第17話 まにんげんの、くらしかた。
たったらったたったたったらったらったたったたー
まるろくまるまるじ、きしょう
スカーレットはラッパの音にはっと目を覚ますと
手早く着替え、靴をはき、中庭に駆け出した。
☆
さて。
一日のスタートとは、いつだろうか。
スカーレットが空を見上げると、輝かしい太陽が金の光を放っていた。
そう。
人は生き物である。
睡眠、食事、運動、生物としての機能を維持する上でこの三点は欠かせない。
では。
令嬢とは、なんだろうか。
上流階級の女子に生まれたら、そうなのだろうか?
レディとは、なんだろうか。
まっとうに振る舞える、一人前の女性のことではないだろうか。
女性が生きていくためには、何が必要であろうか。
『まずは、筋肉だ。』
そういい放ったミネルバの均整のとれた立ち姿は、まるで彫刻のようだった。
『敬礼!』
ざっ。
中庭に集まった、境界領駐留軍の一同は、一糸乱れぬ動きで敬礼をした。
☆
いちよんまるまるじ
午前の労働を終え、昼食を済ませたあと、
スカーレットは会議室Aに呼ばれた。
『こちらが、スカーレットの令嬢修行に力を貸してくださることになった、ミネルバ様です。』
カイラは今日もメイド服だ。
『ごきげんよう。スカーレット。』
ミネルバはよく響く声で快活に挨拶をした。
がっしりとした骨格、日に焼けた褐色の肌、
そして無駄のない美しい筋肉に彩られていた。
『お、おう。』
スカーレットは、謎の威圧感を感じて後ずさった。
『ようし、スカーレット。
まず、はじめに1つものにすべきことがある。』
ミネルバはずいっと一歩前に出た。
ちょうどスカーレットが後ずさった分である。
『まず、かっちり目を合わせるんだ。
ほら、見てみろ。』
ミネルバは少しかがむとスカーレットの目をのぞきこんだ。
『うへっ』
スカーレットはまた一歩後ずさった。
『相手のことを認識するんだ。』
ミネルバはまた一歩前に出た。
『それで、挨拶するんだよ。
はじめまして、でも、ごきげんよう、でも、こんにちは、でも、なんでもいい。』
『お、おう。』
スカーレットはまた一歩下がろうとしたが、
途中で壁に背中がついてしまった。
『そうじゃないと、わからないだろう?』
ミネルバは、壁にドンッと手をついた。
『敵じゃないってさ。』
逃げ場を失ったスカーレットは、恐怖のあまり、ちびりそうだった。
『はいはい、ハラスメントはやめてくださいよー。』
間に入ったのは、何故だかドレスを着ているオリバーだった。
『すまない。調子にのった。』
ぱっと離れると、ミネルバはすぐに謝罪した。
『本日は、ミネねーさまとスカーレット顔合わせですからねー。圧力のかけ方は、また別の機会に。
あと、スカーレット。ミネルバ様にごあいさつをなさいー。』
『お、…ご、ごきげんよう…ですわ?』
『ごきげんよう。先程は怖い思いをさせてすまなかった。ミネルバだ。よろしく。』
ミネルバはそういうと、きれいなカーテンシーを披露した。
スカートははいていなかったけど。
スカーレットは、さっとカイラの後ろに隠れた。
『あらあら。スカーレットは恥ずかしがりやさんですね。』
カイラはころころと笑うと、スカーレットをくっつけたまま、続けた。
『ミネルバ様には、主に、体術を指南していただく予定です。大型帆船を素手で沈めるのかお得意だそうですが、今回は護身術と美容体操、ダンスをメインに教えてくださるそうです。
…どうしたんですか?スカーレット。』
『…アニキのアニキのアネゴなのか?』
『…まあ、そうですねぇー』
オリバーはうなずいた。
『姐さん?』
『ええ、珍しく、ニュアンスもあってるかもー。』
オリバーは嬉しそうにくるくる回ると、スカートをふんわりさせた。
『そして、今日は私のことも、オリヴィエお姉様とよんで下さいねー。
レイリークとダンスをするために、女性パートを覚えるんですっ。』
『へ、へぇ…』
いつもと違うオリバーのテンションに、スカーレットは戸惑いを隠せなかった。




