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スカーレットの単語帳

『はー…たりぃ…。』


スカーレットは、アスランに渡された単語帳をうんざりとした目でみた。


表にはチビとかいてあり

裏にはアスラン(すかちゃんのお友だち)と書いてある。


次をめくると犬とかいてあり

裏にはらっしー(すかちゃんのお友だち)と書いてある。


これは、アスランがスカーレットに聞き取りをしながら丁寧に作った単語帳だった。


『あの人は?』


『めしうまねーちゃん。』


『カイラさんね。ご飯美味しいよね。』


『あの人は?』


『強ぇえアニキ‼』


『リクさん。かっこいいよね。』


『この人は?』


『白っぽいおっさん。』


『オリバーさんね。アスランのパーパですかちゃんのおにーさんだよ。』


そんな風にして、アスランが一枚一枚スカーレットのために、書いたのだ。

スカーレットは、勉強は嫌いだが、かろうじて字は読めた。

アスランの字もけして上手いとはいえなかったが

スカーレットが読みやすいように、大きく丁寧に書いてあった。


アスランからは一日三枚ずつ新しい札が渡された。

最初の三日くらいはなんとかついていけたが

十日目にもなると、単語帳は異様な厚さを見せ

スカーレットのやる気はみるみる減っていった。


だから、アスランに思わず言ってしまったのだ。


『おめぇもうぜぇよ。』


と。


アスランは、少し驚いたような顔をしたが、

すぐに頷いた。


『わかった。え…っと、これ、やめる?』


スカーレットは、少し調子にのってしまった。


『そーだ。もうやめる。いらねーおせわだってんだ。』


『…いらない、おせわ。』


アスランの瞳に影がさしたその瞬間


光の早さでがちむちの爺が駆けつけた。


『アスラン、アスラン!どーしたんだいっ』


アスランはふるふると頭をふった。


『どーもしない。』


爺はアスランを抱えると、ぎゅっぎゅと抱き締めて走り去っていった。


『……あぁ?なんだありゃ。』


首を傾げるスカーレットが異変に気がついたのは、次の日からだった。


アスランが妙によそよそしいのである。


『すねちゃったんだわ‼

せっかくスカーレットのために頑張ったのに否定されたから、すねちゃったんだわ‼


カイラは、にこにこしながらそう言うと、

お赤飯を炊いた。


『なあ、この変な色の飯、最近よく出てくっけど、なんなんだ?』


スカーレットは妙にもちもちするそのライスをしげしげと眺めた。


『遥か東の方の文化らしいのだけど、お祝い事の時にはこれを食べるの。

ごま塩かけると美味しいわよ?』


『ちびがすねたのを祝うのか?』


『そうよ?アスランが初めてすねたのよ?』


『じゃ、こないだのは?何を祝ったんだ?』


『初めて怒って泣いたのよ。』


『マジか!』


『スカーレットが来てから、アスランは初めてがいっぱいなのよ!』


『そう、お礼申し上げねば。』


どこからか現れたレイリークも頷いた。


『お礼…』


スカーレットは後ずさった。


『ちょっと、リク。あんた、顔が怖いのよ。』


『もともとです。』


『最近にやけてることが多いから、ギャップが怖いのよ!』


隊長は大変に端整なお顔立ちなので、

ちょっとした表情の変化で大層雰囲気が変わるのだ。

基本の表情は、厳めしい系なので、低い声とあいあまってなかなか迫力が出る。


『お礼参りか…。さすがアニキ。ごくどーだぜ…』


『いやいやいや、伯爵令息だから。ごくどーじゃないから。』


『まあ、わたくしは抜けてしまいますけどね。』


『あら、そうなの?』


『はい。オリバーさまも貴族である必要はないとのことでしたので。』


『族抜け…』


『まあ、そうですね。あ。』


レイリークは、ぽんっと手を打った。


『わたくしは、本当にスカーレットのアニキになったんですね。

それもこれもスカーレットのお陰です。』


『マジか!』


『ええ、だから…

その単語帳、全部覚えてくださいね?』


『え?』


『初めての仲直りをみたいんです。

あなたはアスランの初めてのお友だちですから。』


『あー…』


そんなわけで、スカーレットは単語帳をめくるのだった。


『まじ、たりー…』








































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