第19話 令嬢ですもの、あれもやらなきゃ。
『スカーレット・フレイヤ・ヒル‼
お前との婚約を破棄する‼』
『あぁ?』
『だ、だって、お前っ。』
『あぁあ?』
『会話にならないじゃないかっ…』
『あー…。』
☆
『相手はロビンライト・アマトリーチェ。
そこそこの貴族の次男です。
実際は、そんなに派手な出来事ではなかったようです。
ロビンライトは学園でもファンクラブがある人気のある少年で、そのファンクラブと婚約者であるスカーレットが揉めた時に、うまくさばききれなかった。
スカーレットはあの調子ですから
強気な少女に囲まれて上手く対応できるはずもありません。
それを、悪役令嬢とうとう婚約破棄される…と、おもしろおかしく大きく報道されてしまった。
それで、スカーレットの状態も悪くなった。
だから、こちらに。』
トーマスが、そう話した相手はカイラだった。
それは昼下がりの食堂で、カイラは今日も品のあるメイド服に身を包んでいた。
トーマスはちなみに…と鞄からタブロイドを取り出すと、カイラに手渡した。
それを一読してカイラは目を丸くした。
『まあ…ほんと‼まるで立派な悪役令嬢みたい…!』
『…私も、悪のドクロ紳士として書かれています。』
カイラはタブロイドをしげしげと眺めてぽつりと言った。
『これだけのことができたなら、レットも苦労しないんでしょうね…』
『本当に。』
トーマスも頷いた。
☆
『まず、目を見るんだ。』
今日もミネはスカーレットに喧嘩の仕方…ではなく、挨拶の仕方を教えていた。
その横で、オリヴィエとイルハンがくるくると手を取り合って踊っている。
スカーレットは居心地悪そうに目をそらした。
そんな光景を見守っていたカイラは、ゆっくりとスカーレットに近づくと、横にならび、肩に手をおいた。
『相手の方の目を見るのが難しいときは、ぼんやりと額や鼻の辺りをみればいいんじゃないかしら?少し目を細めて、微笑みながらそうすれば、ほとんど相手の顔なんて見えないわ。』
スカーレットの顔と高さを合わせてカイラはミネをみた。
『はたからみれば、ちゃんと視線があっているように見えるでしょう?』
スカーレットはこわごわ二人を見比べた。
『…オオー。』
そういいつつも、一歩後ずさり、カイラの後ろに回ろうとする。
そのよこで、双子のダンスは激しさを増していく。
イルハがオリバーをリフトしたり
オリバーがピンヒールをはいているのに
ありえない角度までのけぞったりしている。
『…オオー…。』
スカーレットは感嘆をあげつつも、そちらからも距離をとった。
☆
『どーしたの?すか~れっと。』
スカーレットが屋上でヤンキーらしく地べたに座り込みながらぼんやりしていると
水筒とバスケットをもったアスランがやってきた。
『ちぃーす。』
スカーレットは、そっと身を寄せたらっしーをモフモフとかきまぜならがらため息をついた。
『ピクニックシートとブランケットもってきたから、この上にすわりなよ。』
アスランは、背中に背負った敷物をおろすとくるくると広げた。
『さんきゅ。』
スカーレットはもぞもぞと移動した。
『はい。暖かいお茶。ハチミツとミルクもいる?
』
『んきゅ。』
『スコーンもあるよ。クリームとイチゴジャムも。サンドイッチとチキンとポテトフライも。』
『きゅ。』
スカーレットはアスランにすすめられるがままにがつがつと食べ始めた。
アスランはスカーレットが食べるのを見守りながら、らっしーのボールを二つ出して、お水とおやつをいれた。
それから自身もサンドイッチに手をつけた。




