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双刀の鷹  作者: 澤之貉
1章 瑠璃の空
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1-A 旅立ち

皆さんは異世界を知っているだろうか。平行世界、パラレルワールドとも呼ばれるこの世界のことを──

六つの種族が平和に暮らしていた中、天使達が降りてきてこう言った。「この世界は神の一手で何でも変わる」と。天使達が去った後、天変地異が多発し、巨大大陸は散り散りになり多くの大陸が生まれた。そのうちの一つ、ヘイリッグ大陸は中央に向かい山がちになる円形の大陸だった。大陸の中央の、山に降臨した神はこう言った。「混乱するこの世を最も早く収めた種族に二つの土地を与えようぞ。」そんな天変地異から2000年後のある日の話──

青い空、白い雲、なんと美しい景色だろう。というか、何年ぶりに見たのだろう。少なくともここ3年は外に出た覚えがない。外の世界ってたまに出てみるのもいいな。3年もあれば人は変われる。俺だって3年前まではそのサッカークラブのエースになるようなプレイヤーだった。「だった」のだが、右足の前十字を切ってしまったために選手生命は絶たれてしまった。それ以来、ほぼ外に出ていない。新鮮な空気とどこまでも青い空に目尻が熱くなった。あの日、痛みで滲んだ空も、悲しみに暮れて病室から見た空もこんな空だったような気がするな…。

しばらく俺は空をぼんやりと見ていた。東に陽のある青い空はどこか今までとは違う空──眺めていたらいつか引き釣り込まれてしまうような深い青色の空だった。

なんか違う気がするのは3年も空を見てなかったからか…そう思ってふと先程までの自分の行動を振り返ってみた。俺の記憶が正しければ確か、バイトでもするかと思ってPCで探していたはず…。で、なんか高給のバイトを見つけて、応募した…。しかし、そこから青空を見るまでの記憶が飛んでいた。おかしい。明らかにおかしい、なぜならPCを俺は外では触らない。まず、自発的に外には出ない。そして、一番重要なことに気づいた。【ここ、どこー!!】

叫んでみたものの、何も起こらないと「思って」いた。しかし、それは想像でしかなく、未来は誰にもわからない。現に空を見ている視界に同じくらいの歳と思しき和服を着たポニーテールの少女が現れた。

「やぁ、君はここで何をしているんだい?」無垢の瞳とでも言うのだろうか、彼女は俺に興味津々なように見えた。

「警戒してるのかな?私はなつめ、よろしくね!」彼女などいたことのない俺にとって女子と話すのはかなり勇気がいる。第一…こんなに美人な女子が俺に話しかけてくるのはおかしい。ヒキニートの俺に話しかけてくるわけない。人違いだ。

「あのー?聞こえてる?聞こえてたら反応してほしいな〜」明らかに俺に語っている。とりあえず一通りあたりを見回したが人はいないから俺なのかな?なにかアクションを起こすべきだと思うが何をしたらいいんだろ?悪いことはしたくないしな…。そう思って自分を指さしたらうんうん、となつめさんは首を縦に振った。

「もしかして《コミュショウ》というやつですか?」うわっ、完全に見抜かれてた…。でも片言なのからするとここは異世界なのかな?

「あ、あの、ど、どうも…ここの世界は…?」コミュ障の本領発揮といくか。

「多分亡くなってこちらの世界に来たのだと思うよ!」いやー、そんなに軽々しく死んだって言わないでほしいなー。って!えっ?死んだの、俺!?

「あ、死んだんですね…お、俺は鷹、ヨロシクな!」よくアニメにある自己紹介のやり方…失敗はないはず。

「へぇー!鷹くんか〜、ヨロシクね!さっそくなんだけど、そちらの方も一緒にうちへ来ない?」うち?色んなことが一度に飛び込んできて俺はオーバーヒートしそうになった。が、それよりも2、3メートル離れたところにこれまた同い年ぐらいの少女が倒れていたことに初めて気がついた。明らかにさっきまで居なかったはずなんだけどな…。まず知り合いではないので、人見知りヒキニートの俺には難しい要望だった。しかし、どうやら過去の自分を知るものはいなさそうなので勇気を出していい所を見せることにした。しかも、この際ここで放っていくわけにも行かない。

