孤独
「火弾」
俺に向かって飛んでくる無数の火の弾丸は俺に掠る事さえ許されず後方へと飛んでいく。
勿論そのままだと周りに被害が及ぶので結界を発動して守っておく。
「ま…まだです」
肩で息をしながら先程の倍ほどの火弾を叩き込んでくるが、結果は先程と変わらず1発も当たらない。
「もう諦めろ。その方が幸せに暮らせるはずだ」
「……っそんな事勝手に決めないで!炎帝」
火弾を避けきるとほぼ同時に飛んできた炎帝を紙一重で避ける。
何故この様な事になっているのか。
数時間前に遡る………
「おかえりなさいお兄ちゃん!」
「ただいま」
俺は泣きながら飛びついてくるラミアを優しく受け止める。
それにしてもラミアにまで心配を掛けていたのか。少し反省しなきゃな。
「お兄ちゃん?」
ラミアは俺をまじまじと見つめた後、少し不思議そうに顔を傾ける。
何かおかしなところでもあったのだろうか…
とりあえず普通に返事をしておこう。
「ん?どうしたんだラミア」
「雰囲気変わったね」
「修行したからな」
「……本当にそれだけ?何か隠し事して無い?」
「そんな事して無いよ。それよりラミアは修行上手くいっているのか?」
「うん。剣は駄目だったけど、魔術の方は才能があったみたいで、召喚魔法と特殊魔法以外は中級まで使えるようになったの!火魔法と水魔法については上級まで使えるの」
「そうか、それは凄いな」
俺はラミアの頭を撫でてやる。
5歳でそれだけ出来れば充分だろ。俺と比べればまだまだだが、俺は前世からの記憶があったりしたのである意味ズルしている。
そんな俺と比べること自体間違っていると思う。
そんな才能のある者を潰させる訳にはいかない。
「お兄ちゃん?」
「ラミア、今日はもう寝よう。流石に疲れた」
「うん。明日いっぱい話をしようね」
「そうだな………」
そうして俺は眠りにつく振りをしてラミアが寝静まるのを待った。
30分程過ぎるとラミアの方からスースーという寝息が聞こえてくる。
「寝たか」
俺は布団から抜け出し、忍び足で部屋を出る。その後も誰にも見つからないように王宮を出て旅の扉へと向かう。
だが、そこには居るはずの無い人がいた。
「やっぱり隠し事していたね」
「ラミア、なんで此処に?」
「お兄ちゃんが嘘をつく時に必ず前髪をかき上げるの。知らなかったでしょ?それで寝たふりをしたら案の定コソコソと出て行くから先回りしてみたの。
ねぇ、なんで連れて行ってくれ無いの?」
「ラミアが弱いからだ。俺との実力差があり過ぎる。此れからの旅は更に過酷になる。そうなった時にラミアが耐えられるとは思えないし、助ける余裕があるとも思えない」
「なにそれ。それ……本気で言ってるの?」
「本気だ」
「そんな事許すと思った?」
「思ってたらこっそりと抜け出したりしない」
「……そうだね。それじゃあ力尽くで認めさせるだけ!」
「わかった。俺に1発でも掠らせたら連れて行ってやる」
そして冒頭に戻る。
「これでもダメだっていうの⁉︎」
「といいながら氷棘で奇襲だろ?」
「……っ」
俺は足元に発生した氷棘を躱す。
魔力眼で見えているので次に何をしようとしているのか手に取るようにわかる。
ラミアの攻撃の手が止まる。
息も先程よりも更に荒くなっているという事は恐らく魔力切れが近いのだろう。
「……どうして、私達兄弟なのに。お父さんとお母さんがいなくなって………私にはお兄ちゃんだけが頼りなのに!!」
ラミアが涙を零す。
その姿を見ていると連れて行きたくなる。だが、俺は堪えなければいけない。
「ラミア、言うつもりは無かったが言うことにする」
「…………」
「俺たちは兄弟じゃ無い」
「えっ?」
「俺は捨てられているところを拾って貰った。だから俺とラミアは兄弟じゃないんだ」
「う、嘘よ」
「嘘じゃない本当だ」
「嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘。そんなの信じない!絶対に信じない!!」
「さよならラミア」
「いや、お兄ちゃん行かないでよ……」
「ごめんな」
「あっ……」
俺は瞬動でラミアに近づき首に手刀を叩き込んで気絶させる。
そして意識を失ったラミアを担いで王宮のベットに寝かせて枕元に杖を置いておく。
ラミアの母親であるミリアナの相棒であった杖を使いこなし、その名を世界に轟かせる様になった頃、俺が生きていることが出来たら迎えに行く事を誓い俺は天界を後にした。