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第32話 PDCAの裏側で。

あの夜、泣きそうだったのは、むしろリクだった。


まるで、死神に心臓を掴まれたようだった。


この、世界の果ての美しい場所で、いつまでもいつまでも幸せに暮らすのだと思っていたのに。


誰が世話をしているのか、館の中庭は年中美しい花が咲き乱れていた。


イルハンは、ベンチの隣に座る青年に声をかけた。


『レイリーク隊長は、都に戻る気はないのかい。』


レイリークは首を横に振った。

普段の凛とした様子とは違い、どこか頼りない様子で。


『もう5年もたってる。

ほとぼりもさめたし、多少の世代交代はしてる。

兄上のことは感謝している。

だけど、君には君の人生があるだろう。

多少は引き立ててあげられるよ。』


レイリークはもう一度首を横に振った。


『私の人生は、ここにあります。』


イルハンは、空を見上げた。


『…ここは、たしかにいいところだけど。

なんというか、すべてのものの色が鮮やかで。』


『ご飯も美味しいですよ。』


『たしかに、あの料理長は凄いな。

一つ一つの料理がものすごく美味しい。』


『大切な仲間もいるんです。』


『ああ…。』


『いま、離れたら、私はここに、戻ってこれない気がします。』


レイリークは、最愛の人と同じ顔を持つイルハンの目を、真っ直ぐみた。


『そうか。悪かった。

ただ、何かの役に立ちたかった。』


『では、力を貸してください。

ここにいる私と、都に帰るイルハン様にしか出来ないことがあります。』



急遽開かれたパーティーには、ほぼすべての駐留軍のメンバーが顔を揃えた。

それは、ほとんどパーティーというよりは

閲兵式のような有り様だった。


『うそ、みんな、これ、着るの?

みんな、これ、持ってたの!?』


オリバーは、全員のキルト姿に唖然とした。


『一応、我が国の男性の正装なんですよ‼

冠婚葬祭に軍事演習、もちろん実践でも大活躍!

この布一枚まとっていれば、どんな風に死んでも、どこの誰かわかりますからね。』


カイラがひらひらとプリーツを揺らしながら笑った。

うちの模様は可愛いんですよーとかいいながら。


『そうなんだ…。寒い土地柄なのに…なんでだろうね。』


オリバーは遠い目をした。


『わー。足がすーすーするっ』

『はっはー。スカートすげぇ久しぶりにっ』


アスランのキルト姿は愛らしく、スカーレットのキルト姿は意外にも可憐だった。


らっしーも首にタータンチェックのスカーフを巻かれていた。


『にゃあー…』


ちなみにオリバーがシッキムに渡された毛皮の正体はウィンディーであった。


『まあ、なんか、ご飯豪華だし、いっか。』


オリバーはもこもことご馳走を頬張るアスランとスカーレットをみて、ふにゃっと笑った。


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