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第31話 タータン


『ありがとうございます。』


『着てみてください‼』


『…もったいないので、大切にします。』


『今すぐ着てみてください‼』


オリバーは、渡された高価な衣服に目を落とした。

ミラでは、貴族には、家ごとに模様がある。

パンジェンシー家の成人した男子にのみ許される正装を手に、オリバーは途方にくれていた。


『いやでもこれ、本当にすごい価値があるものでしょう?』


『はい!イルハンさまのとお揃いです!

最上級のウールです。一流の職人に頼みましたし、自信をもってお兄様にきていただけます‼』


『いやほら、じゃあやっぱり、ここぞというときに…ね?』


オリバーの力ない微笑みをうけて、

シアーシャはにっかりと笑った。


『じゃあ、パーティーをしましょうよ‼

隊長にも着てもらって‼

たしか、ブラックベリー家は黒色でしたよね‼

超セクシーだと思いますよ?』


『ごふぁっ』


『シアーシャ‼慎みなさいっ』


『いたいですわ!いたいですわ!

皆様だってみたいくせに‼

お兄様の絶対領域を‼』


オリバーは、意識を失いそうになるのを必死で耐えた。

いまここで、意識を手放したら何をされるかわからない。


オリバーはずっしりと思い、故郷の民族衣装を落とさぬようにうずくまった。


『あわわ‼お兄様のライフが‼』


『だれかー‼だれかー‼ってか、レイリーク様ー‼』


オリバーは、背中に暖かい大きな手が添えられたのを感じてから、意識を手放した。



『裏切られた…。』


目を覚ました瞬間に、オリバーは風呂に放りこまれた。


『オリバーさま。動揺しすぎです。

修行が足りませんよ。』


オリバーは、シャンプーハットを被って

頭をわしゃわしゃとレイリークに洗われていた。


『だって、あれ、ハードルたかいです…。

リクも、あれ、着るんですか?』


『着ますよ。というか、年中着てますよ。

謁見に行くときとか。パーティーとか。演習とか。』


『…演習って…走るんですか…?』


『走りますし、跳びますし、演舞とかもしますよ。』


『…めくれたりしませんか?』


『動けばめくれますよ。だから、みえる位置にタトゥーをいれる兵士もいます。たぶん、お洒落で。』


『…』


『大丈夫です。オリバー様が気になさっているのは、足が露出することでしょう?上品に着付けて差し上げます。』


『ほんとうに?』


いつになく、子供っぽいオリバーのものいいに

レイリークは声をたてずに笑った。


『ええ、約束いたします。』



『…似合わない。』


眉根を寄せてつぶやいたオリバーに、リクは穏やかな笑顔で首を振った。


『そんなことはありません。よくお似合いです。』


『これじゃあ、オリバーのコスプレ喫茶だよ。』


『ぶっ…』


横で紅茶を飲んでいたティルダが吹いた。


『ねぇパーパ。本当にパンツはかないの?』


『はいてるよっ‼』


『ぶふうっ』


さらにシアーシャが鼻血を吹いた。


オリバーの身に纏っている民族衣装は、重厚感のある豪奢な風合いだった。


パンジェンシー家のみに許された模様を織り込まれた最高級のタータン。


キルトも上着も最高の羊毛を、最高の職人が最高の技術で織った一級品だ。


そして中身のオリバーもそんじょそこらには居ないほどのイケメンである。


が。


『ちょっと皆さま。

そんな目で、オリバー様をみないでください。』


顔面を崩壊させながら食い入るようにオリバーを見つめる15人の公爵夫人にリクが苦言を呈する。


『ぶふっ…絶対領域ッ』


エマは白のハイソックスとキルトの間に見え隠れする

オリバーの真っ白な形の良い足を見つめながら、昏倒した。


フェリシティーの反応はともかくとして、オリバーの正装は概ね好評だった。



もう一人、尋常ではない反応を示したのはシッキムだった。


『あの小熊ちゃんがこんなに立派になって…!』


髭でもこもこの口を両手で押さえ、感極まったのか目を赤くして涙さえ浮かべていた。


そして、中空に手を差し出すと、どこからともなく豪奢な白銀の毛皮を取り出した。


それをレイリークに渡すとレイリークが肩にきせかけた。


美しい、ハイランダーがそこにはいた。









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