海獣出現
目が覚めたのは数時間後の事だった。宿の外から喧騒が起こっていたせいで目が覚めてしまったのだ。
「ったくなんの騒ぎだよ」
そうぼやきながら下に降りると、受付の少女が慌ただしく動いていた。
その慌てっぷりに声を掛けるのを躊躇われたが、状況を把握しなければならない。
俺は少女に声を掛けた。
「一体何の騒ぎなんだ?」
「あっ、お客さん。すいません通して下さい!」
そう言って医療道具を手に二階へ駆けていく。まあ医療道具と言っても止血ぐらいしか出来ないだろうが……
「坊主、邪魔しちゃ駄目だ。今は一刻を争う事態が起きてるんだから」
「どういうことだ」
話を要約するとこういう事だった。
依頼を受けていた冒険者が突然現れた複数の海獣に遭遇しまった。
そのパーティは少しの隙を突いて何とか逃げ出したが、そのパーティの内の1人が大怪我を負ってしまい、1番近かったこの宿に運び込まれたというわけだ。
ちなみにその海獣については、直ぐに緊急討伐依頼が出されてAランクのパーティ複数が討伐に向かったらしい。
「なるほど。で、その怪我人はどの部屋にいるんだ?」
「確か1番奥の部屋だったような……っておい坊主何しに行くんだ!邪魔になるから此処にいてろ!」
「治療しに行くんだよ。治癒魔法が使えるからな」
「なっ……」
俺が治癒魔法を使えると言ったのが信じられないのか気のいいおっちゃんは目を丸くしていた。
「お客さん、なんで此処にいる「退け」きゃっ」
俺は少女を押し退けて怪我人の元に行く。
確かに大怪我だが、手遅れという訳でもなかった。これなら治癒魔法で治せる。
俺が治癒魔法を使うと、みるみるうちに男の傷が治っていく。
その光景を見て、少女は信じられないと驚いているが俺は気にせずにその部屋を後にする。
「えっ、あっあの……」
「さっきは悪かったな。少し出掛けてくるから飯と風呂は後でにしてくれ」
そう言って俺は宿を出た。
宿を出た後、俺は直ぐに冒険者ギルドに向かった。
ギルドの中は騒然としていて天界のギルドの2倍ぐらいうるさかった。
「お姉さん、依頼を受けたいんだけど…」
「あっ、すいません。今は緊急時なので普通の依頼は受けれないんですよ」
「いえ、俺が受けたい依頼は海獣の討伐依頼なんだ」
「えっ⁉︎」
受付のお姉さんが驚くとほぼ同時に周りの冒険者が一斉に笑い出す。
「プッ。お、おい。それ本気で言ってんのか?」
「そうだが」
俺がそう答えると更に笑い声が大きくなる。
そして周りから笑いを堪えながら次々と馬鹿にしたように話しかけてくる。
「今Aランクのパーティが討伐に行ってるから、もうこの依頼は片付いたも同然なんだ!」
「そ、それにお前が行っても一瞬で海獣の餌になるだけだ」
「ちなみにお前は何ランクなんだ?」
「Bランクだ」
「ぎゃはははは。俺よりランクが低い癖にソロで討伐に行こうって言うのか。馬鹿だ!こいつ本物の馬鹿だ!」
「Aランクなのに討伐に参加しなかった腰抜けに言われたくないな」
俺がそう言うと周りが静まり返る。
そのAランクの奴の顔を見ると青筋が出ている。拳を握りしめ、グラスを持っている手が震えて中身が溢れていた。怒りを堪えているのが目に見えてわかる。
「言ってくれんじゃねぇかガキが!」
遂に怒りを堪え切れなくなったのか男が立ち上がり俺に向けて拳を振るう。
だが、その拳は俺に当たることなくギルドに入ってきた青年の言葉によって俺の眼前で止められた。
「討伐に向かったパーティが全滅した!」
キリのいいところで終わる事にします。
人を馬鹿にするシーンって意外と難しいですね。思っている事が上手く表現出来ない……
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読んでくださりありがとうございました。




