第24話 オリバーと16人の妹達
『お兄様!話はスカちゃんからうかがいましたわ! 』
会議室Aにおける淑女たちの合宿は三日に渡った。
そして、四日目の朝、
パンにしみじみとバターを塗っていたオリバーの前に16人の妹たちが紡錘型に並んだ。
『…おはようございます。』
オリバーはパンとバターナイフを皿に置くと、
精一杯の笑顔を浮かべた。
『お兄様っ。無理をなさらないでくださいませ。
見知らぬ人の前で無理に快活そうになさると、体力の消耗が早まりますわ!
手短にお話いたしますから、目と耳を貸してくだされば結構ですわ!』
『あ、ありがとうございます。』
オリバーはキョトンとしたあとに、ふにゃっと笑った。
『私達の個体識別はまだつかないと思いますから、今日は私、シアーシャが司会進行を勤めさせていただきます‼』
二十代半ばと思わしき金髪の娘がはきはきと発言を続けた。
『まず、わたくしたち、多少の差はありますが、情報の整理と手作業と二次的な創作が得意でございます。
そして、全体的に魔力量が多いのです。
スカちゃん、オードリーさん、ティルダさん、お願いします。』
シアーシャが名前を呼ぶと、三名が前へ出た。
スカちゃんはスカーレットだった。
『こないだならったあれ、練習したら、いっぱい出せるようになったんだ。』
スカーレットが両手のひらを上に向けると、
金色の塊がもわもわと出現した。
それをオードリーと呼ばれた娘が見えない糸車を回すような動作で紡ぐと、金色の糸が出現した。
その糸をティルダと呼ばれた中性的な美貌の女性が、美しいボタニカルな模様に仕立てあげた。
『このように、わたくしたち、三人一組で、
おにいさまの魔法を再現することができます!
お役にたてませんか!?』
オリバーは口をあんぐりとあけた。
『現時点で、召集をかけられる同士も何百人かおります。
わたくしたち、お兄様に隊長さんとラブラブする時間をさしあげたいのです!』
『ごふぁッ‼』
『シアーシャ‼それはまだ非公開でしょう‼』
『ああっごめんなさいませ‼
でもティルダさん、お二人は頻繁に真実の口づけをなさっていましたわ!』
『…し、真実の…?』
オリバーは泣きそうになりながらも
気になるフレーズを問いただした。
『ブラッドベリー家の直系が、忠誠を誓った相手にだけ起こすことができる奇蹟のことですわ!
ハッピーホルモンの影響だと思いますけど、
不治の病をも治します。』
『え、ちょっと、なに、リク…』
『いや、私もそんな話は…』
『ああ、今を遡ること3000年前に最後の記録が途絶えた伝説ですもの。ご存知なくても仕方ありません。』
『えええー…』
『赤毛の聖騎士と白き魔導師の伝説ですわ!
イドラナカ遺跡の洞窟の壁画にも描かれています‼
わたくしどもの組合では、まずみんな、ここで様々な妄想…いえ、修行を積むのです。
世界を割り、星を落とさんとも君とともにー』
『えええー…。あ、それ、ちょっと建国神話ににて…』
『そうですわ!
そのお話を元に当時の支配民族に都合がよいように練られたのが、例の神話ですわ‼
』
『シアーシャ‼しゃべりすぎですわ‼』
『いたいですわ!いたいですわ!
しばかないでくださいましッ』
『はいはい、まー、そーゆーわけだ。』
かしましい女性達を割って現れたのは、
ミネルバだった。
『公爵家の秘術は、国なんかに任せなくても継承できるぞ。
我らイケメン図鑑編纂室が未来永劫伝えていこう。
恋する乙女がいるかぎり。
オリバー殿…、オリビエ。
自由に使うんだ。一度しかない、命と時間と人生を!』
『みね、ねーさま…』
激しい感情がオリバーの中を駆け巡り
案の定ぱったりと倒れた。




