異世界に転生する前に大事なことを教えよう
「いいか童貞」
彼は目の前にいる気弱そうな男たちの前で宣言した。
「真のいい男は、突然のラッキースケベにもどうじない!」
「なんだってー!」
彼らは誰に言われたわけでもなく声をそろえてそう叫んだ。前世の記憶である「サブカルチャーのパロディ」が染み付いているからだろう。
「お前らはこれから意識を持って転生し、様々なチートで異世界を好き勝手に攻略し、ついでに女の子まで手にしちゃうことになるわけだが……」
その発言に前世では「キモオタ」としてののしられてきた彼らが息を呑む。全員運よくトラックにひかれて選ばれたやつばかりだ。不幸であることがが転生するための第一の基準なのだ。
「その間に何回か女子の裸をみたり、一歩手前まで不可抗力で進むこともある」
ラッキースケベに関してもある意味作為的だ。彼らは不幸なままに死んでしまっただけに、付け払いとして「ラッキーなこと」が起きているのだ。
「そこで、『うわ! 理性が! 理性がぁぁぁ!』とか言ってると。バリバリの童貞丸出しだ! この言葉こそ、お前らの童貞である証だったんだよ!」
「な、なんだってー!」
「心の中に留めたとしてもお前らの表情筋は欲望に忠実だ! それを美少女に見られてると思え!」
「なんだってー!」
「万が一、結構やり手タイプのヒロインだったとしたら目も当てられない! 『うわ童貞じゃん、プッww』って目で見られるのは確実!」
「うわぁー! (ヒロインの)目が! 目がぁー!」
彼らはどんな無茶振りでもパロディで返せる天性の感覚をもっているらしい。
「そういう時、いけてるヤツはこう言う! 『ごめんね、怪我はないかい?』。お前らが理性と戦ってる隙に欠かさずすばらしい笑顔でイケメンはそう言うぞ!」
「連邦軍のイケメンは化物か!?」
「そして迫られちゃったとき! お遊びで迫られてるのかガチなのか、見極めないと再度悲劇が起こる!」
「なん……だと……?」
これは少年向け週刊誌のほうである。
「だから気をつけろ! イケメンは上手く選別し『今じゃなくても、いいんじゃないかな』とかかっこいいことを言う! てめぇらはそこを目指すんだ!」
「そんなことが俺たちに……」
不安がる男たちに、彼は言った!
「できるできないじゃねぇ! やるんだよ!」
「応ッ!」
返事だけは男らしいのだった。
言いたいことは言ったのか男が彼らに背を向けると彼らの体がほのかに光りだす。
「最後に教えてください!」
「……なんだい?」
「あなた……一体……?」
「俺か? 俺は……しがない元、転生者だよ。あばよ元気でな!」
「……カッケー!」
光に包まれて彼らは消えていった。それぞれの世界でチートな日々を過ごすのだろう。
そんな彼らに、自分と同じ失敗をしてほしくないという、彼の願いは届いただろうか。
彼はふとダンディに笑った。
これを考えたのは活動報告を考えてるときでした(なぜその発想にいたったかは不明)。
異世界転生のときにオタクとイケメンだったらどう違うかを観点においた次第です。
大丈夫、世の中には残念イケメンってのがいる。(そうじゃない)