表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/47

第2話 初めて会う妹はチンピラさんでした

レット…スカーレットは

ある日、家から追い出された。


突然馬車に詰め込まれ

兄に手紙を持たされて

知らない親戚のうちに預けられることになった。


だから、食事休憩のときに、

逃げてやろうと思った。


そして、逃げたはいいが

いつのまにか森の中にいて

動けなくなっていた。


後先考えずに体が動いてしまうのはいつものことだったが

今回はヤバイと思った。

ちょっと涙が出てきたその時に

気がついたら目の前に

見たことがない男が立っていた。


年はよくわからない。

ぱっと見は、すこしやつれた感じのおっさんだった。

覗き込んできた瞳は、意外にも華やかな琥珀色で

言われてみれば年の離れた兄に似た顔立ちだったかもしれない。

その後ろからひょっこり出てきた小さな子供と犬に抱きつかれて転倒しそうになっている姿は、ガッチリとした兄には似ていなかったが…


真っ暗な森の中

その道だけは暖かく柔らかく光っていた。


「なんだこれ」


その光る道の上に、レットは相変わらずだるそうにしゃがんで、ゆっくりと運ばれていた。

レットの横に膝をついたままのオリバーは、

鞄から取り出したタオルでレットの顔の様々な水分を拭ってやった。


「動く歩道です。このまま、うちまで行けるんですよ。

便利でしょう。」


乾いていて、ほのかに温かいその道の横では、

結構な速さで周囲の景色が流れていた。


レットは、なんとなく眠いような気がしたが

眠ったら負けなような気もして

指で必死に目をこじあけた。


「眠っても大丈夫ですよ。

ついたらおこしてあげますから。

ほら、タオルをまくらにして」


レットはそのまま地べたに寝そべると

意識を手放した。





兄上へ


この度お預けする、私たちの年の離れた妹、

スカーレット・フレイヤは

最近とても個性的なファッションに身を包んでいます。

きっと、妹だと認識するのは困難だと思います。

なので、本人に私からの手紙を持たせました。

よろしくお願いします。


イルハン


そんな手紙を受け取ってから数週間。

約束の日の到着の時間をすぎても現れないと思ったら、

スカーレットの護送を請け負ったという業者の人たちが

青い顔をしながら駆け込んできた。


『逃げられました。』

と。


そんなこともあるかとスタンバイしていたオリバーは

すぐに上着を羽織ると

息子と犬に一緒に行くか尋ね

一人と一頭を連れて出発した。


オリバーの住居を取り巻く森は特殊な森で

オリバーにはその中の有様を

把握するすべがあった。

そうして見つけたスカーレットは

頭を丸めた少年のような出で立ちで、

泣きそうな顔をしてしゃがみこんでいたのだ。


だがしかし、

オリバーが声をかけようとした瞬間に

目をつり上げて、精一杯ドスのきいた声でどなりつけてきた。


オリバーは、すごく不思議な気持ちになった。


初めて会うのに、なんだか知っている顔だったからだ。


スカーレット・フレイヤ・ヒル。

首都で成功したヒル商会の一人娘。

オリバーとイルハンの母の娘。


赤毛を短く刈り込んだ坊主頭に

剃ったか抜いたか眉のない眉骨。

鼻や耳には無数のわっかが刺さっていて、

耳の後ろにはあろうことか刺青、

成長期特有のアンバランスさからか、

骨組みががっしりしているわりには肉付きが薄くて…


…まちがいなく、チンピラにしか見えなかった。


しかも、異様にゆっくりした動きのせいか

危ない薬を決めているようにも見えた。

ダラダラと口の端を伝うよだれは

いかにもなにかの中毒者のようにも見えた。


「ねぇ!」

「わふん!」


アスランとラッシーは期待に満ちた目でオリバーを見上げた。


「レットはさ!お友達に、なってくれるかな!」

「わふん!」


オリバーは、ふふふっと笑うとアスランとラッシーをワシワシと撫でた。


「きっと。お友達になれますよ!」


明るい道は、夜の向こうの暖かな家に繋がっていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