第1話 レットとよべでございますわ
『ああん?にーちゃんよー、なめてんじゃねーぞ、こら』
オリバーは、目の前にしゃがんでいる、髪の毛と眉毛を剃り上げた、頭の悪そうなチンピラをまじまじとみた。
深い深い森の中。
どんどん暗くなっていく夕暮れ時。
チンピラは涙と鼻水と涎でグシャグシャの顔で、精一杯ガンを飛ばしていた。
『なにみてんだ、こら』
オリバーは、ゆっくりと首を傾けた。
45度傾けても、チンピラはチンピラにしか見えなかった。
『…ええと、あなたがスカーレット?』
『その名前で呼ぶな、こら』
『ではなんと呼べば?』
『レットだこら』
『ではレット。あなたのご家族から手紙を預かっていませんか?』
『そういやおっさんからなんか預かったな。ほれ、これだ。』
『おっさん?』
オリバーはグシャグシャになった封筒から手紙を取り出すと、
とりあえず署名を確認した。
『兄上では?』
『おっさんにしかみえねーもん』
『そうですか…。』
オリバーはチンピラ…
スカーレットの前に膝をついて顔をのぞきこんだ。
『わたしの顔に、見覚えはありませんか?』
スカーレットの目はどう覗き込んでもどこか遠くをみているようだった。
そして、少しだけ考えるそぶりをみせたが、すぐに努力を放棄した。
『しらねー。』
『そうですか。』
オリバーはぐしゃぐしゃの手紙を手で伸ばすと
署名のところをスカーレットの前に差し出した。
『私はこの人の兄弟です』
『…アニキのアニキ?』
『まあ…、そうです。』
『てーと、オジキ?』
『ちがいます。』
『あー?』
『あなたがた兄妹の兄です。』
『うっそ!』
『本当です。』
『マジで?』
『本当です。』
『ぱねぇ』
『…わかりませんが、しばらくの間、あなたを預かります。
働いてもらいますから、まずはきちんとお話しなさい。令嬢らしく。最初から。でないとご飯出しませんよ。』
『…ったく、めんどくせーな。』
『できるはずですよ。』
『…あら、お兄様、おなめあそばすんじゃございませんわ、こら。』
『ああ…。』
『んだよ。そんな目でみんなら、やらせんなよ。』
『いえいえ、よくがんばりました。
とりあえずそれでいいので、ここにきたわけを話してください。』
『しらねーよでございますのよ』
『そうですか。わかりました。』
オリバーは自分の後ろで唖然としている幼児と犬を呼び寄せた。
『アスラン、らっしー、ご挨拶して。
びっくりだけど、ふたりのおばさんだよ。』
『っざけんな、だれがババアダ、こら』
『これは失礼。親戚のお姉さんですよ。』
『はじめまして、スカーレットさん。』
『わん‼』
『おう!世話になるぜ‼』
『レット!』
『ですわ。』