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第14話 小さいおじさんが見えるようになりました。


『ねぇ、あの人、大丈夫かしら。』


ランチタイムが一段落した夕暮れ時、

杖をついた小柄な初老の男性が来店した。


なんとも陰鬱な雰囲気をまとい、

思い詰めた顔つきをしている。


注文したコーヒーを前に、微動だにしない。


『ここは、オリバーの魔法喫茶。

異界のさまよえる魂が集う場所。

訳有りの魂なんて珍しくないだろ。』


歌うように答えたのは料理長のクーだ。


『まあそうなんだけど…。

異界のさまよえる魂というよりは…。』


カイラは小さくため息をついた。

そして、こそこそと逃げ出そうとしている新入りを捕まえて指示を出した。


『スカーレット、どこへいくの。手が空いてるならランチメニューを下げてちょうだい。』


スカーレットは、嫌がる犬猫のように、カイラの手をふりほどいて逃げようとする。


『え?ちょっと、大丈夫?』


あまりの必死さに、カイラがスカーレットの顔をのぞきこもうとしたとき、


件の男性客が、杖を取ろうとし、失敗し、それでもよろけながら立ち上がり、

椅子を倒してしまったけれど、

意外に力強い澄んだ声で叫んだのだ。


『スカーレット‼』


と。



ちょうど飲み物をもらいに来たシッキムは、その暁色の瞳を大きく見開いた。


『トーマス…?』


そんなシッキムの脇を、スカーレットが脱兎のごとく駆け抜けていった。


一方、初老の男性…トーマスも、ポカンと口をあけた。


『シッキムなのか…?』


よろけながら、テーブルと倒れた椅子の間から出ようとするトーマスにシッキムは駆け寄った。


『トーマスッ、トーマスなんだな?

相変わらずちっちゃいなあ…。

ああ、ちょっと動くなよ。椅子、戻すから…』


シッキムはトーマスの頭髪の乏しくなった頭をうりうりとなでると、膝をついて倒れた椅子を元に戻し、そこにトーマスを座らせた。


『シッキム、シッキム…。』


トーマスの涙ぐんだ瞳は

意外にも美しい曲線で構成されたエメラルドだった。



『ちくしょー‼』


うめいているスカーレットのとなりで

エディンも呻いた。


『シッキムー‼』


そんな二人を横目に見つつ、レイリークはオリバーとイルハンに問いかけた。


『あの方は…どなたですか?』


オリバーも、わざとらしく金色の疑問符を頭の上に浮かべて、首をかしげながらイルハンをみた。


イルハンはチラッとスカーレットをみてから

口を開いた。


『トーマス・ヒル。

スカーレットの父で、私を育ててくれました。

ヒル商会のトップです。

今回、ご提案いただいた件で相談したいと手紙を出したんですが…飛んできましたね。』


『やっぱり!』


声をあげたのはアスラだった。


『スカーレットに、似てると思ったの‼』


『ざけんなよ‼にてねーしッ』


『レット‼』


『おふざけんなよですわ!にてねーしですわよ‼』


オリバーとイルハンは、目頭を押さえて深くため息をついた。



『よければ、うちも手伝おう』


小さいおじさんは、馴れてくると、朗らかな人柄だった。


『だけど、1つ心配なんだ。』


暗い顔をしたのは、シッキムだった。


『金糸魔法って、…その…教えるのに、裸で密着しなくちゃいけないだろう?』


『『『!?』』』


テーブルに激震が走った。


『そんなこと、あるわけないじゃないですか。』


オリバーは、震える声で否定した。


『え、でも、ウィルフは…。…あ、なんでもない。』


シッキムは、カーッと耳まで赤く染めるとうつむいた。


『…その、パーパがどんな風に習ったのかは知りませんが…』


オリバーは、ふいに立ち上がると、別のテーブルでカードゲームをしているスカーレットとアスランの所に行った。


『ちょっと、手伝ってもらえますか?』


『わん‼』


返事をしたのはらっしーだった。



『…という感じに、

一定以上の魔法適正がある方になら

まず見てもらって、やり方を説明して、練習をすれば、簡単なことはすぐにできるようになるんです。

特に年齢や性別は関係有りません。

接触する必要もありません。』


30分ほどのレクチャーの後、

スカーレットとアスランは手から金色の団子のようなものを出せるようになっていた。


『ただ、意味を持たせようとすると、決まったパターンというか、シンボルというか、紋様が必要となります。

パーパの国では子供を守るために、沢山の紋様を刺繍した服をきせるでしょう?

あれと同じです。』


オリバーはそういうと、器用に空中に金色の糸でウサギの絵を描いた。


『イルハンのお城の図書室の奥の隠し部屋がまだあるならば、そこに沢山の図案があるはずです。

それを研究したら、おそらく新しい図案も作れるようになるでしょう。』


『図案を作る知識と、それに通すエネルギーの確保、それを組織的にやってほしいんです。

当面はわたしが用意したものでいくとして、

もっと良いものが作れるようになってほしいのです。』


『一子相伝とはいいながら、実際には流出しているはずなんです。それでも、広まらないのは、めんどくさいのと効率が悪いからなんですよ。』


オリバーはそういうと、すーっとしゃがみこんで、ぱたりと倒れた。














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