目覚め
「ん……」
目を開けると、そこは見慣れない天井だった。俺が寝ているベットは肌触りが良く、高級品だとわかる。また、人界と天界の客間と同じ様な様式を見て、此処はアトランティスの客間だと特定した。
おそらく、今回の依頼の内容を知っている人物が俺の帰りを旅の扉の前で待っていると、俺が転移して戻って来た直後に倒れたので介抱と王様へ報告する為に城に運んだのだろう。
そこまでは推測出来る。だが、ベットに倒れ込む様な形で寝ているこの女……迷惑女に関しては理解出来なかった。
取り敢えず着替えるか。
そう思った所で俺の手が止まる。
何故俺は着替えているんだ?
俺が今着ている服は、魔神との戦いであちこちに穴が開き、血塗れになった筈の服では無く、見覚えのないキラキラ、ゴテゴテとした如何にも貴族ですと主張している服だった。
もし俺の服を着替えさせたのが迷惑女だったら…………これ以上は考えない様にしよう。
俺は宿屋で起こった出来事の数々を思い出し、その先を想像するのを止めた。これ以上想像するのは心臓に悪い。
頭を何度も振って切り替える。そして迷惑女に気付かれないようにそっと布団から出て王の間に向かった。
王の間の前にいた兵士は、俺を見るなり片膝をついて顔をふせたまま何度もお礼を言ってきた。
そうか……魔神との戦いですっかり忘れていたけど結果的に俺はこの国を救ったんだよな。
と今更実感している俺の目の前には未だに頭を下げている兵士が2人。
「顔を上げてくれないか?」
「そんな! 我々は国を守る筈の兵士なのに何も出来ませんでした。 それに対してあなたは、この国を見捨てるという選択肢もあった筈なのに果敢にも魔神に立ち向かい、国を救って下さいました。 この感謝の気持ちを伝えるには我々はこうして頭を下げる事しかできません!」
「お、おう」
この騒ぎに気付いて王の間から出てきた1人の兵士が、俺の横を走り去って行ったかと思うと、兵士を引き連れて戻って来た。
そして全員が俺に向かって2人の兵士と同じ体勢になる。
うわぁ……どうしようこれ。
人に頭を下げられるなんて前世でもこの世界でも中々無かった為戸惑いを隠せない。そんな俺の心情を露知らず未だ頭を下げ続ける兵士を目の前にして俺は覚悟を決めて口を開いた。
「お前らは一国とその民を守る為に存在する兵士でありながら、何一つ守る事が出来なかったクズだ」
「「「「「「「⁉︎」」」」」」」
「お前らはクズのままでいいと思うのか!」
「「「「「「「思いません!」」」」」」」
「声が小さい!」
「「「「「「「思いません!!!」」」」」」」
「よし。 お前らが強くなりたいのなら、数日だが俺がお前らを鍛えて、ただのクズから強いクズにしてやる」
「「「「「「「お願いします!!」」」」」」」
「じゃあ俺は今から王様とそれを含めた話をしてくるから、お前らは今すぐに職務に戻れ」
「「「「「「「はい!!!」」」」」」」
兵士達の怒号が止み、バタバタとそれぞれの職務に戻っていく。その兵士達の顔は何処か嬉しそうだ。
……また厄介事を抱え込んでしまった。
先程の発言に少し後悔し、溜め息をはきつつ俺は王の間へと歩を進めた。
次は王様と再び対面……
一体どんな要求をするのか……この後の事を考えると少し王様が可愛そうになってきました。
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