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異世界で俺と握手!  作者: 醍醐郎
13/20

第十一話 魔法とハイクとラップの間には親和性がある

あらすじ


異世界への移住が常識となった未来の話。

異世界に憧れた少年は、怪しげな紳士の思惑で“打ち捨てられた異世界”という過酷な世界へと転移させられ、自らの名前と記憶の一部を失う。


記憶の手掛かりを求め人々と出会う中で、少年たちの一向は恩人との死別を経験し、復讐のため旅立つのだった。


少年は“握手した相手に共感を与える”という力を手に過酷な異世界を駆け抜ける。




登場人物


カムド(主人公)

異世界に憧れていた少年だったが、魔物の奇襲により記憶を喪失し、自らをカムドと名乗る。

不器用だが、真っ直ぐな性格で情に篤い。

握手した相手に共感を与える能力を持っている。



メティアナ

秘境に住む兄妹の妹の方、あだ名はメティ。

赤髪の美少女で、薬師としても非常に優秀で近隣の村民からは非常に慕われている。

一見欠点のないように見えるが、身内に対しては粗暴な一面を見せる事も…?



イブ

洋館に住んでいた銀髪の少女。

出自は謎に包まれており、姉がいる事と食べた相手から能力を奪う力がある事だけわかっている。

彼女の姉もまた“イブ”という名前であり、その姉こそがカムド一向の復讐相手でもある。

常人ならざる力が備わっており、非常に強い。



エムバラ

秘境に住む兄妹の兄の方、現地での発音はンバラらしい。

狩人としても職人としても一流の実力を誇るが、有能さ故に時に横柄な態度を取る。

頼れる兄貴分ではあるが、非常に口が悪い。

放った矢がターゲットを追いかける能力を持つ。



ミゲル

金髪の美少年、メティに恋心を抱いていた。

若くして炎術を自在に扱う才能の持ち主だが、短絡的で思い込みの激しい所がある。

戒律を破り地下に軟禁されていた所をカムドに救われる。



リック

リック=ハーパー、アメリカ人。

カムドと同じく地球からやって来た。

理知的で頭もキレ、観察眼にも優れている。


「ふわぁ~~あ……ったく、遅せぇなアイツ。」


エムバラが退屈そうにあくびしながら背伸びをしている。


ミゲルが馬車を持ってくると言ってからかれこれ20分程経っただろうか、未だにミゲルは姿を見せない。


「まぁまぁ、旅立の準備とかもあるかもしれないし、待ってあげようよ。」

メティがエムバラをさとす。


「いや、リックはもっと準備が早かったぞ、なぁオッサン?」

エムバラはリックに話を振る。


「出来れば呼び方は統一して欲しいな…。」

「わかった、じゃあオッサンで固定だ。」


「わかった、はっきり言っておこう…リックにしてくれ。」

「オックでどうだ!!」

「混ざってるんだが!?」

「リッさん!」

「あっ、それは意外と悪くない。」

「間を取ってジジイで!」

「なんの間も取れていないしただの悪口だ、それは!!」


エムバラとリックの掛け合い漫才が周囲に響く。


「絶対ツッコまないからな……。」


内心一緒にツッコミを入れたくてウズウズしていたが、絡みに行くとエムバラにからかわれる未来が見えていたので静観する事にした。


トントン、不意に誰かに肩を叩かれる。

振り向くとそこにはイブが立っていた。


「カムド!そこで変な生き物見つけました!」


彼女は目を輝かせながら何かを手に持っているようだった。


「ぜひカムドも見てください!」

「え?う、うん。」


手を差し出してきたので反射的にこちらも手を差しのべる。


手の平にポトリと何かが置かれた。


そっと手の中を覗き込んでみると、そこには握り潰されて足以外ペシャンコになった“バッタだった何か”がいた。

「ひ、ヒエエエーーーッ!!堪忍なーーーーっ!!」




異世界で俺と握手! 【第11話 魔法とハイクとラップの間には親和性がある】




盛り上がった土に木の枝を突き立てて簡易の墓を作る。

「これでよしっと。」


ポンポンと手を叩き、軽く合掌する。


「ごめんなさい……。」

イブも隣にちょこんと座り込み、見よう見まねで掌を合わせる。


「知らない生き物がいたので、つい捕まえたくなって………殺すつもりはなかったのです…。」


イブは目に見えてしゅんとしている。


「わざとじゃないのはわかってるよ、でもイブは他の人と違って力が強いから、加減を覚えないといけないかもな。」

「はい……。」


無感情な表情しか見せなかった彼女が感情を表に出している。

何だか意外な感じがすると同時に、落ち込んでいる以外の表情も見てみたいと思えてくる。


