事後処理
「て、天龍」
「おいおい冗談じゃねぇぞ。何でこんな化け物を呼び出せるんだ」
「そんなの知らんわい!!」
「っ!取り敢えず結界を重ね掛けする。お前ら早く準備しろ!」
動揺するリシアとヴェード、それに自分が聞きたいと答えるアルバート、直ぐに冷静になり指示をするジン。慌てる知り合いの姿が視界の隅にうつる。
冷静でいられたのはSSランクである四人とルイスだけだった。視線を移動させると、猛者であるはずの他の参加者達は天龍の底知れぬ力に恐怖する姿。観客達は結界で守られていると分かっていても逃げる者、失神する者がうつる。
その中でも1番酷かったのは目の前のセリネールとフェニックスだった。セリネールは顔面蒼白に相応しい顔色に絶望と諦めが混ざった不思議な表情をして座り込んでいる。フェニックスは戦闘態勢を解き、捨てられた子犬の様にプルプルと震えている。その様子を見てやっぱり不味かったかとルイスは内心でため息を吐いた。
(試合が終わった後色々と問い詰められるだろうな。終わり次第逃げよう)
そう心の中で誓い目の前のセリネールをどうするか考えるのだった。
「あの……セリネールさん?」
「こいつを殺ればいいのか?」
「ひっ!」
目をギラギラさせながらそう呟く天龍を見て後退るセリネールとフェニックス。セリネール達には天龍の、声が聞こえて無いので突然天龍が唸ったように思えたのだろう。
「天ちゃんいらん事言わない!え、えっと……セ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私が悪かったわ。謝るから、何でもするから命だけは助けて下さい」
「……………」
「気を落とすな。もう我は帰るがいいよな」
「……すまん。ありがとうな」
そう言って天龍は帰って行った。
そこに居合わせた人々の全員が何も起きなかった事に安堵する。
そして一瞬の沈黙の後、誰かがポツリと呟いた。
「天龍と盟友って凄ぇ……」
その言葉をきっかけにざわめきが。それは次第に大きくなり、驚きや興奮が混じった大歓声に変わる。
「し、勝者レイミア選手!」
もうセリネールが戦えないと判断され、そう告げられると一層歓声が大きくなった。
(か、勘弁してくれよ)
ルイスはジン達の試合を観ずに全力疾走で闘技場を後にした。
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