「あ、あのー、だ、大丈夫ですか?」あーヤバイ!ここで彼女いない歴=年齢の声をかけられない、いわばイコーラーの副作用である。しかし、焦っている俺の前で、彼女がとった行動は──寝返りを打つことだった。あまりの見当違いに数秒が沈黙で流れていった。そんな俺を見くびってか、なつめさんは彼女を叩き起した。さすが同性、やることが違う。

「うにゃー、何するのよ!って…何奴!!」寝ていた彼女は目にも留まらぬ速さで戦闘態勢に入った。腰を引き、今にも襲ってきそうな体勢だった。今更だが、彼女はモンペを着ており、時代が大きく違うことが分かった。モンペと言ったら戦時中の服で、この動きを見るだけで、戦時中、戦後の復興を生き抜いてきた祖母の強さがわかった気がした。ただ頭に浮かんだ言葉はただ一つ、強そう…。

彼女は腰に手をやり、何かを取り出そうとしたが、腰には何もなかった。そして観念したのか、その場に跪き、手を上げた。

「殺すなら殺せ!この世に思い残すようなものは何も無い!」ひょえー、恐ろしい、これが同い年ぐらいの少女が言う言葉かよ…。驚きを超え、言葉として理解するのに数秒かかった。この行動になつめさんも流石に驚いたらしく動きが一瞬止まった。しかし、俺とは違い冷静な対応をした。俺とは違う、コミュ障でなければニートでもない。ましてや、俺とは性別も違う。正直、今の少女を止められるのは彼女だけだった。俺は黙って見守るのが最適だと勝手に納得し、大人しく実行した。

「まぁまぁ、落ち着いて…座って話しましょう?」諭すようなその声は母親のような温かみがあった。

「お知り合いではないの?」なつめさんが俺に訊いてきた。

「い、いや、し、知り合いでもない、あ、赤の他人です。」あー、なんで俺はこんなに女子と話せないんだろ…。女子との関係を拒み続けた過去の自分を恨んだ。

「同じくっ」少女はキッパリと答えた。物言いがしっかりしていて、正直、俺よりも気が強い気がする。さっきの行動といい、俺が勝てる余地などあるのだろうか。だが、こちらを見る視線はさっきの獣のような眼とは違うような気がした。

「へぇーこの世界に同時に召喚されたわけでもないのに同じような時間に転生するんだ~」転生?これってまさかの転生もの?ラノベでいくつも読んだやつ?キター!俺はこれから主人公みたいになれるのか!予定通り権力者との関わりもあるし!ようやく自分の今の状況を掴めた、というか理解した。でも、一概に喜んでられないか。見た感じ、なつめさんはいざという時は刀を抜ける、そうとすると、あまり安全な異世界でもなさそうだ。ただ、今まで六畳間のベッドの上でゴロゴロゲームやらラノベやらをやっているよりよっぽどマシか。

「転生!?私は死んだの?」少女は目を丸くしてなつめさんに迫った。ただ、半分くらい諦めているようだった。

「死んだんじゃないかな?」あぐらをかいているなつめさんは足を組み直した。あ、見てはいけないものが見えたような…。でも俺に悪意はない。自分に言い聞かせた。

「そっか…でも空爆にはもう遭わなくていいんだものね…前向きに捉えないといけないのかな…」死んだということに悲観もなければ驚きもない。彼女は冷静に自分の身のことを考えていた。てか、死んだと言われてもあまり実感わかないよな。第一、俺って死んだの?そこがまだ謎なんだよな。死んだとしても死因は何?

「鷹は何をやってたの?あと…君はなんで死んだの?」なつめさんは憐れむように訊いてきた。なんかそう思わせる顔でもしてるのかな?