「何やってるの、お墓?」

二人で話していると後ろからメティが歩いてきた。


「ああ、イブがバッタを捕まえようと思って……潰しちゃったらしくて。」

「あははっ…。」


メティは苦笑いを浮かべる。


「バッタが死んでしまってとても悲しいです…。」

「そ、そんなになるほどかなぁ…?」

「はい、生き物の死は悲しいものなのだとわかりましたから…。」


イブはこちらを真っ直ぐ見つめながら話してくる。


「館で生活する中で何度か“人の死”を見る機会がありました。

ですが、館の外に出て……“死を悼む人”を目の当たりにした時、私はそのあり方に衝撃を受けました。

“死は悲しいもの”であることを、耳ではなく初めて自分の肌で感じる事ができたのです。」


「うん……?」


人の死を耳で聞く?変わった事を言うなぁ。

人づてに死についての話を聞いたという事だろうか?


「ねぇイブ、人の死を見たことがあるって…どういうこと?」


「先日お話したとおもいますが、私たち姉妹は人間を食べる事で、その人間が持っていた能力を貰うことができるのです。」


「それじゃあ、その人の死っていうのは…やっぱり。」


「えっ、おい、まさか…。」


「はい、私は能力を得るためにかつて三人の人間を食べました……今にして思えば本当に恐ろしい話です…。」


メティは口元に手を当てて目をギュッと閉じている。

俺はというと、どうリアクションすべきかわからず、そのまま固まってしまった。


「信じて頂けるかはわかりませんが………あなたたちが協力してくれるうちは、私は二度と人間を殺さないと誓います。」


「あ、ああ……。」

「…………うん。」


「だから、お願いします、私を裏切らないでください……マスターに頼れない今、あなたたちだけが頼りなのです。

死の痛みを教えてくれたあなたたちを殺したくはないから……。」


とんでもなく物騒な事を言うが、これが嘘偽りのないイブの率直な気持ちなのだろう。

俺だってこの真っ直ぐな瞳を裏切りたくない。

彼女に誰かを殺させるのも、増してや俺たちを殺させるような真似もさせたくない。


「大丈夫だ、信じてくれ。」


自然と握手の手が伸びていた。

イブと初めて出会った時とは違い、打算や駆け引きなど一切ない、真っ直ぐな気持ちから握手を求めていた。


「信じます。」


イブの手が俺の手と重なり、握り返される。

イブの手はとても細く、少しひんやりとしている。


この手に誰かを殺させるような事があってはならない、いや、俺たちがこの手を引いていってやるんだ。

彼女の望む所へ。


「もちろん、私もだよ。」

メティが二人の握手の上から手を包み込む。

暖かで、やわらかな感触がとても心を落ち着かせてくれる。


「なんだか不思議な感じがします……。

人の手ってこんなにも暖かいんですね………。」


この握手に誓って、彼女を支え、助けてやりたい。

きっとメティも今同じ気持ちなのだろう。


「おーーーーい!お待たせーーー!!」

「おっせーぞミゲル!なにやってたんだよ!」

丁度その時、遠くにミゲルとエムバラの声が響く。

声に合わせて俺たちの握手が解かれる。


「カムド、メティ、見てください!あの馬車、変な生き物が引いてますよ!!」

「あ、ああ。」


イブの興味は一気に馬車の方に移ってしまったようだ。


確かに変わった生き物だ、ふかふかしたオレンジ色の毛が全身を覆い、アルパカのように首が長い。

時折、モップのように毛足の長い口をパクパクとリズミカルに動かしている。


「ミゲル、触らせてもらっていいですか?」

「えっ、はっ!はいっ!優しくお願いします///」

「ウマの事に決まってるだろ、なに考えてんだマセガキ。」

「わっ、わかってるよ、うるさいな!!」


エムバラとミゲルがケンカを始めている。

段々馴れてきたが、エムバラにとって口ゲンカや悪態はコミュニケーションの一環なのだろう。


「カムド、私たちも行こう、イブの事を大事にしてあげないとね。」

「うん……ああ!」


メティはいつも周りの人を気にかけている。

自分よりも誰かの為…そうやってこの世界に来たばかりの俺も彼女にすごく救われた。


イブは確かに俺なんかよりずっと強いが、狭い洋館の中での不自由な暮らししか知らない彼女には、俺の手助けでも役に立てるかも知れない。


今度は俺がメティから受けた恩をイブに返す時なのだ。

俺は決意を新たにすると、メティの後を追って皆の元へ走った。



――――――――――――――――――――――――



「ったく、俺は荷物があるんだから先行ってるからな!

