堕落の洞窟
「もう大丈夫か?」
「はい、回復しました」
充分に寝て気持ち悪さも無くなっている。ラミアも回復したようだ。
…あれから十時間か、少しお腹が空いてきたな。ご飯を食べてからでも洞窟に入るのは遅くないだろう。
「レイラ、ご飯にしませんか?」
「そうだな。ちょっと待っていてくれ」
そう言うと、レイラは森の中に入って行った。もしかして森には美味しい食べ物があるのだろうか?
果物かな?キノコや肉なんかもありえるぞ。
ちょっと楽しみになってきた。
俺がソワソワしているとレイラがズルズルと何かを引きずりながら帰ってきた。
「帰ったぞ」
「…………」
レイラが引きずっていたのは、自分の三倍ほどの大きさの獣だった。
というか猪だった。
「あの、それって…」
「チャジルだ」
レイラ曰く、Cランクでスピードが速いが、突進しかしてこないので、討伐するのが簡単だそうだ。肉はとても美味しいらしい。
「火魔法で火をつけてくれないか?」
「あ、はい」
俺は木魔法で火をつけた。丸焼きにするそうなので、これくらいの火がちょうどいいと思う。
「…チャジル強そうだね」
「いや、こんなの雑魚だ」
レイラがズバッと切り捨てる。
堕落の洞窟にはBランクの魔物がウジャウジャと出現し、たまにAランクの魔物が出現する。
それに比べたら雑魚だろうが、俺達は魔物と戦うのは初めてだ。Cランクでも手こずるだろう……多分。
「ほら、焼けたぞ」
そう言ってホクホクの肉を差し出してくる。いい感じの色をしていてとても美味しそうだ。
上手に焼けましたーっていつ感じだな。
「いただきまーす」
ラミアが肉にかぶりつき、モグモグとよく噛んで、何も言わずにもう一度かぶりついた。
言葉も出ないほど美味しいのか?
そう思い肉にかぶりつく。
「…………」
「どうだ、美味しいだろ」
「正直不味いです」
「バカな」
不味いと言われない自信があったのか、レイラさんはとてもショックを受けている。
ラミアも不味くはないと少し驚いているようだ。
あれ?俺がおかしいのか?まあ仕方が無いか。俺には前世の記憶があり、どうしても比べてしまうのだ。
肉汁が溢れ出てくることもないし、筋っぽくて少し硬いからどうしても美味しいとは思えない。
だが、ショックを受けているレイラを見ていると流石に可哀想になってきた。
「レイラ、王宮に戻ったら美味しいものを作ってあげます」
「お兄ちゃん料理出来たの⁉︎」
「ああ、まあな」
日本でもアメリカでも何回も料理をしていたし、教えてもらったこともある。
インターネットをみて作ったりもしていたので、だいたいの料理は作れる。
「ルイスは私を満足させることが出来るのか?」
「材料さえあれば…」
ていうか、味覚音痴に何を作っても美味しく感じるだろうな。
「わかった。楽しみにしている」
「はい。それじゃあ今から食後の運動にひと暴れしますか」
俺達は昼飯を済ませて洞窟へと入った。
"光球"
俺が動くと後を追ってくるように魔法を構築したものだ。おかげで何事も無く進むことが出来る。
本来は攻撃技なのだが、応用次第ではこのような使い方も出来る。研究の余地アリだな。
「凄いな、私が知る中では、魔法をそのように使えるのは数人しかいないぞ」
「いや、レイラの方が凄いよ」
先程からチラホラと出てくる魔物をかすり傷一つ負わず殆ど一人で倒している。
正直俺達が来る必要はなかったかもしれない。レイラ一人だけで魔物を倒し、何事も無く四階まで進んだ。
だけど、流石に疲労が溜まっていたので、一度五階に進む前に休憩することにした。
「妙だな」
休憩中レイラがポツリと呟いた。
「え?」
「こんな洞窟なら腕の立つ冒険者が死ぬはずがない」
「ということは……」
「おそらくボスが強いか、それかここから先に本当に危険な魔物が出てくるということだな。装備を確認しておけ」
「お兄ちゃんお願い」
「わかった」
俺はラミアから預かった銃を確認し、弾を補充する。何も異常のないことを確認してからラミアに渡した。
「何だそれは」
「銃というものです」
俺はレイラに説明するが、レイラは口を開けてポカンとしていた。
「君には驚かされるよ。そんな武器、誰も思いつかない」
まあ、俺が考えたわけじゃないんだけどね。
そんな感じで雑談をしていたが、いつまでもここで話しているわけにはいかない。そう思っていたら、レイラが、立ち上がった。
「そろそろ行こう」
「わかった」
俺達は改めて気を引き締めて五階へと進んだ。
そこは何もない空間だった。
魔物一体もいず、学校一つが建ちそうなほど大きな正方形の部屋がそこにあった。
「……なんだここ」
「動くな‼︎」
俺が一歩前に踏み出そうとした時、レイラの声が部屋に響き、俺の目の前をレイラが振るった剣が通った。
「ギュアアアア」
何をするんだ。そう言おうとしたが、魔物の悲鳴が響き渡り何も言うことが出来なかった。
そして、悲鳴が合図だったかのように何もないはずの空間から次々と魔物が現れた。
その数は百体以上いる。モンスターハウスだ。
「なっ⁈」
「罠だ。何かしらの方法で私達に幻を見せていたんだ」
「じゃあなぜレイラはわかったんですか?」
「溢れ出る殺気を気づかないなんてあり得ないよ。そんなことより背中を頼む」
「わかりました。ラミアは俺とレイラの間に入って、俺達に当たらないように援護してくれ。俺とレイラは各個撃破で」
「うん」「任せろ」
「補充魔法 力速さ(スピード)解放」
ラミアが俺とレイラに補充魔法をかける。
レイラはそれを上手く生かし、全くない動きで次々と撃破している。
だが、俺は撃破出来ていなかった。ラミアも隙を狙って銃を撃っているが、Bランクの魔物のスケルトンや、Aランクの魔物であるミラーネやアンテッドナイトの高ランクの魔物には通用せず、見てからよけられている。
今、俺達はレイラの背中を守っているだけに過ぎない。
足手まといとは言えないが、役に立っているとも言えない状況だ。
「ルイス、ラミア、お前達はその程度なのか」
くそっわかってるよ。けどさっきから魔法が当たらないだよ。
俺はどうすればいいんだ?牽制しか出来ないのか?
心を読んだかのようにレイラが答えた。
「それでもレイナルドの子供か‼︎強い相手とどうやって戦うのか考えなかったのか‼︎」
強い相手……アランさんやあの将軍?まあいいや、あいつは置いておこう。
アランさんとはどうやって戦った?
数少ない戦いの記憶を呼び起こし、考えていると、頭の中でカチッと何かがはまったような音がした。
視野が広がっていく。気づかないうちに相当慌てていたんだな。
俺はフッと笑って剣を構えた。