最終試験
俺達は今、魔物の群れに囲まれていた。
その数は数十、下手したら100を超えているかもしれない。
何故その様な事態になっているのか、それは迷惑女の最終試験の為であった。
一時は狂乱の女となった迷惑女の実力は、既に俺が依頼された内容に見合うだけのものとなっている。
精神が崩壊する程の厳しい特訓を乗り越えたと言える迷惑女は、実力面だけでなく、精神面でも大いに成長しているだろう。
そこらの魔物程度なら何の問題も無く倒せると言い切れる。だが、多対一はやらせた事がないので、最終試験と称して最後に経験を積ませておこうと思ったのだ。
そう考えた俺は、辺りから魔物をトレインしまくって集めた。
予想以上に集まってしまったが、まあ特に問題は無いだろう。
「これは流石に多過ぎるんじゃ……」
「何を弱音を吐いているんだ?集中しないと死ぬぞ」
迷惑女を殺そうと縦横無尽から攻撃してくる魔物を捌きながらそう弱音を吐いてくる迷惑女にはまだまだ余裕がありそうだ。
迫り来る攻撃を全て紙一重か薄皮1枚程度の損傷で躱して踊るように魔物を薙ぎ払っている。
俺は迷惑女のそんな姿を見ながら暇を持て余していた。
俺には魔物が近寄ってこない。
近寄ろうとして来た魔物に片っ端から威圧をしていたら、大人しく弱い方と判断された迷惑女に群がっていったのだ。
試験の為とは言え、非常につまらない。
戦闘中に相手を斬り殺す旅に幸せそうな笑顔を浮かべている迷惑女を眺めるしかやる事が無かった。
あの出来事以来、狂乱の女の一面は、日常では見なくなった。だが、完全に消え去った訳ではなく、戦闘になるとたまにその一面が姿を現すのだ。
俺は暇つぶしと修行を兼ねて魔術のより繊細なコントロールの練習をする事にする。
海中の水を使い水弾を幾つか作って、魔物に当たらない様にしながら迷惑女に放つ。
威力は弱めてあるから死ぬ事は無いだろうが、隙が出来た瞬間に魔物にやられるかもしれないなーと呑気に考えながら次々と水弾を放つ。
迷惑女は、死角から放たれる水弾を、魔物の攻撃を必死に避けながら魔物を斬り伏せている。先程に比べたら殲滅するスピードが大分落ちたが、まあ充分だろう。
これは最終試験は合格でいいかな。
そんな事を暫く続けていて、魔物の残りもあと20体程度に減ったところで俺の肌に鳥肌が立つ。
何処からか強大な魔力が放出された事が原因だ。迷惑女や魔物もその動きを止めており、魔物に至ってはブルブルと震えだした。
「緊急事態だ!急いで街に帰るぞ!」
震えながらも攻撃を仕掛けようとしていた魔物達を纏めて殲滅して迷惑女を担ぐ。
そして、瞬動の応用である水步を使って水中を駆け抜ける。
水步は結界魔法を一瞬だけ足元に発生させて、それを足場に移動する技だ。これと同じ様に空中に足場を作り出す天步も使える。
水步で駆け抜け、数十分後に街に辿り着いた俺達が目にしたものは、平和な美しい街などでは無く建物から火があがり、崩壊し、死者を抱いて泣き叫ぶ人達などがいるまさに地獄だった。
今回も短くてすいません。
次回は何故そうなったのかを明らかにしていこうと思います。
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