メティ、夜営はいつもの小鳥岩のとこだ。」

「うん、わかった。」


バカラッ!バカラッ!ゴロゴロ…。


エムバラはそう言い残すと不貞腐れた様子ですぐに馬を走らせて行ってしまった。



「それじゃあ私たちも行こっか!」

「ああ、わかった!」


メティが馬にまたがり、俺もその後ろに飛び乗る。


「なっ!ちょっと待った!なんでカムドがメティアナさんと2人乗りなんだよ!!」


すると突然ミゲルがキーキーと甲高い声をあげる。


「なんでって……俺は馬に乗れないから…。」

「だったら僕の馬車に乗れば良いじゃないか!このギルギル馬車は最大で8人まで乗れるんだ!」

「ギルギル馬車?」


聞き慣れない単語に思わず首をかしげてしまう。


「そうだ、先頭のこの生き物がギルギル、スピードは遅いけど馬力があって砂地も上り坂もなんのそのだ。」


ミゲルは誇らしげに鼻の下をこする。


「いや、それはいいけどなんで2人乗りじゃダメなのさ。」

「なんでもだ!いいからこっちに乗ってくれ、主にボクの為に!!」

「ったく、意味がわかんねぇよ。」


俺はミゲルの気迫に根負けして渋々馬車に乗る。


「でも2人乗り用の鞍があるのになんだか勿体ないなぁ、誰か乗らない?」

「なにっ!?メティアナさんと2人乗りでキャッキャうふふだとぉ!?

僕が乗ります!!」


なぜかミゲルが全力で挙手して名乗りを上げる。


「おい、馬車は誰が操作するんだよ、俺やり方なんかわからないぞ。」

「同じく…。」

リックが申し訳なさそうに挙手する。


「ギルギルもふもふ(´・o・`)」

イブは……これは多分無理だろうなぁ。


「くぅーー!!わかったよぉ、僕が馬車を動かせばいいんでしょ!?」


ミゲルはなんとも無念そうな表情を浮かべている。


「じゃあイブと2人乗りしよっか。」

「えっ……ギルギルもふもふ(´・ω・`)」

今度はイブが残念そうな顔を浮かべている。


「馬だってかわいいよぉ、ほらね?」

「おっ、ホンマや。」


俺には中々懐かなかった馬がイブにはあっさりなついているようだ。

ところでなんで今関西弁だったんだろう。


「どうやら決まりのようだね。」

「うぅ…メティアナさんもふもふ(´・ω・`)」

「何言ってんだ貴様ミゲル。」


ミゲルの世迷言よまいごとに思わず冷たい言葉を発せずにはいられなかった。




―――――――――――――――――――――――




「メティ、よろしくお願いしますね。」

「うん、よろしくね、イブ。」


メティがまず最初に馬にまたがり、見よう見真似でイブがメティの後ろに腰かける。


「落ちると危ないから私にしっかり捕まっててね。」

「はい、こうですか?」


むにん。


メティの背中に柔らかい感触が伝う。


「(うっ、大きい………なんだかすごく…敗北感。)」


「???

