺は気にせず弓を構える。


「ん?お前…。」


ビュッ!ガシンッ!!


「くあーっ!弾かれたか!!」


矢は木のへりをかすめて刺さらずに茂みの中へと飛んで行った。


「妻手……矢を持つ方の手は前よりできてる。

支手、弓を持つ方の手がブレないように意識しろ。

支手、身体の軸、妻手が矢と直角になるイメージを持て。」


「ん?わ、わかった。」


エムバラのアドバイスの通り、三つの縦線の正中を矢が通るようなイメージを描く。

すると、矢じりがほとんどブレずに狙いを定められている事に気が付く。


無心―――。



ビョォゥ!!

ストン!!


「やった!!刺さった!!」

「放つ瞬間の力みが余計だったが………なんだお前、いつの間にそんなに上達した?」


エムバラは驚いた表情でこちらを見ている。


「いや、練習なんてあんまりしてないし……わからないけど。

でも、なんだか今日は上手く行くイメージが頭に出来てたんだ!」


「はぁ~~。」


エムバラはなんだか納得行かなさそうな表情で頭を掻いている。


「もしかして、エムバラに追い付ける日も近い?」

「バッカヤロウが、一回上手く行っただけで調子に乗るんじゃねぇ!

それに、俺から言わせれば今のなんかまだ50点だ!!」


エムバラが吠える。


「おやぁ、エムバラ君もしかして俺の才能に嫉妬してるのかい?」

「このガキャあー!!」


俺たちがワイワイと騒いでいると………。


「兄ィ、カムド、う る さ い。」


女性側のテントからメティのものと思われるドスの効いた声が響く。


「「ごめんなさい。」」


俺とエムバラは思わずテントの方に深々と頭を下げていた。



………。


それから数時間、矢がメキメキと上達していくのが楽しくて、俺とエムバラは寝る事も火の番も忘れて弓の練習に没頭した。


そのせいで翌日、メティからたっぷりとお叱りを受けたのはまた別のお話。



第十二話 完

一日に二話投稿は初めてかもしれません。

固定のPVの方もいるようで、ちょっぴり頑張ってみました。


やっぱり女子はいいですね、イブちゃんがメンバーインしてから一個一個のスキットを作るのが楽しくなったといいますか、彼女の無垢さに癒されます。


箸休め的なエピソードが続いていますが、基本的にこの物語は暴力と血生臭さ、対立と抗争がバックボーンとしてあります。

どこでショッキングなエピソードをぶちこもうかと今から自分でもワクワクしつつ、重ためメインストーリーがはじまると遅筆になるんだろうなぁとも思い、戦々恐々とする今日この頃です。


ロクに見直さないでガシガシ書いたから誤字脱字も多いだろうと思いますので、何かあればずんずん指摘してください。


それではまた。

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