第10.5話 別れ
あらすじ
異世界への転移が常識となった未来の話。
異世界に憧れ、異世界へと転移した主人公だったが、魔物との接敵により自らの名前と記憶の一部を失う。
記憶を取り戻す為、自らのルーツを追い求めるうちにとある事件に巻き込まれ、仇討ちの旅へと出る事になった。
主人公の少年は“握手した者に共感を与える”能力と、仲間たちとの絆を手に“打ち捨てられた異世界”を駆ける!
登場人物紹介
カムド(主人公)
異世界に憧れ、異世界に誘われた少年。
握手した相手に共感を抱かせる能力を持つ。
自らの名前を失くしてからカムドと名乗るようになった。
飽きっぽく泣き虫、好きな事には自制が効かなくなるという厄介な短所と、情に篤くガッツに溢れる一面を併せ持つ。
メティアナ
辺境に住む赤髪の美少女、兄妹の妹の方、あだ名はメティ。
薬師として一流の腕を持ち、モンスター相手にもひるまない強さも持つが、根は普通の少女。
隣近所からの人望は厚いものがあるが身内には粗暴な態度を取ることも。
イブ
謎多き銀髪の少女。
屋敷に軟禁されていたが、殺人鬼の姉を討つため主人公たちと同行する事になった。
人間離れした強さと能力を持っている。
エムバラ
辺境の村の狩人、兄妹の兄の方。
放った矢が獲物を追いかける能力を持っており、弓の腕は百発百中。
多芸で器用だが、他人には分け隔てなく横柄な態度を取りがち。
名前の正しい発音はンバラらしい。
リック
リチャード=ハーパー、カムドと同じく地球出身。
理知的で物静か、観察力に優れる。
中年に差し掛かる年齢だが、オッサンと呼ばれる事には抵抗がある様子。
ミゲル
火術研究所の門下生であり、自身も炎の魔法の使い手。
両親を異世界人に惨殺された事から異世界人を強く憎んでいたが、カムドのひたむきな姿勢に心を動かされる。
ニール
火術研究所の現・所長。
所員からは一目置かれる存在のようだ。
あの後、研究所員に手伝ってもらい、馬車に荷物を一通り積み終えた。
人手も多く、作業自体に時間はかからなかった。
「悪いな、積み込みまで手伝ってもらって。」
エムバラがニールに礼を述べる。
「気にしないでくれ、このぐらいやってもバチは当たらないだろうしな。」
「色々と迷惑かけたな、もう来ないよ。」
エムバラが申し訳なさそうな表情で目を伏せる。
「……迷惑なんてとんでもない、寂しくなるな。」
「……色々と、ありがとう。」
「お礼を言うのはこっちの方さ、みんな恐怖で目が曇っていたのを…彼に目を覚ましてもらった。
彼の心からの訴えがなければ、私たちはこれからもずっと何かに怯えながら生きて行く事になったかも知れない。
彼には感謝している。」
ニールは目を細めて俺やメティを遠巻きに眺めていた。
「感謝?ウチのクソガキにか?どうせ調子に乗るだけだからやめとけよ。」
エムバラが口を尖らせながら悪態をつく。
本当に素直じゃないヤツだ。
異世界で俺と握手! 【10.5話 別れ】
「ところでリック、このあとどうするつもりだ?本当にダマ先生の仇を取るため旅立つつもりなのか?
我々としては研究所に残ってもらっても構わないんだが…。」
「いや……そうもいかないよ、いつまでもお手伝いのまま研究所に居つくのも申し訳ないし……。
何より異世界人とバレてしまっては今までのようにはいかないと思うんだ…。」
「やはり気持ちは変わらないか。」
「ええ……。」
「ならば止める事は出来ないな、無事を祈る……。」
「ニールも、新しい所長として頑張って。」
リックとニールは目礼を交わした。
「オッサン、研究所を離れるにしてもよ、どこかアテはあるのかよ。」
「もちろん君たちに同行させてもらうよ。」
「はぁ?メシや宿はタダじゃないんだぞ?
同行したいなら食事代、宿代、あとはモンスターからの護衛費用を払ってくれよな!」
エムバラは指折りしながら物凄い剣幕でまくし立てる。
「弱ったな、今は持ち合わせがそんなになくて…。」
「じゃあダメだ、悪いけど他を当たってくれ。」
「だけど、イブが離反を許してくれるだろうか?
