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第26話 そして猫は起動する

駆けていく子供に、いつも一緒にいる犬と

どこから現れたのか白い猫もついていった。


『あの子は誰ですの?』


首を傾げたシアーシャの声に答えたのは、

飛び出したアスランと入れ違いに現れたイルハンだった。


『あの子は兄上の…。泣いてたみたいだけど?』


そんなイルハンにカイラはつとめて平坦な調子で説明した。


『ええと…。

今日はオリバーさまとアスランは遊びに行く約束をしていたのです。

早起きして、エディン様とお弁当作って…。』


『…そこに、わたくし達が乗り込んで

衝撃的な話をして、オリバー様は倒れてしまったんですわ。

いいお話だから、すぐにお伝えしなきゃって思ったんですけど…。』


シアーシャが顔を曇らせて引き継いだ。



『…あ、アスラン、泣いてたぞ…。

あれは、怒りだな?』


震える声で呟いたのはエディンだった。

オリバーの母親を自認する彼は

アスランには、ばーば、と呼ばせていた。


『…顔を真っ赤にしてボロボロと泣いていましたね…。なにか怒鳴ろうとして、言葉が出なかった。』


レイリークも頷いた。


『罵るような言葉は教えていないからね。』


エディンの言葉に、シッキムも頷いた。


『今夜はお赤飯でしょうか?』


カイラも目を潤ませながらそっと問いかけた。


異様な雰囲気の四人に、勇気を出して問いかけたのはティルダだった。


『あの、追いかけなくていいんですか?』


四人ははっと顔をあげた。


『は!早くオリバー様をベッドに設置しなくては!』


『わたし、はちみつミルクとビスケットを用意するわ!』


『ウィンディーを通して中継しなくちゃ‼』


『ああ、もぐりこむところみたい…』


四人はやはり、異様な熱に浮かされていた。



レイリークとカイラは、オリバーを部屋に運んだ。


クローゼットが何故か不自然にしまりきっておらず隙間から犬の尾の先がゆらゆらと揺れているのを、二人は目の端で確認しながら、やや大きめな声で呟く。


『ああ、わたしたちの大切なアスラ!

可哀想に!

せっかく早起きして頑張ったのに!

素晴らしいお弁当を作ったのに!

どこにいってしまったのかしら?』


『きっと、オリバー様の所に帰ってくるさ。』


『そうだといいのだけど‼

ここに暖かいハチミツミルクとビスケットを置いておこうかしら?

アスラが食べてくれるといいのだけど‼

保温の魔法がコージーにかかっているから、いつまでも暖かいわ!

火傷はしないように気を付けてね!…って思うわ!』


そんな二人の姿を、タンスの上に乗った白い猫が、耳を二人の方に向けてじっとみつめていた。



『なんか、すごい棒読みですけれど…。

あのお二人は諜報活動にもたけているはずでは!?』


公爵夫人ズの一人、エマが思わず呟いた。


食堂の壁には、白い猫、ウィンディーの目を通した映像が投影されていた。


『黙ってられないなら、出ていってくれ。』


珍しくきつい物言いをするのはエディンだった。


『まあまあ、ほらほら、もうすぐだぞ‼』


エディンをなだめながらもシッキムは画面から目を離さなかった。


レイリークとカイラが退出した十秒後、クローゼットががらがらとあいて、小さな子供が這い出してきた。


そして、横目でちらっとミルクとビスケットをみてから、一目散にオリバーのベッドに駆け寄ると、一瞬で潜り込んだ。


続いて犬が潜り込み、最後には映像ががたがたと揺れて、暗転した。


猫も、布団に潜り込んだからだ。


『はああ…。お顔は一瞬しかうつらなかったなあ…。』


エディンが残念そうに呟いた。


『な、もっかい見せて。』


シッキムは、アスランがクローゼットから這い出すところから、アップにしてスロー再生した。


『な、なに。この熱気…』


公爵夫人ズがドン引きの中


十回目の再生に入ろうかというときに


レイリークとカイラが戻ってきた。


そして、一緒に涙を流しながら映像を観賞した。











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