今になって思えば。
『あ、帰るんだ、さよーならー』
『シッキム様、お世話になりました。』
イルハンは風の精霊にも挨拶をした。
『イルハンは、若返ったね。』
『余剰の魔力を兄上にお渡ししてから、調子が良いのです。』
『ほんと、調子良さそうだよね。髪の色も、綺麗な金髪で、ウィルフそっくりだよ。』
すっかり色があせて、白髪混じりだったイルハンの髪は、黒の森の滞在中にすっかり若い頃の艶と色を取り戻していた。
そんなイルハンと、その横に立つオリバー…に密着しているレイリークを見て、
シッキムは、悟った。
『あー…』
オリバーがオリヴィエだったころに、
夢を見たと言っていたのだ。
金髪の人と赤毛の人が風の丘にやってきたと。
赤い髪の人が、オリヴィエは立派なレディーになれるのだといい、ダンスの約束をしたと。
あのときのシッキムは、オリバーの両親への贖罪の気持ちから、金髪の人はウィルフで、赤毛の人はリザだと思い込んでいたけれど。
くすくす笑いながらダンスの真似事をしているオリバーとレイリークとアスラン、そしてそんな三人にチャチャをいれているスカーレットとイルハンを見て確信した。
オリバーの心の中から帰還したあとのレイリークの報告を受けた時には気づかなかったけども。
『隊長の愛は時空を越えるのか…!!!』
オリヴィエの初恋の人は、レイリークに間違いなさそうだった。
オリバーとレイリークの回りには、またしてもブラッドベリー家由来のなんらかの愛情表現をしたときの特殊効果が、くるくると回っていた。
見るたびにハートの数が増えて、きらめきが増している。
シッキムは、近くにいた残留組のシアーシャに話しかけた。
『ブラッドベリー家の真実の愛ってのは凄まじいね。
ところであの特殊効果、いつまで続くの?』
『永遠です。』
『え…?』
『そして、近いうちに、夜空に大輪の花火を打ち上げてくれることを我々は確信しています。』
『…花火…?』
『…は!
よりによってシッキムさまに!
ああっわたくしったらいけませんわ‼』
シアーシャは突然顔を真っ赤にしてバシバシとシッキムを叩いた。
『痛いよ‼』
『シアーシャ!』
『だってティルダさん‼
わたくしったら、花火のことをお話してしまって…』
『ごっふぁ!』
暴走を止めに来たティルダも、レディーとは思えぬ声で呻いた。
『ちょ、シアーシャ!よりによってあなた…。
あの、ですわね。そう。そうです。
す~。は~。
げふん。
シッキムさま、お忘れになってくださいまし。
ある日、夜空にそれは美しい大輪の華が咲き乱れ、煌めくハートが降り注ごうとも、
あのお二人とは何の関係もございませんわ‼』
シッキムは、ティルダの迫力に押されて頷いた。
『わ、分かったよ!知りたくないよ!』
騒ぎを察知したミネが様子をみに近づいてくる。
『どうしたんだ?』
『御姉様っ。わたくしったら、花火のことを‼』
『ごっふぁ‼』
ミネルバも盛大に吹いた。
そして、遠くを眺めた。
『…本人達には、絶対にいうんじゃないぞ。
花火が見たかったらな。』
公爵婦人ずは大きく頷いた。
『ちなみにそれ、どれくらい遠くから見えるの?』
シッキムはミネにそっと問いかけた。
『全世界。』
『…え?』
『おそらくだが、星を落とした魔法使いの神話の原形は、隊長の先祖とそのパートナーだろうと思う。』
『……。』
『この世界全域に、似たような現象を伝える神話が残っているんだよ。
火薬なんて存在しない時代の文献からね。
いやー。生きてる間に検証の機会に恵まれるとは思わなかったな。全世界の同士に報せねば。』
シッキムは、忘れることにした。




