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刺青の謎

かつて、

オリバーの子供時代に

シッキムとオリバーが、シッキムの故郷のシャングリラを目指して旅をしていた頃、

南の大国アーリファット帝国に滞在していたことがあった。


ある日、

友達と出掛けたはずのオリヴィエが青い顔をしてアパートメントに帰ってきたのを見て、シッキムは慌てた。


『ど、どうしたの。オリヴィエ?』


その頃のオリヴィエ…オリバーは

可憐な容姿でで人目をひいた。

護身術を身に付けているとはいえ

まだ小柄で華奢な子供である。


出先で何か怖い目にでもあったのではないかと思い、

シッキムはオリヴィエに駆け寄った。


オリヴィエは、出掛けにシッキムに注意された少し丈の短いスカートを押さえて、泣きそうなかそけき声で訴えた。


『ぱ…パーパは知ってたの?』


『え?』


『お、オリヴィエが女の子じゃないって…』


『え?』


シッキムは愕然とした。

オリヴィエは、オリバーだ。

オリバーは男の子だ。

だけど。


『あ。』


シッキムは、しまった…!、と呟いた。


『も、もしかして、オリヴィエ、昔は知ってたの…?』


幼い頃に、高熱を出して、それ以前の記憶を失ったことを、オリヴィエ本人も知っていた。



『あああ…。ご、ごめんな!

バーパがわるい‼

うっかりしていた‼

その、お友だちにばれちゃった?』


オリヴィエには、仲のよい三人の友達がいて

四人の少女たちは、何をするにも一緒だったのだ。


『う、ううん。

たぶん、大丈夫…大丈夫なんだけど…。

もっとちゃんと、とめてよう!

もう少しでオリヴィエ、みんなにビキニ披露しちゃうところだったんだよ?』


『えええ‼』


シッキムの口が、顎が落ちるのではないかと言うほど、ぱっかーんと開いた。


『ほんと、もう…ほんと、…もう…。』


オリヴィエも顔を赤くしてさめざめと泣いている。


『いや、ほんとごめん。

俺も忘れてたんだわ。

ほら、精霊って厳密には性別ないし…』


シッキムは頭をかいた。


今度はオリヴィエが口をぱっかーんと開けた。


『え、パーパ、精霊なの?人間じゃないの?

汗臭いおっさんなのに?』


ランニングにステテコ姿の髭もじゃのシッキムをオリヴィエは三回みた。


『あ、あー。そう、そうだよね‼

そこからだよね!

汗臭くてごめんね‼

でも大丈夫…オリヴィエは人間だよ!』


シッキムはおっさんであるが、おっさんという言葉にしっかり傷ついた。


『え、パーパとオリヴィエは血は繋がってないの!?

マーマも…?!』


今度はオリヴィエの目が眼球がこぼれ落ちるかと言うほど見開かれた。


『あぁ…。いやでもオリヴィエ。マーマは明らかに…。』


シッキムは、人間の生態について教育してこなかったつけを痛感した。

オリヴィエがマーマと呼んでいるガチムチの青年を思い浮かべながら。


へにょん…と、しゃがみこんだオリヴィエは、

もうほとんどべそをかいていた。


『わけわかんない…。』


シッキムは、一緒にしゃがむと、オリヴィエの顔をのぞきこんだ。


『オリヴィエが、女の子でも男の子でも、人間でも精霊でも、私の大切だよ?』


『…知ってる。』


オリヴィエは、なんとか立ち上がると、自分の部屋に入っていった。


『ちょっと、一人になりたい…。』



キルトの裾を決まり悪そうに押さえていたオリバーを見たとき、シッキムは少女時代のオリヴィエを思い出した。


あれから二十五年。

まさか本当に、バージンロードを手をひいてあるくことになるとは!


『でも、まー、ほんと良かった。』


シッキムが一人、うんうんと頷いていると


『おはようございます。

シッキムさま、少しだけよろしいですか?』


遠慮がちにレイリークが声をかけた。


『ああ、隊長。おはよう。

大丈夫だよ。どうしたの?』


『今回の騒動の発端となった魔方陣をみていただきたくて。』


『ええと…これなに?』


『スカーレットさまの刺青です。

これをみて、オリバーさまの様子が一変したのです。』


レイリークはカイラが書き起こした三枚の図案を見せた。


『あ。あー…。これかぁ。』


シッキムは、見たことのある紋様に口を押さえた。


『この国にも入り込んでいるんだねぇ…。

昔からある、青少年を狙った犯罪組織のだね、これ。』


『そうなのですか。オリバー様は、酷く怒っていました。みたこともないくらいに。』


シッキムは、話すと長くなるから…と、レイリークをあずまやまで連れていった。


シッキムは、どこかから魔法のように携帯コンロとヤカンと水差しを取り出すと、

ヤカンに水を入れて火にかけた。


『オリバーが子供の頃に、海の向こうのアーリファット帝国に住んでいたことがあるんだけどね。

そのときに始めて、この組織のことを知ったんだ。』


遠い昔が雲の向こうに見えるかのように、シッキムは遠くを見た。


『そのころ、オリヴィエには三人の仲のいい女の子がいたんだよね。』


『…三人も!もてもてですね。』


『あは。ちがうちがう。

オリヴィエも自分のことを女の子だと思っていたんだよ。

当時のアーリファットは一般庶民に対する教育に力を入れていてね、誰に対しても学校が開かれていたんだよ。

多民族国家だから、言葉もたくさん覚えられたしね。

オリヴィエはそこに通っていたんだ。

同じ年頃のお友だちが出来たのは始めてだったから、オリヴィエは毎日楽しそうにしていたよ。


毎日、なかなか帰ってこないし、

おしゃまさんだったから、短いスカートとかはいちゃってね。

お化粧したり、爪を塗ったり…。

町で一番の美人さんだったよ。

だからもう、私は毎日、本当に心配だったんだよ。』


『おしゃまさん』


『あれ、いまは使わないかな。

大人びた格好をしたがったりね。

まあ、年頃の女の子が四人もそろうと

ほんとにかしましかったね。

だけど、ある日、水着を買いに行った時に、

気がついちゃったみたいなんだよねぇ。』


『…水着。』


『アーリファットは海が綺麗なところだからね。

ワンピースみたいなの着てればよかったんだけどねぇ。』


『はあ。』


『で、まあ。オリヴィエは結局その夏、楽しみにしていたビキニも着れず、なんとなくお友だちと疎遠になってしまったんだけど。』


『びきに…』


『そのときに、お友だちが、その犯罪組織にひっかかってしまってね。

洗脳されたり、魔力を抜かれたり、売り飛ばされたりしたんだよ。』


『!!』


『だから、オリバーは、ものすごくその組織を憎んでる。』


『…オリバーさまは、連座で贄に上げられた人を全員解呪したと言っていましたが…』


いったい、何人…何万人分の呪いをといたのか。


シッキムとレイリークは、深いため息をついた。


『…いや本当に、よく死ななかったよね。

あのひと、かっとなると後先考えないからね…。』


『ええ、本当に…。』


『あ、お湯が沸いた。隊長、お砂糖とミルクいれる?』


『あ、はい。』


二人は庭の花を眺めながら、しずかにお茶を楽しんだ。


















オリバーとシッキムのなれそめを描いた

『オリバーと風の精霊』もよろしければどうぞ。

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