どうかしましたか、メティ」

「あはは、なんでもないなんでもない………ハァ…。」


一方、女性二人がワイワイやっている様子を微笑ましく思いつつも、どこかシケた表情で見つめる男衆三人。


「いいなー、あっちは楽しそうだなぁ…。」


ミゲルがボヤく。


「仕方ないだろ、もう決まった事だし、早く出発しろよ。」


未練タラタラなミゲルに早く馬車を出すように促す。


「いくよー!」


メティが片手を上げてこちらに出発のサインを出す。

ミゲルもそれに応じて片手を上げる。


メティたちの馬が走り始めたので、後を追うようにこちらも馬車を転がし始めた。


手綱はミゲルが操り、後ろのホロの中に俺とリックが乗る。


……だが、このメンツ、男三人で会話が盛り上がるはずもなく。

ほとんど誰も一言も発しないまま、30分くらいが経った……。


「(なんか…気まずい………。)」


リックは馬車に揺られてうつら、うつらとしている。


「リック、寝ちゃったのか?」


その様子を見てポツリと呟くと……。


「カムド、ちょっといいか。」

と、手綱を操るミゲルから声が掛かる。


「ん?なんだ?」


「いや、研究所の件……まだ礼が済んでいなかったなと思ってさ。

ありがとう、お前が助けてくれなければ僕はまだ失意の中をさ迷っていたかもしれない。」


後ろからで表情はハッキリとは見えなかったが、穏やかだが決意に満ちたような声が聞こえてくる。


「ダマ先生が生前におっしゃっていたんだ、魔法の力は他者の為に使えと。

だが、振り返ってみれば僕は自分が強くなる事ばかりしか考えていなかった………だから暗示なんかで簡単に操られてしまった。

僕は自分が情けない。」


「ミゲル……。」


「だけど、情けないまま終わるつもりはないぞ。

今度はこの力を他人の為に使うんだ、メティアナさんやイブの為。

それがカムド、お前への借りを返す一番の方法だと思うしな。」


「気持ちは同じってワケだな。」


「…………。

だがカムド、俺はお前の事を完全に認められたわけじゃない。」

「は?どういう事だよ。」


一拍置いてミゲルが続ける。


「お前にはまだメティアナさんを譲る気はないって事だ。」


「ん?

は、はああああぁっ!?」


ミゲルの言葉の意味がわかり、自分でも顔が紅潮していくのがわかる。


「ばっ、バカ!何言ってんだ!!俺たちは……別に。」

「隠さなくたっていいだろ、お前とメティアナさんがいい関係だって事は一目見れば誰だってわかるさ。」


「は……はわわ……。」


恥ずかしさに顔から煙が出そうになる、今までこんなにストレートに色恋の話をしたこと等なかったからだ。


「とは言え、僕は決闘に破れ情けまでかけられた身だ、メティアナさんからは潔く身を引く。」

「じゃあ……。」


「……だがお前がメティアナさんに相応ふさわしいかはまた別だ。」

「なんだよ、それは……意味わかんねーよ!」


ミゲルの言葉に少しムキになる。


「お前が彼女に相応しくない男だと判断したら……僕はメティアナさんの友人として、彼女を説得するつもりだ、“アイツはやめろ”って。」


しばらく二人の間に沈黙が生まれる。

同時に、ミゲルが俺やメティの事に対してムキになるのは、コイツがメティの事を心から好きだったからなんだと再確認する。


ミゲルの言わんとしている事はわかる、今の頼りない俺ではメティを一人で守りきる事など到底できないからだ。

でも、それをお前が言うな!という気持ちもふつふつと沸き起こり、何だかモヤモヤした気分になる。


「おはよーーー!グッモーニン!!」

「な、なんだ!?」


突然リックが飛び起き、ハイテンションでこちらに呼びかけてくる。


「いやー、少し仮眠したら最高にスッキリしたよー!HAHAHAHA!!

こんな日はホットドッグを持って出掛けたい気分だねー!!」


「…なんか、キャラ変わってないか?」

「リックは仮眠から起きるといつもこんな感じだぞ、そのうち落ち着くからほっとけ。」


リックの意外な一面に場の空気が助けられた。



――――――――――――――――――――――――



「だから私は言ってやったのさ、“ワイフだからさ”……とね!HAHAHAHA!!」

「お、おう……………。」


相変わらずのテンションでリックはマシンガントークを繰り出す。

冗談を言っているのだろうが、困った事にオチの面白さが全然伝わって来ない……。


「おいミゲル!全然落ち着く気配がないぞ、適当な事言ってたんじゃ亡いだろうな!?」

「いやーー、メティアナさんたちは速いなーー、もうあんなに遠くにいるよーーー。」

「無視かよ。」


恐ろしく棒読みでこちらの言葉を遮るミゲル、おそらくリックの長話に巻き込まれまいと考えているのだろう。


「リック!わかったから、別の話にしよう!!」


なんとか話題を切り替えなくては、こちらの身が持たない!


「んー、残念だねー!じゃあ何の話がいいかなぁ?」

「なにって……話題、話題……。」


リックが知っていそうな事で俺も興味がある事……。


「そうだ、リックも火術研究所で修行してたんだよな?

前にエムバラから術の仕組みを聞いたんだけど、ほとんど意味がわからなかったんだよ。

リックならわかりやすく説明できないかな?」


「ハッハー!お安いご用さー!」


リックは上着のポケットからゴワついた紙とボロボロのペンを取り出す。


「まずは四大元素の魔法についてだねー!

地域毎に地・水・火・風の神様が信奉されていて、魔術師になる人は子供の頃に祝福を受ける、ここまではアンダスタン?」

「ああ、アイム アンダスタンだ。」


リックは紙に四つの丸をバラバラと書き、中央に地水火風の文字を書いていく。


地 水


火 風



「ミゲルの左手の入れ墨、あれが祝福を受けた者の証なんだけど、中央に属性の神のモチーフが書かれる。

火の神バナムのモチーフは炎と太陽だ。」

「ほうほう。」


リックは火の字の下に【炎・太陽】と書き込む。


「でもこれだけでは術式は完成しない、必ず術の詠唱をもって力がもたらされる。」

「でもミゲルは呪文なんて唱えてなかったけどな。」


「おいおい、簡単な術式の詠唱省略は基本だぞ。」


ミゲルからツッコミが入る。


「基本って言われても、わからないものはわからないんだから仕方ないだろ!」


「HAHAHA!その辺もわかるように説明するから安心しろボーイ!!」


ぼ、ボーイ?


