第25話 真実の口づけ
ぱったりと倒れたオリバーを
レイリークは毛布で受け止めると、
素早く額に口づけた。
それをみて、シッキムは、ああっとため息をついた。
『なるほど、それか…。』
レイリークは、顔を赤らめた。
無意識だったのだ。
『いやいや、きにしないで、どんどんどうぞ。』
レイリークの顔がますます赤くなる。
シッキムは、どれ、っと呟くとオリバーの額にさらさらと落ちてくる前髪をかきあげた。
そこには、ふんわりとした淡いピンクのハートの光が漂っていた。
『まあまあ‼これが真実の口づけの特殊効果‼
ラブリーハートですのね‼』
15人の公爵夫人達が光の早さで集まった。
レイリークの顔がさらに赤くなった。
そのときだった。
『ねー。パーパは?ご飯、終わった?
あ、カイラー、おべんと、準備終わったの。
ばーばががほとんど作ったけど、プチトマト、ボクがいれたよ‼
』
期待に満ちたあどけない子供の声が食堂の入り口に響きわたった。
『『しまった…!!!』』
その瞬間、レイリークとシッキムとカイラの顔は、真っ青になり互いに目配せをした。
『あ、アスラ。
そうね。今日はオリバー様とピクニックに行くのだったわねぇ。
ただ、オリバー様は今日はちょっと…』
カイラが17人の女性達の間をすり抜けて、
あわててアスランにかけよった。
スカーレットの女子合宿を羨ましがったアスランに
ピクニックに連れていくと約束していたのだ。
昨日のオリバーは。
『え?
今日は二時間だけだけど、一緒に行くって約束したよ?
倒れちゃったの?
なんで?』
なだめようとするカイラのわきをすり抜けて
ずんずんアスラは食堂の奥に歩み寄った。
オリバーが好んで座る席まで来ると
アスランは、食べた形跡のない、バターの染み込んだパン達をみた。
お皿とマグは、アスランとお揃いの絵柄のものだったので、それがオリバーの朝食であったことをアスラは察した。
『パーパ、朝御飯、食べれなかったの?』
『わふん』
らっしーもふんふんとトーストの匂いをかぎ
そっとバターをなめてから、いぶかしげにあたりを見回した。
『…おねーさんたち、なんかしたの?』
『わふん!』
アスランは15人の公爵夫人とスカーレットを見上げた。
『画期的な提案をしたんだよ。』
そこにどや顔で現れたのは、ミネルバだった。
『?』
アスランはミネルバを見上げた。
『感情が大きく揺れたんだろう。倒れてしまった。だけどーもがが!』
アスランと一緒に食堂に来たばーば…ことエディンがミネルバの口をふさいだ。
みるみる、アスランの瞳に涙が溢れてきたから。
アスランは、レイリークをみた。
『アスラン。ごめんなさい。』
レイリークは膝をつき、アスランにオリバーをみせた。
『…今日はもう、起きないの?』
『…はい。』
アスランの顔は見るまに真っ赤になった。
『なにするんだ!エディン‼』
『ばかっミネ‼あなたたち、ひどいことしたんだぞ‼』
エディンの言葉で、アスランはミネルバ達を見上げた。
『あなたたちが?』
『そうですわ!でも、素晴らしい提案ですのよ‼』
アスランは、真っ赤な顔で、涙を一杯流して、
きっとシアーシャをにらんだ。
『………!!!』
そして、口をひらきかけ、すんでのところで飲み込み、走り出した。




