海人の冒険者
街と海の境界線。
俺はそこでボロボロになった装備を着替えていた。
見た目と反して強靭な防御力を誇る魔物の皮を使った装備で、動きの阻害にはならず、軽いので素早く動ける。
鎧という選択肢もあったが、海の中でわざわざそんなに重い装備を着る必要が無い。
そんな物を着ていたらすぐに海獣にやられてしまうだろう。
「空間」
着替えた後、顔の周りに空間を作る。
これで海の中でも呼吸が出来る。
それに顔しか囲って無いので、この魔法が泳ぎの邪魔になる事は無い。
「よしっ行くか」
そう気合いを入れて俺は海の中に入っていった。
海獣は思いの外すぐに見つかった。
いや、連れてこられたと言うべきか……
海獣を数匹引き連れた冒険者らしき格好をしている少女が物凄いスピードでこっちにやってくる。海でこんなにもスピードが出せるという事は海人だろう。
呑気にそんな事を考えていると、その少女が俺に向かって突進して来た。
俺は咄嗟に瞬動を使って回避しようとするが、水の中では瞬動は使えず、俺は敢え無く少女のタックルをまともに食らってしまう。
「たっ、助けてください!」
少女はそう言って俺の背後に回り込んで抱きついてくる。
柔らかな感触を背中に感じて少し顔が緩みそうになるが、迫ってくる海獣を見て気を引き締める。
そして撃退しようと両手首に付けられたステッカーから刀を取り出して構えようとするが、少女が邪魔で構える事が出来ない。
「おいっ、離せ!聞いてんのか⁉︎」
「…………」
(こいつ気絶してやがる)
海獣が牙で噛みつこうとして来るのを刀で受け止めて、身体強化を使って押し返す。
押し返したと思ったら、右から海獣がタックル、左からは尻尾で俺を凪ぎ払おうとしてくる。
俺は咄嗟に右手の刀をしまい、盾に持ち替えて自ら右の海獣にぶつかりに行く。
「くっ」
大きな衝撃が俺を襲い、右腕が痺れる。これで暫くは右腕が使う事が出来ない。
だが、海獣は容赦なく体勢を崩した俺に尻尾をぶち当てようとしてくる。
「風の球」
俺は風の球を発動させて無理矢理身体を捻る。そして動かない盾を持った右腕で尻尾による凪ぎ払いを受け止める。
その反動によって俺は背後に弾き飛ばされるが、水の抵抗により減速して海獣達と良いぐらいの距離が開く。
即座に海獣達は距離を詰めようと突進してくるが、一瞬だけ俺の方が速かった。
「渦潮」
風魔法のハリケーンを水中で使う事によって渦潮を発生させて海獣の足を止める。
対したダメージは与えられないが、充分な時間を稼ぐ事が出来た。
(一か八かだ!)
俺は魔力を全開にして意識を集中する。海獣が渦潮から抜け出し、怒りのまま俺に突っ込んで来るが、俺はまだ発動させない。
そして海獣の牙が俺の装備を貫き、身体を抉るその直前に魔法を発動させる。
「氷の世界」
俺は殆どの魔力を使って氷のオリジナル魔法を発動させる。
そして、その魔法により俺の目の前にいる海獣達は……いや、数十kmにわたる海が凍りついていた。
「流石に疲れたな……」
俺は魔力切れにより気絶しそうになる身体に鞭を打って、なんとか街に戻るのだった。