あの約束の時に私もあの場にいたから……。」
「それはオッサンの都合だろ、一括が無理ならツケや現物でもいいんだぞ?」
「あ、あの。」
エムバラがリックに金の話題を吹っ掛けていると、ニールがおずおずと声をかける。
「なんだよ、今はビジネスの話で忙しいんだ、世間話ならあとで……。」
「事情はよくわからないが、元所員のよしみもある、私からもお願いしたい。」
「なんだい?ニールが立て替えてくれるってのか?」
エムバラが商売人のオーラを飛ばしながらニールを振り返る。
「立て替える事はできないが、今回の焼き物の代金は君たちの2割負担でいい。」
「あぁん?2割負担だぁ………!?ってことは~……。」
エムバラは脳内のそろばんをパチパチッとはじくと、ハッとした表情で突然リックと肩を組む。
ガシッ!
「いょぉーし!リックくん、これからよろしくなァー!なーーーっはっはっはっ!!」
「「(こいつ……ゲンキンなやつ………。)」」
「なーっはっはっはっ!!」
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「はぁ、はぁ………も、もうダメだ。」
荷物の積み上げ作業も終わり、一息ついた所だったが、ミゲルは未だに息も絶え絶えと言った様子で両膝に手をついている。
「俺も体力ある方じゃないけどさぁ、それにしてもミゲルは体力がないな。」
俺は苦笑しながらミゲルを見下ろす。
「うっ、うるさいなぁ!僕はインドア派なんだよ!」
「ふーん。」
ミゲルの顔に血の気が戻ったのを見て何だか嬉しくなり、ニヤニヤと笑う。
「な、なんだよ、なんか面白い事でもあったか?」
ミゲルは怪訝そうな顔をする。
「いや?……じゃあさ、外に出た事はあるか?」
「そりゃああるさ。」
「何回くらい?」
「う……えっ………回数は多くはないけど……危ない所はいつも先輩たちの先導があったし…。」
「そうか、ふーん………。
ふっ、ふっふっふっ……!」
ミゲルの話を聞いていると、意図せず勝ち誇った笑いがこみ上げ、止まらなくなる。
「な、なんだよその含み笑いは。」
「ふっふっ、そんなんじゃこれから先のアウトドアライフが思いやられるな!
村の移動ひとつ取っても外の世界は危険が一杯なんだぜぇ?」
俺はここぞとばかりに先輩面をし、おどかしてみたくなる。
「外の世界には恐ろしい化け物がわんさかいる、ゴブリン、コボルト、ゾンビ、二つの頭を持つ大蛇や、船より大きな大王イカ!空を飛び稲妻を吐き出す大飛竜!!」
「いや、最後の方は嘘でしょ。」
メティから白けた視線とツッコミが送られる。
「そ、そんなもの、こここっこっ、こわくないぞ!」
ミゲルの表情がこわばる。
「モンスターですか、話ではかなり手強いと聞いた事がありますが、大丈夫でしょうか?」
先刻のイブの常人離れした動きを思い出す。
「いや、イブは大丈夫だと思う。」
あなたの方がよっぽど化け物です!
半分ほど口に出かけたがなんとかこらえる。
「でもパーティが一気に増えたのはいいけど、この人数は馬に乗れないね…。」
「あっ、そう言えば…。」
考えてもいなかったが、確かにメティの言う通りだ。
現在、手持ちの馬は二頭、馬車を使うにしても4~5人乗るのが精一杯だろう。
俺、メティ、エムバラ、イブ、ミゲル、リック。
そこに大量の荷物…。
「困ったなぁ…。」
「なんだ?6人乗りくらいの馬車があればいいのか?」
ミゲルが事もなげに口に出す。
「いや、簡単に言うけどさ………。」
「僕の家に行けば馬車も馬もある、世話になる以上は好きに使ってもらって構わないよ。」
ポカーーーン。
思わず口が半開きになる。
そう言えばミゲルは名家の出身だと言っていたっけ……。
「すごい!馬車があるなんてミゲルくんやるぅ~!」
「ええ、そんな大きな馬車に乗れるなんて、私も楽しみです。」
「えっ、えっ!?ま、まぁ……。」
ミゲルに突然の人生のモテ期が到来し、思わず赤面している。
「ちぇ~~、なんだよ、馬車ぐらいさぁ~~~!」
なんだか面白くなくて不貞腐れる俺を尻目に、3人はワイワイとこれからの旅の話に盛り上がっている。
でも、このあと、再度実感することになるんだ、世の中やっぱり金だな……って。
でもそれはまた後日のお話。
第10.5話 完
こんにちは、醍醐郞です。
何話か書いているうちに、また書きたいモードが復活してきています。
キャラが増えて掛け合いを考えるだけでも非常に楽しいんですよね。
今回は話と話を繋ぐ幕間的な話だった為、省略するか迷いましたが、0.5話分と言うことで掲載してみました。
あまり後書きなんかに力を入れすぎて、また本編が遅れても嫌なので今回はこの辺で。
それではまた!




