第27話 約束の目覚め
『むかしむかしの物語で伝えられているのです。きいたことはありませんか?
理不尽な呪いで眠りについたお姫様が、王子さまの口吻で目覚める話を。』
『ああ、そのお話、僕もしってる。
でもぼく、どこか遠くから来たんだよ。』
『たとえ、違う世界であっても、
同じような概念が存在するのならば、同じような物語が語られるのでしょう。
遠くはなれた場所に居住する複数の民族に、同じ神話が残っていることもすくなくありません。
そして、お姫様が女性である必要も、王子さまが男性である必要もないのです。
ただただ、真実の愛が起こす奇蹟です。
ブラッドベリー家は建国にも貢献した古い一族で、イケメンを多く輩出した為に、記録も沢山残っているのです。
かの家系ではたびたびその奇蹟を起こすものが現れました。
おそらく、真実の愛をみつけるのがうまいのでしょう。』
シアーシャは、シュークリームをつつきながら、
アスランに話してきかせた。
アスランは次の日の朝には
何食わぬ顔で自分の部屋から出てきた。
夜中にそっとオリバーのベッドから這い出し
ハニーミルクとビスケットを
(その近くには、犬と猫のご飯とお水も用意されていたので)
犬猫の咀嚼音を聞きながら食べて
自分の部屋に戻ったのだ。
小さいなりに思うところがあったのか
昨日の振る舞いを謝罪し、
シアーシャたちにも愛想よく挨拶をして、
その姿にじじじじ達がまた涙するのであった。
『アスラ。昨日はごめんなさい。』
そこに現れたのは、オリバーだった。
アスランの横に座り、行儀悪く顔をぺったりテーブルにつける。
暁色の瞳で、じっとアスランをみつめた。
『もう‼楽しみにしてたんだよ?
お弁当も頑張ったのに!』
『ああ、食べたかったなあ。』
『あすらも食べたかった‼』
『あれ、食べなかったの?』
『じーじとばーばとりくとかいらが食べたって。』
『いいなー。ね。おめめ、ちょっとはれてるけど、泣いちゃった?』
アスランは顔を赤くした。
『な、ないてないよ‼』
にゃーお~
わふんわふん
ウィンディーとらっしーが何か言いたげではあるが、アスランはあわあわとしながらも聞こえないふりをした。
『じゃあ、今日は遊びにいこうか!』
オリバーはアスランを担ぎ上げると、シアーシャにも微笑みかけた。
びよんっと飛び乗った猫にバランスを崩し、
やや傾いでいたが。
『昨日はありがとうございました。
お申し出に感謝していると皆様にもお伝えください。』
『いえっあのっはいっ』
『イルハンのこともよろしくお願いします。』
『それはもう‼はい!』
『では、今日はこれで失礼いたします。
ごきげんよう。』
『ご、きげんよう‼』
オリバーは子供を抱き、頭に猫をのせ、背中に犬を乗せて、去っていった。
『孤独の魔法使いとか嘘じゃん。』
シアーシャは心の中でそう呟いた。




