嵐の前の静けさ
「そうか、俺は負けたのか」
治癒室に運ばれたヴェードは目を覚ますとそう呟いた。その表情は悔しさと嬉しいという気持ちが混ざっているように見えた。
もしかしてらヴェードも対等にやり合えて、王様という立場を気にしない相手が欲しかっただけだったのかもしれない。
「ルイス、ジンは強いぞ」
「わかっている」
「そうか。ならいい」
それだけ言ってヴェードは眠りについた。治癒魔法で回復したとしても流石に精神の疲労までは回復させる事が出来ないので当たり前なのだが。
そういう俺ももう限界が近い。
まだ日が高いが俺は宿に戻り明日に備えて寝る事にした。
『伝説の男』と呼ばれているジン。ヴェードも認める相手で明日は魔神と戦った時と同じぐらいの激戦になるだろう。
俺が勝つ可能性は客観的に見ても五分あるかどうかだと言える。それは今日の試合を見ればわかる通り圧倒的な経験不足によるものだ。
明日、武器は二刀を使う事にしよう。全力でやらなければ一瞬で負けるだろうから。
俺は明日の戦いのシュミレーションをしながら眠りについた。
昨日まで晴天だった空はどす黒い雲に覆われている。だと言うのに雨は降っておらず風も吹いていない。嵐の前の静けさというのはこういう事を言うのではないだろうか。
闘技場にはジンが待っている。
想像するだけで手足が震える。
これは武者震いだ。
俺はこれから戦う相手が強大でおそらく敵わない相手だと思っている。その事に恐怖はしていない。むしろ逆だ。自分より強大な存在だからこそ全力をぶつける事が出来るのだ。
俺は闘技場に一歩足を踏み入れる。
歓声は聞こえない。俺にはもう目の前の相手しか見えていない。
「正直ここまで来るとは思っていなかったよ」
「越えるべき存在が目の前にいるんだ。戦わずに負ける訳にはいかないだろ?」
「そりゃそうだな。で、ルイス君は本当に俺を超えられると思ってるのかな?」
「超えなきゃいけないんだよ。今後の為にも」
「復讐は何も生まない」
「えっ?」
「ルイス君。復讐の為だけに鍛えてきた君には絶対に負けない。俺が勝って証明してあげるよ」
「俺はもう二度と負ける訳にはいかない!やれるもんならやってみろ!!」
観客が静まり返る。
睨み合う二人の間に一筋の光が落ちる。
その落雷によって戦いの火蓋が切られた。
神様こんなの頼んでないよ(仮題)の方もよろしくお願いします。
感想、アドバイス待っています。