番外編 part1
(けっ、なんでこんなクソガキに調理場を貸さなきゃいけないんだ)
20歳にして王様直々にスカウトされた天才料理人でありながら、ものの数ヶ月で料理長へと駆け上がり、数十年経った今でもその座を守り続けている料理長にとって今回の王様の命令は本当に不愉快だった。
だが、お世話になっている王様の命令に逆らう訳にはいかないという忠誠心。それに加えて、メイドや同じ調理場に立つ料理人達の説得により不本意だが渋々言う通りにするのを決めたのだ。
だが、料理長として調理場を使わせるにふさわしい腕前があるかどうか確かめなければいけなかったので、料理長は調理の様子を確かめることに決めた。
(なのになんでこんなことをやらされてんだ)
俺が我慢して気さくに振舞っているのに調子に乗ったのかわからないが、初対面なのにアイアンクローをしてきたり、タメ口で話してきたり、パシらされたりするのには納得がいかなかった。が、何故か逆らう事が出来ずに言われるがままに動いていたのだ。
それは見たことの無い調理法をするルイスの作る料理を見てみたいという料理人のプライドを刺激されたのだが、頭に血が上っている料理長は気付いてはいなかった。
(こいつ頭がおかしいのか?)
言われるがままに瓶を数個持ってきた料理長は、腐った穀物から出来たと思われるドロッとした固体をクソガキが舐めた事に驚き、引いたのだが、それはルイスの調理や完成した料理の品々を見ることで変わった。
見たこともしたこともない調理法を使い、次々と料理を完成していくが、1番注目するべきところはそこではない。
それはルイスの手捌きであった。一流の料理人となんら遜色のない…いや、それ以上に洗練された包丁捌き、調理法などは全くわからないが、全く無駄がないということだけは素人目にも理解出来る。
そうして完成した料理とは思えないほど美しく盛られた品々に完璧に調和された色合い。使われる食材は偏っておらず、バランスが良いと思われる。
匂いで食欲を掻き立て、味見として一口たべた途端、口いっぱいに広がり、想像以上に繊細でありながら細胞一つ一つに染み込んでいくかのような深い味わいがした。
勿論それらの料理はレイラや王様に喜ばれ、1ヶ月間和菓子や洋菓子、和食や洋食などを色々と作らされたということは言うまでもないだろう。
そして料理長は、未知の調味料を使い、未知の調理法をするルイスの事を無意識の内に尊敬し、料理を学ぶ事となるがそれはまたしばらく後のことである。




