2-B
「いやー、それにしても古い街ねー」あずさがきょろきょろしながら言う。
「そうかなー?川越と同じような気がするな〜」鷹が知らない名前を言った。どこかの地名かな?聞き覚えがあるような気がするけど…。
「えっ?川越知ってるのー?私の住んでた街の近くだよ!」あずさと鷹の会話は噛み合っていることを考えると前の世界の地名なようだ。
急に涼しい風が吹いたので雨でも降るのかと空を見上げたが空はさっき出発する前より少し増えた感じで大差なかった。しかし、上を見上げて血が上ったのか頭がクラクラし、慌てて視界を元に戻した。しばらく視界がぼやけたままだったが焦点が合うと2人が手を振って呼んでいた。いつの間にそこまで行ったのだろうか、軽く100mは離れていた。そして2人が呼んでる声が無音の世界に雑音を運んできた。
「早く行こうよ!何してるのー?」この聞き方は声が聞こえなくても内容だけであずさだと分かる。
「ごめん、空を見てた」何とも素っ気ない質問には答えてるがそれだけの答えに2人は違和感を感じたらしい。
「雨でも降りそうですか?」鷹が聞いてきたが、何で彼は敬語なんだろ…。いや、別に降るわけでもない。そう答えつつ、ふたりに追いついた。あずさは怪訝な顔をしていたが、すぐになにか納得しにこやかにこう言った。
「早くご飯食べよ!レバーでも食べて元気出そうよ!」あずさが合点したのは少しズレてる気がした。低血圧だけど、まだその日じゃない…。
空を見上げたからクラクラしたのか、それとも別の要因なのか分からず少し不安に思ってはいたが、不安な顔を見せるとふたりに負担を掛けるから明るく振る舞わなくちゃ!
「行きましょ!レバーはいいけど」そう言うとあずさを先頭に3人は店に入った。
「いらっしゃーい!」女将さんの威勢のいい声が聞こえた。
「あら?旅人の方かしら?」あずさと鷹は初めてくるから当然かもな、と思いつつ暖簾をくぐった。
「あらー!なつめちゃんじゃない!おかえり〜」やっぱりどこかで聞き覚えのある、温かみのある包み込んでくれそうな優しい声だった。
直後に一瞬時が止まったかと思うと皆が私の方向に体を向けた鷹とあずさはキョトンとしていたが何かは分かる。もう慣れたけど未だに妙な緊張感は嫌いだ。
一斉に私に向かって頭を垂れた。一応、これでも橘家の次女なのだから自覚を持ってしっかりと対応せねば…。
「皆さん、頭を上げて!当主の娘として皆さんに神の御加護あれ!」このセリフも最近覚えたばかりだけど少しはうまく言えたのかな?皆は深々と一礼した後各自今まで食べていた食事に手をつけ始めた。
「あの、そちらの方々は?さっき礼をしていなかったようだけど?」客の1人が嫌悪の視線を2人に向けていた。
「彼らは今日異世界から来た方達よ」そう言うと彼女の口調が落ち着いた。とりあえず良かった…って道具屋の双葉さんじゃん。
「双葉さん、お久しぶりです。今回は彼らをお願いします。」異世界からの人を見つけたら彼女に一度引き渡す、これが暗黙の了解である。それに今は昼を食べたくない…。ちょうど良かった。
「りょーかい!二時間後にうちで待ってるよ。」双葉さんは道具屋で生活雑貨から家具、武器や防具、服まで売っている言わば何でも屋である。他の異世界人の言葉だと「スーパー」だったかな?
「この人は?」あ、口に出して説明てなかった。
「カクカクシカジカ」今、心の中で言った内容をもう一度話した。
「私達はこの人に従って行けばいいのね!」あずさは呑み込みが早くて助かる。しかし、それとは対照的に鷹は疑っていた。確かに話がうまく進んでいて心配なのは分かる。しかし、異世界人が来たからと言って慌てる経験値じゃないんだよ。君たちが1000人目だよ。そのせいで人口が増えてるのは事実だ。あ、でも優秀な人材が多いのは事実だからお陰かな。そう言えばお守護さんも同じ時代出身だったな…。
双葉さんに2人を託すと昼を食べずに食堂を出た。というのも、別に用があったわけでは無い。ふたりが嫌いなわけでもない。ただ、ブラブラと街を散歩したい気分だった。
店を出て右に行くと町の中心へと向かう。左は元来た道、という訳で右に曲がった。この街は比較的静かな街だけどここは街道が合流する重要な街である。それ故に砦が置かれている。
砦街なので治安はいいが、一歩路地裏に入るとヤンキーはいないことは無い。そう思って路地裏を覗き込むと──案の定いた。見なかったことにしたかったがヤンキー側から絡んできた。
正直、今は相手にしたくない、というか寝たい。でも、相手はやる気満々、むしろ私みたいなのが入ってくるのを待ってたようだった。
相手は5人、普通の兵士だったら少し躊躇ったんだけど…。
単なるヤンキーだし、大丈夫だと見込んでいた。身長も私と同じぐらいで、中肉中背と言ったところか。確かに5人は今、目の前で延びてる。一撃が重いアッパーとストレートの二つしか打ち込まないのが、5人積もっただけなら普段の私なら1発も受けずに仕留めていた。もっと武器を持っているのかと心配した自分がバカだった。決着はほんの数分で着いた。私が全員を気絶させた。しかし、最後の1人と刺し違えになり、弱々しいパンチだったがみぞおち下数cmに食らってしまった。正直恥ずかしかった。気が抜けていたのか、体が動かなかったのか分からないが、未だに鈍い痛みがある。数歩歩くと痛みに勝る感覚が出てきた。
吐いてしまうとは思っていなかった。額を路地の壁に当てて俯いていると目のピントが合わなくなり視界が転がった直後、気を失った。