私立オトメゲーム学院
『スカーレット‼君はなぜ、友達と仲良くできないんだ?』
そう叫ぶ、派手な金髪にアクアマリンの瞳の少年を階段の上から見下ろして、スカーレットは思った。
仲良くできねーんだから、ダチじゃねーんだよ。
と。
スカーレット…真っ赤なボーズ頭に、白いTシャツにジャージの上下、かかとを踏み潰したスニーカーをだらしなくつっかけたチンピラは、
自分の婚約者だったはずの少年にすごんでみせた。
『ふざけたこといってんじゃねーよ、タコ』
『た…!?』
ロビンライトは生まれてはじめてタコと呼ばれ、咄嗟に言葉が出なかった。
『おまえなんか…おまえなんか…!』
みるみる赤くなる顔をみて、スカーレットは、うむ、と頷いた。
『なんだ、タコ野郎。』
『スカーレット・フレイヤ・ヒル‼
あぁあ!もう、いいよ!』
☆
広い綺麗な舗装された道を、馬のついていない不思議な馬車がスーっと走っている。
車輪に当たる部分が、道に触れている間だけ、銀色に光り、木漏れ日のような模様がうかぶ。
公爵婦人の1人、エマの発明品だ。
『イルハン様とオリバー様を繋ぐから、イオリ線イオリ号ですわ‼』
本日のイオリ号にはエマとキャメロン以外に1人の乗客がいた。
レモンイエローのブロンドにアクアマリンの瞳の派手な雰囲気の少年であった。
『いいこと?ロビンライト。
失礼な振る舞いはしてはいけなくてよ?』
エマとキャメロンは少年に言い聞かせる。
『そーよー?絶対にレディを罵ってはダメよ?』
ロビンライトは頷いた。
『大丈夫です。僕はもう一度、スカーレットにチャンスをあげるだけだから。』
それをきいて、二人はため息をついた。
『その上から目線が、命取りですのに。』
『ほんとねー。』
エマとキャメロンは肩をすくめた。
☆
バターン‼
『スカーレット・フレイヤ・ヒル‼』
ドアを派手に開けて大声でスカーレットを呼ぼうとした瞬間、ロビンライトはネジあげられていた。
『お客様、騒音は困ります。
他のお客様のご迷惑になります。』
ロビンライトが頭上高くから聞こえる怒りを含んだ声に顔を上げると
シャバの人間とは思えない怒気をはらんだ恐ろしい顔があった。
『あの。あの…おろして、いただけませんか…。』
つり上げられたまま、ロビンライトは震える声で懇願した。
『大きな声を出さない。物を乱暴に扱わない。人名を呼び捨てない。それがお出来になるならば。』
『できます。』
リクは片手で吊り上げた少年を静かに下ろした。
本日のオリバーの魔法喫茶は、実に殺伐としていた。
☆
『なんのようだ、ゴラ‼』
『レット‼』
『ゴラですわ‼』
他のお客様のお目を汚さぬために
すぐにロビンライトは奥の個室に通された。
スカーレットが会ってもいいと言うので、
オリバーとカイラが立ち会っている。
あと、オリバーは難色を示したが、たっての希望でアスランとラッシーも。
『…あいかわらずだね、スカーレット。
僕は君にチャンスをあげにきたんだ。』
立ち会っているが、すでに飽きてきていた。
『うるせぇ、タコ‼』
『レット‼』
『タコですわ‼』
『君がどうしてもと言うのなら、
婚約破棄をキャンセルしてあげるよ?』
『じゃかしいわ‼』
『レット‼』
『ございますわ‼』
全く会話が成り立っていないのである。
ロビンライトは自分の言いたいことをいい、
スカーレットは罵声を上げる。
キャッチボールどころか投げっぱなしだ。
『はい!ロビンライトさんに質問です!』
アスランが手を挙げた。
『なんだい?』
『すかちゃんのことが好きですか?』
ロビンライトは顔を赤らめた。
『好きなんだー。』
アスランはにこにこした。
『はい!すかちゃんに質問です!』
アスランはにこにこと続けた。
『ロビンのこと好きですか?』
スカーレットはふるふると首をふった。
『…え?』
アスランは首をかしげた。
『だって、こいつといると、ろくなことねーもん。えらそーだし。』
アスランはもう一度ロビンライトをみた。
『ええと。…パフェとケーキ、どっちが好き?』
『……。』
ロビンライトは泣いていた。
『ああ、どうしよう?』
アスランは下唇をきゅっとかんだ。
そんなアスランの様子を見て、
スカーレットは赤いボーズあたまをじょりじょりなでながら、ゆっくりと話し出した。
『ちびは気にするなよ。
俺だってそこのパツキンクソ野郎がすごく嫌いなわけじゃあねぇよ?
だけど、きにくわねぇ。
いつもしゃしゃりでてきやがる。
だいたいこいつが好きなのはおれじゃねぇ。
好きだったら、味方してくれるはずだろ?
こいつはいつもおれに説教してばかりだ。』
珍しく、スカーレットはきちんと話した。
やくざなしゃべり方ではあったが。
『それは君が間違ったことばかりするから…』
ロビンライトはスカーレットと目を合わさないまま呟いた。
『…ねぇ、すかちゃん?』
『あん?』
『アス…ぼくの名前、知ってる?』
『…え?』
『じゃあ、この人は?』
『あー…?』
カイラとオリバーは、大きくため息をついた。




