第10話 イケメンなのに、残念ですね
はたして、海辺で釣りざおをほったらかしたまま
うたた寝している男がいた。
なんだか疲れた顔をした中年の男だった。
レイリークはコンマ二秒で駆け寄ると、手首を触って脈をとりながら、耳を胸にあて心音を確認した。
胸は規則正しく上下しており、
呼吸も穏やかで、ただの昼寝にしか見えなかった。
遅れてきたイルハンもオリバーの脇にしゃがむと
ほっぺたをぴたぴたしつみたが
オリバーはピクリとも動かなかった。
『…寝てる夢をみること、あるよね。』
イルハンの言葉にレイリークはふるふると首をふった。
『…双子だからかな。』
イルハンの言葉にレイリークはふるふると首をふった。
『…おっさんだからかな。』
『…』
『否定、しないんだ。』
イルハンは深くため息をつくと、
大きくオリバーを揺すり動かした。
『兄さん、ほら、起きなよ。
起きたら起きたで、毎日毎日、新しいやっかいごとが待ってるもんな。
目が覚めなけりゃいいと思うことなんてしょっちゅうだ。
でも、こうしている間にも、スカーレットがアスランに悪影響を与えているかもしれないよ?
どうすんの。
眉毛とかそっちゃったら。
危ないクスリに手を出したら。』
『…あわ…あわ…』
オリバーはうなされた。
どうやら声は届いているようだ。
『だいたい、なんなんだよ。いつのまにか、あんな可愛い子供になつかれちゃって。
私なんか、スカーレットにおっさんよばわりされて。
スカーレットなんか、頭も眉毛もそっちゃって、
うんこずわりして、ちーすとかいってんだよ。
きっと、アスランもあいつの影響で反抗期になるよ。
パーパなんて呼んでもらえなくなるよ。
しねおっさんくせーんだよとか言われるんだよ。』
『ひっ…あわあわあわ…』
オリバーは眉間にシワを寄せた。
『ちょ、やめてくださいよ、イルハンさま。』
思わずレイリークは悪態をつくと、オリバーを守るように抱き抱えた。
『アスランだけじゃない。らっしーもちんびら犬になって、よだれ垂らして無駄吠えして誰彼構わず噛みつくようになる。
そんで、噛みつかれた人もみんな狂犬病のゾンビみたいになる』
『ぐはっ…』
『レイリークくんだって、ちんぴら騎士になるかもしれない。』
『り…りくが…』
『はっ!オリバーさま!』
『りくが…、ちんぴらに…』
『なりません!』
レイリークはオリバーの手を握り、耳元で厳かにささやいた。
『わたくしは、オリバー様の騎士です。
どんなやっかいごとも、ともに背負います。
すべてのものから、全霊をかけてお守りします。
つねに、ともにあります。』
『…』
『たから、わたくしのゆけないところに、にげないでください。』
そして、レイリークは…