「引きこもり。ヒザの怪我のあと引きこもりになったがその前はサッカーをやってた」女子と話したのいつぶりだろ?あ、中1で入院している時に保育園からの幼なじみがお見舞いに来てくれた時か…普通に3年前だわ。て言うか、質問に答えきれてない…。

「男子は引きこもってないでお国のために命を捧げるんでしょ!でも、弾傷一つないし、5年近く前から蹴球禁止だから…。まさか未来の人っ?」素っ頓狂な声を上げて彼女は振り向いた。

「あなた、何年から来たの?」なつめさんはまるで品定めするかのように全身を睨め回していた。いや、そのあなたが俺を見定める前に、さっきから袴の中からチラチラと見えてるものを隠す女子として最低限をして欲しいかな…。目のやり場に困るんだよな。

「え、えっと…2017年かな?」ふと思ったが、少女はともかく、なつめさんはいつから来たか教えても意味が無い気がしたが、あまりに興味津々そうな顔をしていたのでそうつっこむのをやめた。

「あ、あと君の名前は?」ここまできてようやく質問が出来た。とはいえ、声は震えている。

「私はあずさ。1945年から来たわ」今は俺の前の世界は三月初めだった。ということを考えると、彼女はグアムからの空襲が始まった頃に亡くなったということだ。空襲に遭わなくていいとはそういうことか。でも大本営は事実を隠していたはず…。彼女の死因を想像するという罰当たりな行為をしている間に、なつめさんとあずささんの会話は進んでいた。

「城に戻れば1945年のことを知っている方が居られるはずだわ」なつめさんは城主の娘さんだったな。城はどんな形なのだろう。城好きの俺にとって関心事ができた。

「なんか知りたいような知りたくないような…」あはは…とあずささんは苦笑いをしながら答えた。

「それにしても情けないわねー、ひきこもりの男子って。」申し訳ありません、あづさ様。

「でも、その歳の男子が働かないでもそこそこな生活ができているってことは相当経済が進んでいるのかしら?戦後の経済じゃあ絶対無理だわ。」あなたは空襲で亡くならなければ学者で名がしれてたかもしれないです。

「その通り、戦後に朝鮮で戦争が起きてその戦需景気で高度経済成長期に入り、今でこそ世界3位だが、2位にまでなったんだよ」歴史と現代社会なら自信はあるぜ!

「は、はぁ。単なるひきこもりでも無さそうね。」いや、俺は君がこんなに現実離れした話をしているのに驚きすらしないことに驚愕だよ。

「ところで、あなたはおいくつ?ちなみに私は16よ」急に話をなつめさんに振られたので焦った。って、あれ?同い年じゃん…

「俺も16歳。」クッソそっけねぇな…。いままでとは全く違う反応だった。おかしいな~、さっきまで普通に女子と話していたのに…。イコーラーは辛いよ…

「あら、なら弱々しい彼は年上ね。私は15歳になったばかりよ」は、はぁ。どうやら完全に見下されているようだった。それもおかしくはない。身長175cm高くも低くもない身長でありながら貧相な体と優柔不断なこの性格、サッカーをやっていた時と全てが正反対だ。あ、学力は上がったな…ある意味正反対だな。見下しているあずさだったが俺とは頭1個以上身長に差があった。単純計算で155cm無いぐらい…性格は別として可愛らしい身長だな。

「そろそろ出発しません?異世界人研究所が、最も近いうちの領土なんだけど、そろそろ歩き出さないと着く頃には日が暮れちゃうよ」どんなキャラを作っているのか分からない喋り方だった。しかし、一つ言えることがあった。俺が起きたのは日が昇ったからなんだよな…。どこまで行けば街に出るんだよ…。

「好きな食べ物は?」ここは合コンかよ。と心の中でツッコミをしたが、素直に答えた。

「俺は唐揚げ」お、よくよく考えたらまともに女子と話せてる!実はコミュ障じゃないのかもな。

「えーっ!私もよ!」んん?どっちの声だ?分からず顔を窺うと2人とも驚いていた。え?あ、これってもしかして3人とも同じってこと?

「唐揚げなんていつ食べたかなー?」あずさが悩んでいたが確かに戦時中は貴重だったかもな。

「この次の街に食堂があるからそこでたべましょ!とても美味しいわよ!」なつめさんから嬉しい言葉が出てきた!ん、待てよ…俺、前の世界で定食頼んだな…、あ、この世界までデリバリーしてくれるんだね!

「次の街って研究所ですか?」なぜかなつめさんには敬語になってしまう。

「いや、研究所は街の少し先だね」なつめさんが普通に返してきたが、まだ街が見えないことを考えればまだまだ道のりは長そうだ。

それからしばらくは俺とあずさの他愛もない話になつめさんがちょくちょくツッコミを入れるといった感じで歩き続けた。

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