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双刀の鷹  作者: 澤之貉
1章 瑠璃の空
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1-B

「あ、あの、街までどれくらいかかるんですか?」少しは緊張も解けてきたかな。詰まらずに言えるようになってきた。

「え?街?大体4里ぐらいよ」あぁ、そっかこの時代は見た感じ戦国時代みたいだもんな。単位が全然通じないし分からない…。

「あなた、未来から来たってことは1里が分からないんじゃないの?だって私の時代でも少なくなった表現だし…」ああ、そうだよ、1里が何キロなのか知らないよ。でも、「里」の単位が昭和の時代に既に使われなくなりつつあるのは驚きだった。知らないこともあるんだな…。

「あっ、そーですよ、知りませんよ悪かったですね」精一杯の嫌味を込めてやったがその嫌味にあずさは気づいていないようだった。

「仕方ないわね…大体4キロほどよ」あずさは呆れたように言った。ただ、呆れていようが勝手だが微妙に近いこの距離をやめて欲しい。俺はツンデレが趣味じゃない!

「1里4キロってことは…およそ16キロも先なのかよ!!」家に引きこもっているだけの俺にとって16キロは途方もない距離に聞こえた。拷問かよ…。

「高々16キロじゃない。私だって歩けるからあなただって余裕よ♪」あずさのこの年上に対してとは思えない態度が鼻につくが俺が悪い。16キロ程度歩けない男子なんぞあの時代は男子と捉えられないだろうから。そういえばこの近さだからわかるけど割とあずさは身長が高い。鼻元ぐらいまであるから160cmと言ったところか。

「ハイハイ、歩きますよ、そのくらい…」蔑むように見つめるあずさの目線が怖くそれしか言えなかった。

「フフフッ仲良くなったのね、お似合いよ!」なつめさんが茶化してきた。あ、いや、ち、違うってば!ってあずさは否定しろ…よ?彼女は俯いたまま赤面していた。お、おい…俺に権利はないのか?

あずさが機嫌を治してからしばらく他愛のない話をしながら歩いた。16キロとは言ったが平地続きで思っていたよりも楽だった。横浜が坂が多かったのかな。時計をしていないから時間はわからないが太陽が上まで昇っていた。そんな昼下がり、ふと視線を前に向けると今登っている丘の向こうに湖が見えてきた。湖とはいえ、普通に大きく、対岸は見えない。その湖の畔に砦街が見えた。純和風の土塁と土塀を組み合わせた砦だが、かなり堅固そうだった。後ろが湖だからか彦根城のように見えた。

街は遠くから見る限り砦の左側に末広がりで宿場町のようだったが、そこまで大きな街では無さそうだった。黒光りする瓦は街が古いことを表していた。

「あれはちょうど道中の半分ぐらいの砦よ。さっきの所から後ろに見えた山を越えれば研究所だったんだけど…」街が見えてほっとしたところでこんなことを言う…確かに、ずっと左手に見え続けてる山は険しそうだった。砦から伸びる街道は山の一番なだらかな所へと伸びていた。

「まあ、あの山を越えれば距離は半分だったんだけどね、召喚されて間もない2人に険しい岩山に山賊や獣が出る道を通ってもらうのもどうかなーって!」すごい軽やかにその事実を口にする彼女に俺とあずさは冷たい視線を向けたが気にしてないようだった。それはそうと、山賊や獣が出てもなつめさんが入れば俺らは相手の返り血で染まって難なく通り抜けられると思ったんだけど違うかな。てか、とりま…ギブアップ…。出発直後からやけに距離の近い梓にも気を使うし、ひきこもりの俺にはこの徒歩でも辛いんだよ…。早く休みたいー!まあ、武器があっても損がないんじゃね、とか適当な事言ったけどつまり、命がいつ狙われててもおかしくないのか。かなり物騒だってことだな。まあ、平民だし大丈夫かな…あれ?なつめさんってお姫様だよな…なんで外出歩いてるんだ!?

のどかな昼下がり、街が見えほっとしている俺、相変わらず距離感がおかしいあずさ…そして立ち止まってふたりを制するなつめさん…。あれっ?最後おかしくね?

「そこに隠れているのは分かってるわ、」突然なつめさんが叫んだ。今までの彼女からはこの姿を想像出来まい。あんなに穏やかな彼女を怒らせる理由は何なのか?それはすぐに分かった。

「あなた達、我が領国へ何の用かしら?正当な理由がないのであれば国際法に従い不法入国としてあなた達を抹殺するわ」笑いながら恐ろしいことを言うなつめさんに俺は再び驚かされ、あずさは怯えて震えている。

目を顰めると確かに光学迷彩のように陽炎みたいなのが立っていた。しかし、それもすぐに消えそこから突如3人組が現れた。左右のふたりは人だった。しかし、真ん中の人型は人ではなく耳がとがっており、背中に翅が生えていた。翅は漢字の通り、鳥の羽毛覆われた様なものではなく、虫の透き通った翅の様だった。

「それは心外だね、東国幕府、継嗣候補の橘棗さん。私たちは正当な理由を持ってここに来た。」俺よりも頭1個以上背の高い彼の声は高圧的な鼻につく口調だった。もしかしたら内容にかなり転嫁している所があるかもな。

「あら、ならなぜ転送能力のあるあなた方が道を歩いているのかしら?用があるなら幕府の門を叩きなさいよ、エルフの首長、ミリタント大帝国136番目の皇子さん。」136番目?そんなにいるのかよ。第一名前は?

