ギルドは今日も平和です
冒険者ギルドグレース支部。
私は今日も冒険者の皆さんと共に仕事をします。
「メルさん、この依頼の承認よろしく!」
「ランクC『泡沫草の採取』ですね。畏まりました。泡沫草の模様には幻惑作用がありますので、麻袋での納品となります」
「りょーかい。それじゃ行ってくるねー」
受付は今日も大忙しです。
折り畳みの机を使って、急遽二つ目の受付を作らなくてはいけないほどです。
王都に近いこの街は人の出入りも多く、冒険者への依頼も沢山舞い込みます。
「メルさん、これお願い」
「ランクD『王都までの護衛』ですね。畏まりました。出発は明後日の午後二時、南門前に集合となっております。食料はご持参下さい」
「他に何人受けたかわかる?」
「現在貴方様を含め二名、この依頼を受注しています」
「ありがと」
大忙し……のはずです。
……こんなに考え事をする時間があるのはおかしいですね。
それに、顔見知りしか私の列に来ないのは何故でしょうか?
セリアちゃんの方は何人も待っている人がいるのに、私にはたまにしか来ないのは……まずいですね。
クビにだけはされたくないので、こちらに誘導してみます。
「こちらの受付、現在空いてますよー」
「「「…………」」」
……目すらも合わせてくれません。
なんで誰も来てくれないんですか!?
この狐耳が駄目なんですか!?
尻尾が駄目なんですか!?
……うぅ。涙目になってしまいます。
「メルー、交代の時間だよー」
「……ネフィさぁん」
「どうしたの?また何かやらかした?」
「違います!いや、そうかもしれませんけど……とにかく!冒険者の皆さんが並んでくれないんですよー」
年上お姉さんのネフィさんに相談をしてみます。
ネフィさんは私自身とセリアちゃんの前の列を見た後に、私の頭を撫でてくれました。
「大丈夫。メルには何にも問題ないよ」
「じゃあ何で来てくれないんですかぁ」
「まあそれは……なんだ、男にも色々あるんだよ」
……はぐらかされました。余程言いにくいことみたいです。
あそこで突っ立っていても邪魔なので、ネフィさんに一言言った後に奥に引っ込みました。
ギルド長が紅茶を飲んで寛いでいるので、思いきって相談してみます。
「あのー、ギルド長」
「ん?どうしたメル。可愛くしても給料は増やさんぞ」
「今日はなんだか冒険者の皆さんが私の列に来てくれないのですが、どうしてか分かりませんか?」
「……ああ」
「分かるんですね!?どうしてですか!!」
ギルド長にまではぐらかさせはしません!
今後の仕事のためにも原因を知らなくてはいけません!
「今日は本部の抜き打ち監査があるからいつも以上に髪と尻尾の手入れはしましたし、服は新調しましたし、動作の一つ一つにも注意を払っているんですよ!なのに……」
「そう、それ。それが原因」
「……ほぇ?」
「多分列に並ばないのは最近来たやつか、初めてのやつだろ」
「そうです。この街に住んでる人はちゃんと並んでくれます」
「要するに、メルがいつも以上に綺麗だから声をかけにくいんだよ」
「き、綺麗なんてお世辞はいりませんよ!もう!!」
「メルはもう少しくずれた身なりの方がいいってことだ」
それは受付嬢としてどうなんでしょうか?
「とにかく、休憩のうちに服装から見直してみたらどうだ?」
「……分かりました。そうしてみます、と」
休憩時間が終わってしまいました。
少し髪をくずして受付へと戻ります。
「ギルド長、ありがとうございました!!」
「あ、ああ」
気合いも入れ直して頑張ります!
▲▽▲▽▲▽
数十分後。
「来ない……」
……はっ!?
まさかギルド長にまではぐらかされてましたか!?
「あのぅ、メルさん……」
「なぁに、セリアちゃん?」
「ひじょーに言いづらいことなんですけど……」
セリアちゃんありがとう!
その続きが知りたかったんです!
「大丈夫だから教えて。お願い」
「じゃあ……
……スカート、着忘れています!!ごめんなさい!」
はい……はい?
ちょっと待ってね、情報の整理ができてないから。
えーっと、スカートヲキワスレテイル、スカートヲハキワスレテイル……。
スカートを着忘れている。
ゆっくりと下半身を見てみました。
……。
ギルド内に、私の悲鳴が響き渡りました。
……ギルドは今日も平和です。
常連の人はドジッ子メルさん目当てなので動揺なんてしません。むしろごちそうさまです。
ネフィさんは流石に受付では言えないので濁しています。
ギルド長はさりげなく。時間が足りませんでしたが。
セリアちゃんはおどおどしながらもちゃんと言ってくれた偉い子です。ロリッ子イメージ。