「ミゲルの左手、モチーフの周囲に二重丸と文字が書かれているのはわかるかい?

あれが二小節分の詠唱スペルを書き込んだものなんだ。

あれによって簡単な術式なら術名を叫ぶだけで使えてしまう。」

「へぇー。」


納得しかけるが、ここでまた別の疑問が浮かぶ。


「ところで、なんで元素の神様は詠唱に律儀に応えてくれるんだ?」

「おっ、いい質問だね!」


リックはペンをひっくり返し、持ち手でこちらをズビッと指す。


「元素の神様はみな詩人でね、詩が大好きなのさ。」

「詩?」


頭の上に疑問符がたくさん浮かぶ。


「日本にも返歌という文化があるらしいじゃないか、詠まれたハイクに対してハイクを返すって言う。」


「あー、なんか教科書で見たことあるなぁ。」


でも、それは多分俳句じゃなくて短歌だな。


「それと同じで、人間は神様に対して詞を送ると神様は魔法という形を用いてアンサーを返すのさ。

だから、五小節くらいの大作に対しては魔法のアンサーも当然力の入ったものになる。」


「へぇ、リックの説明は分かりやすいな。」……エムバラのと違って。


「ラップで考えると更にわかりやすいんだ、この世界での魔法勝負はラップバトルのようなものさ。

元素魔法が他の元素と重複できないのは、ラップスタイルの違いだと思うとわかりやすい。

二派の入れ墨をしていると………例えば火と水の入れ墨を入れて、水のスタイルのラップを歌っていると火のスタイルの神様から強烈なダメ出しが入り、本来の力が発揮できなくなるんだ。

スタイルの安定しないラッパーにディスりが入るのと一緒だね。」


リックは地水火風の文字の間に道路標識のような記号を書き込んでいく。

おそらく通行止めを表しているのだろう。


「ごめん、俺ラップがよくわからないや。

でも魔法について詳しくなれた気がするよ。」


「おいおいカムド、今のは初歩の初歩だぞ、それで詳しいと言われると術師としては心外だな。」

「まぁまぁ、何事においても初歩の部分が一番つまずき易いからね。」


リックがミゲルに「まぁまぁ」と呼び掛ける。

気付けばリックのハイテンションも元に戻っていた。


俺たちが話していると、メティたちの馬が走り寄ってきた。


「ミゲルくーん、そろそろ今日の夜営地だからね。」


メティが遠くを指差す。

その方角に目をやると、エムバラが既にテントを組み始めていた。


そういえば、こんなに大所帯での夜営は始めてだ。

キャンプみたいで何だかワクワクしている自分がいた。



第十一話 完

“なんとなくわかる”用語辞典


神様編


アグム

狩りや漁を司る辺境の神様。

祝福を受けると弓の腕が飛躍的に上達し、極めると矢が獲物を追尾する能力を得られる。

エムバラの能力はアグムの恩恵である。



ペルムル

ペルは良い、ムルは薬。

良薬と医学を司る辺境の神様。

祝福を受けると薬学のデータベースが脳にダウンロードされる。

また、経験がデータベースにフィードバックされて自動更新されるwikiのような便利な神様。



アンムル村について

本来はアグムルが語源であり、アグムとペルムルの兄妹神を現していた。

隣村のレヴィナは今でこそアンムルより栄えているが、本来はレヴ(隣に)イナム(控える、たたずむ)を意味し、レヴィナがアンムルの属村だった。

レヴィナ村の誇る英雄・聖女レヴィナも元々はアグムとペルムルの従者の役職名であり、本名ではないとか。



バナム

四大元素で炎・火を司る神様。

非常に情熱的な男神で、創世の頃は数百年躍り狂い大地を溶かしたと言われている。

最もメジャーな神のひとつであり、彼のシンボルを手に刻印している事はそれ自体がひとつのステータスと見なされる。


―――――――――――――――――――――――――――――――


遅くなってしまってごめんなさいです、失踪はしていません。


同時連載、異世界コメディの【異世界はタリスマンの輝き~五日でできる異世界救世!?~】もよろしくお願いいたします。(宣伝)


それではまた。


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