「ほほぅ、私め相手に戦闘を望むとは貴国の未来が危ういですな」口調からするとかなり歳を食っているのだろうか?俺の知っているエルフは長い命を持つ。ならば歳を食ってても違和感はない。

「所詮名前も付けてもらえないお前に私めという権利はないんじゃないかな。第一、自分たちを再優良種族だと恥ずかしいことをぬかしてる者達に私は用はない。ただ、国内でコソコソされるのは見過ごせないまでだ。」あー、俺よりも男らしいな。

「私の前に現れた、つまりそれが指すのは…」そう言うとなつめさんは私達に短刀と長刀を一振りずつ渡し、その場から横に瞬間移動しているかのように動くと、先程まで彼女がいた場所の地面は焦げていた。

「あちゃー、これはやばいわね…」あずさが俺の左手にしがみついて呟いた。いや、それは言われなくてもわかってる。ただ、刀を渡された限り、自分の身は自分で守れということか…。

そう思っていると、136番目の皇子の脇にいた2人がこちらに向かってきた。

【ヤァー!】ふたりが持っているのは刀。単純に考えれば…あぶない。どっちがどっちの刀を持つか決めるまもなくパッと取った武器で受けた。

どうやら俺は長刀を、あずさは短刀を取ったようだった。

「ふんっ、私の一撃を避けるとはなかなかではないか!」刀を横にし振りかぶられた刀を受けつつ、そんな声がした。

「あの程度じゃ私を殺せないわ。私の暗殺のために遣わされたものでしょ、あなたは。どうやら役不足のようね」そう言うと両腰から短刀を一振りずつ取り出し、構えた。まるで最初にあずさと出会った時に彼女が取った体勢を。

振りかぶられた刀を何とか横に逸らすとあくまでアニメで見ただけだが、それっぽい構えをとった。両手で柄を持ち相手との間合いを取る。よく考えたらこの刀は少し丈が長い。というのも、受けた時、刀は軽く肩幅の倍近くあった。刀の知識がそこまである訳では無いが長いのは分かる。普通は肩幅より少し長いぐらいではなかろうか。

この居合では刀を抜く動作は無いため長いのが単純にリーチとなり優位に立った。ただ、相手が人である限りある程度手加減が必要だ。容赦なく切り捨てることは出来ない。例え、斬って大怪我をさせても殺しはできない。それが俺の弱さである。

刀を振り下ろすと相手も受けつつ、次の攻めに持ち込もうとする。永遠に続きそうな斬り合いだったが、俺が刀を振り下ろすふりをして、それを受けようと出した刀を弾き、後は一本背負いからの絞め技でダウンさせた。

同じ頃、あずさの戦局も動いており、経緯はわからないが相手は落ちていた。ピクリとも動かない。この戦闘のメインとも言えるなつめさんの戦闘は激しさを増していた。

なつめさんが斬り掛かる、すると皇子は転送魔法を使い、影分身のようなものをし始めなつめさんを囲った。次の瞬間、なつめさんは宙に浮いていた。そして地面は軽く1mぐらい凹んでいた。俺ら、こんな人たちと生きていくのかと思うと身の毛がよだつ思いだった。

影分身となつめさんの攻防はしばらく続いた。正直、3人で戦えば負けるはずが無かった。

「参戦しましょうか?」俺はなつめさんに聞いたが、予想外の言葉が返ってきた。

「1体1これが武士の本来の姿。私の道に反するからいいわ」あ、そういうのうるさい人なのね…。

「ならばその道という無駄なものを壊して差し上げましょう。」そう皇子は少し高い声で語るとなつめさんの胸元付近に魔法を放った。それを見計らってかなつめさんは呪文の延長線上のすぐ左手の影分身で現れる場所を斬ったが空を斬った。しかし大して慌てることは無かった。

数秒の間、影分身が続いたあと、先程、魔法の延長線上になつめさんは刀を刺した。すると、一瞬の沈黙のあと「ぐはっ」と男の声がした。どうやらほんの一瞬で勝負が着いたようだった。

「ち、ちくしょう…な、なぜこの私が負けたのだ…」苦しみ悶えつつなつめさんの背中に彼は問いかけた。

「それはあなたが傲慢だったからです。我々は下等生命ではなく対等であることを忘れているあなた方に警告します。東洋人は神のもたらしたコマだ、と」では、と言うと容赦なく苦しむエルフの彼を斬り捨てた。


俺とあずさは正直恐ろしかった。優しく微笑んでた母親みたいななつめさんと国のためなら容赦しない父親のようななつめさんを数分足らずで見せられ、しかも今は第3の顔を見せている。この人は何個顔を持つんだ…。

「さっきの大丈夫だった?」急に同い年ぐらいの活発な女の子と言った印象になった。これが本来の姿であってほしい。

「え、えぇ、まぁ」曖昧な返事をあずさが返した。確かに大の大人に飛びかかられたのに俺も彼女も無傷だった。

「え、えっと襲ってきた彼らは人でしたよね?」未だに敬語だな…。

「そうよ!エルフの彼は私を暗殺に来た隣国かつ、異種族エルフの首長ミリタント大帝国の皇子!そして両サイドにいたのがたぶん奴隷と思われる人類よ!」さっきまでの二つの顔とは随分と違う可憐な少女だった。

「さっきの最後の決めゼリフっぽいのは?」あずさは敬語を使わない、お前年上に話してんだろ!

「あーあれはね、私達東洋人の先祖から続く言葉でアレを言われたら他種族は何も言い返すことが出来ないらしいわ。詳しいことは首都に戻ってからね、私もよく分からないわ」さっきまでよりずっと話しやすい雰囲気になっていた。

「そーれーよーりー!もう街につくわよ!さっきのでお腹すいたし、定食食べに行こうか!」なつめさんがそう言うと彼女のお腹も“ぐー”っと返事をした。3人で笑いながら街の食堂へと向かった。

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